剣術の決着
私の剣は、技を磨くに従って変則化というか、変幻の剣となっていった。右手、左手、順手、逆手、どこから剣が出てくるのか相手に悟らせない。ちなみに、私は右利きでも左利きでもない、両効きだ。幼いころから、右を使うか左を使うかは気分による。
競技では加速の技禁止としたが、持ち替えの際、無意識に重力操作や加速を使ってしまっているようなのだ。さすがに、これは勘弁してもらうことにしている。なので、相手から見た私の剣は右にあったかと思えば、突然、左に現れたりする。
ここまでは実戦と同じ剣使いだが、競技では剣を後ろでに握る。すなわち、相手から見えないところに構えることにしている。そこから、スッと動いて相手を「斬る」。数秒で片が付くということだ、決勝までの二人は、一撃で胴を斬られた。
さて、決勝。おおーー。ジェディー君、ちゃんと勝ち上がってきたようだ。一礼をして対峙する。震えるまではいかないが、顔色が真っ青だ。緊張しすぎだろう。ここまで来れたというのは、それなりの実力はあるようだが、こんな状態だと、勝つことは難しいのではないか?
会場の観衆の中にはあの事件を目撃した人もいる。もちろん、噂は噂を呼び、どこまで尾鰭がついたかは知らないが、アレを知らぬ人は学園中にはいないだろう。会場は異様な雰囲気に包まれた。観衆が水を打ったように鎮まりかえる。皆、固唾を吞んで勝負の行方を見守っている。
覚悟を決めるしかないだろう。私は、いつものごとく、変幻自在の剣を容赦無く振るわせてもらう。一撃で、斬った! アレ? ハズ? アレ?。あっ、幻体魔法? しまった。私以外は魔法可だったんだ。あ、後ろを振り返ると、彼が斬り込んで来るのが見えた、思わず全力で剣で彼の胴を払う。
しまった! うわぁ〜ダメだ。幻体を斬ったことで動揺してしまい、無意識に加速の技を使っていたようだ。だから、彼が後ろから斬りかかるのが見えたんだ。彼の胴を斬った木刀が粉々に弾け飛ぶ。
ふぅ。助かった! 木刀が砕けてくれたことで、私は腕を骨折するのを免れた。舐めていて、私自身は強化魔法をかけてもらっていなかったのだ。彼はもちろん、強化魔法をかけているので無傷のはずだ。
「勝負有り! 勝者、ルナ!」
ああ、これはダメだ。正直に言わないと。
「今の勝負。私の負けです」
「えっ?」
審判員が不審な目で私を見る。
「彼の幻体に動揺し、自ら科した魔法不可の反則を犯してしまいました。ですので、私の反則負けです。木刀が粉々になったのは魔法によるものです」
審判員はこれを聞き。審判団での審議に入ったが、私の主張通り、ジェディーの勝ちということになった。彼は何も言わなかった。言えなかった? 大きく私に礼をして競技場を去っていった。あの目。謝意を映しているようにも見えたし、わりとまともだった。学園長の言うのように、それほど酷いヤツでもないのかもしれない。
思いっきり善意に考えれば、アレは本当に兄弟を傷つける気がなかったのに、普段粋がっている関係で引っ込みがつかなくなったとも言える。私が「仲裁」して助かったと。うーーん、さすがに、この世界の人の標準が前世と違ってもそこまでは、ないかなぁ〜。
負けてしまったが、気の重い勝負を終えたからか、彼が思ったほど酷くないと悟ったからか、少し気が軽くなったようだ。夕食は例によってシーフードパスタを二人前。ガツガツ行けた。
「もう、嫌になっちゃう。ナニ、あのオタクども。ミチコをあんなに応援したのに、なんで、私のコスプレには反応しないのよ」
「なに? アレ、ルナの前世の何か、なん?」
「ええ。前世ではロリコン御用達アイテムなんだけど」
「ああ、こちらの世界では、ミチコさんのように、大人の女性の人気が高いかと」
「おい。エドム、昼間から、妙に絡むじゃないか? ええ、どうせ、私は、おこちゃま、幼児体型ですお。そのうち、そのうちにだ、この胸も大きく育つんだからな。いいか。間違っても君には胸の谷間を見せてやらんぞ」
「あのぉ〜。そこまで、僕たち、女性に興味がなくて……」
「クソ。このやろ。うーーん。悔しいぃぃ」
「ルナ。お酒も飲まないで酔ってるの?」
「ああ、まぁね。言ったでしょ。ジェディーのこと。大人の仕事を終えて気が楽になったら、なんだかハイになっただけ」
「ああ、そういうことか」
もちろん、学園長との会話はパーティのみんなに話してある。忌憚なく思った事を述べ合い、隠し事もしなくていい仲間がいる。今、本当に私は幸せだ。でも、今日は疲れた。早めに寝よう。
なんだかんだ言いながら、「丸く収まる」というのも、悪い気はしないのだけど。え、妙にハイだって? うーーん。このころは特にね。いろいろ、とても楽しかった。
三度目の下書き見直しが完了しました。加筆もしてしまったので、最終的に33万字ボリュームになりました。うーーん。それでも誤字を完全になくすには至っていない模様です。
えと、前回の後書きでも、匂わせましたが、年末あたりの連載部分から少し雲行きが怪しくなります。ですが、初っ端、プロローグで敢えてネタバレさせているように、ルナは、どうやら天寿を全うできるようです。ご安心ください。




