体術の競技
夕刻前に表彰式が行われた。エドムとジャムは、あの少女と一位を分け合うことになった。メダルという考え方はこの世界にはないようだ。小さなクリスタル製の記念品。特別な魔道具でもないただの置物だ。まぁ、学校の大会なのだから、その程度の物なのだろう。恒例となっている五人での夕食時。
「いやぁ〜。すごっかったなぁ。魔法でアレをやるとはなぁ」
いつもリベカは明るい。
「ルナさんのアドバイスが、とてもありがたかったですよ!」
とエドム。
「射程が正確になったのはルナのアドバイスなんや!」
「いやいや」
と言いつつ、ちょっと誇らしい。私は少し解説した。
「アドバイスしたのは、弱体系の魔法を習っていて気づいたこと。攻撃系の魔法は、自分の下に魔法陣が描かれるから『飛ばしている』と勘違いしがち。だけど、魔法陣やエフェクトはあくまで、私たちがそう見えているだけ。極論すればフェイクだわ。魔法は、その対象物に対して行使されるという点は、全てに共通」
「その理屈でいくと、弱体、攻撃、治癒系はええとして。私のバードアイや、ルナの加速、飛空技は?」
「多分、多分だけど。私の前世の記憶からいえば、私たちが使っている、というか、無意識に我が物としているのは、魔法というよりアビリティという表現が近いかもしれない。自己強化系。でも、自分で自分に魔法をかけていると思えば、原理は同じかな」
「でも、優勝とはなぁ〜。出来過ぎです。明日のお三方の活躍を楽しみにしております」
兄の方がそつない。
「アドバイスはしたけれど、言うは易く行うは難し。イメージを描けったって、言葉では尽くせない部分がたくさんあるはず。二人の努力の結果よ。あと、魔力の絞る工夫は、コロンブスの卵ねぇ」
「コロンブス?」
「ああ、前世の記憶か。コレ。簡単に見えるけど、大きな発想の転換がなけば成しえなかかったこと、くらいの意味。エドムとジャムには、まだ、前世のこと話してなかったっけ?」
「はい。そのように思いますが、私たちの国では転生者が存在するというのは、半ば、常識として語られておりますよ」
「このユーロ連邦では変人扱いされる可能性があり、ルナさんも黙っていたのでしょうけど、大丈夫ですよ。おいおい、いろいろ聞かせてください。前世のこと」
「ありがと。そう言ってもらえると気楽だわ。で、さん、はなしよ」
そうかもしれない。魔法というものが現実に存在する世界での中途半端は神秘主義に対する懐疑論。むしろ、このユーロ連邦の方が例外なのかもしれない。
そして翌日。五月晴れによく晴れた日の午前が、体術のトーナメント戦だ。出場可能な競技がない場合も考慮して競技大会は強制参加でもない。トーナメント参加者は十五人。四回勝てば優勝ということだ。人数と組み合わせの関係もあるだろうが、シードは一人。リベカが一回戦を免除されていた。
同じパーティということの配慮だろう。当たるとすれば、ミチコとリベカの決勝となる。ミチコはさすがに、シードでないようで、一回戦からということになる。私に比べれば、体は丈夫といえるミチコだが、細身の体型。あまり語りたがらないので、進捗は聞いていないのだが、怪我だけはしないでほしい。
と、その時は思っていた。だが、ミチコ、内緒にしていたのは、自信があったから? 大会で、サプライズをということのようだった。強いのだ、とてつもなく。
一回戦は立派な体格に男性とだった。ムキムキのヘラクレスタイプ。私にとっては、超苦手、ご遠慮したい男性の典型だ。汗臭さがここまで臭ってきそうで、ゲ●吐きそう。ミチコとの身長差は二十センチはあるだろう。向き合う彼女は子供のようだ。
午後の剣術を含めて、今日の大会は屋内の闘技場で開催される。縦三十メートル、横二十メートルくらいか。バスケットボールコート大の大きさの闘技スペースが五メートルほどの壁が囲み。その上を観客席がぐるりと取り囲む。
競技は、体術で習う技をメインに使う、総合格闘技といったルールだ。打撃、蹴り、投げなんでもありでの立ち技勝負。相手が仰向けに倒れると負け。尻餅をついたり、床に肩や背中が触れても勝負有り。勝負判定は、お相撲に近いけど、優勢勝ちもある。
打撃もある訳で、KOもあり得るが、身体強化魔法を双方かけることにより、骨折などの怪我を防止する安全策がとられている。競技場が一つしかなく午前中で終了という時間の関係もあって、十五分ごとに一試合。十分一ラウンド制となっている。
女の子が好きということと、男性が苦手ということを一緒くたにするのは、偏見だと思うけど、私については、あのタイプは苦手。かな。
ということで、ミチコさん、意外にやるのです。だから逆に……、という展開が、ずっとずっと先で。




