重力の魔法
家族には黙っていたが、思い出してしまった悪魔との契約からすると、私が、この御伽噺の主人公である点は疑いの余地のないことのようだ。前世のパーソナリティも手伝って、状況を冷静に分析してみた。すると、私のこれからの採るべき道は自ずと明らかになった。
この世界は、未だ男尊女卑の伝統も強く、亜人への差別も存在する。女で「エルフ」である私が家督を継ぐことなどあり得ないだろう。その点は、弟のデビッドも承知している。貴族の娘は他の貴族との政略結婚の具である場合がほとんどだ。だが、異常な魔力を持った亜人など嫁にする男がいるとは思えない。
独立して一人で生きていく道を探るのが上作だろう。幸いこの世界にも冒険者という制度が存在する。冒険者とはRPGによくある職業に近いが、ここでの冒険者ギルドは全世界的組織。すべての国家から独立し、独自の権力を持っている。
冒険者になるには、この国で唯一の魔法の学び舎、セヘル魔法学園に入るのが近道だ。魔法学園に入学できる下限の十五歳になったら、家を出て王都近くの学園寮に身を寄せるのが無難な選択だろう。
それからの日々、私はディアボロスに聞いたことを思い出しながら、魔法の使い方を自習しはじめた。あの悪魔がなぜ「俺」を選んだのかは何となく分かる。専門ではないが私は「現代人」として一般相対性理論程度は聞き齧っている。重力を操ることで時空に歪みができ……ということなのだが、悪魔の弁によれば、アインシュタインも全て、すなわち、魔法も含めた物理法則は分かっていたわけではないらしい。
ヤツが言うには、私たちが認識している宇宙は複数ある中の一つでしかないらしい。パラレルワールドということだが、SFでよくあるものとは少し違う。複数の宇宙=異世界が、ヤツがいうところの神界に浮かんでいるイメージらしい。しかも、神界に浮かぶ宇宙群は、一つ二つと離散的に数え上げられるものでもなく、相互が微妙に重なり合い混じり合った連続的なものらしい。なので便宜上「パラレル」と表記するが、「平行」という意味合いのない「絡み合った」世界だ。
厳密には神界宇宙連続体とでも表現すればいいだろうか。一般相対性理論は本当の意味で「一般」ではないということなのだろう。ここから先は私も理解はできないのだが、ヤツのいう重力、私が操れる魔法は、この神界へ行使されるもので、魔法全般についても同様ということらしい。要は、アインシュタインは、魔法の存在を知らなかったとも言える。
当然だが神界へ魔法を使えば、今、私がいる宇宙=世界への影響がある。結果として、私はこの世界の時空を少しだけ操れることになる。時空を操るって、具体的に何かできるかって? それはね。
まず、私の力の応用編は素速く動けること。「加速の技」と命名した。もっとも、力を行使すると自分が速くなっているのではなく、周りがスローモーションで動いているように見えるだけ、なんだけど。
二つ目は、浮かんで空を飛べること。ただ、これはそれなりに制約がある。光の速度までならいくらでも速く飛べるし、空間を操作しているわけで風圧もない。だが、速過ぎると方向感覚を失うし、そもそも時間の経ち方に無視できない変化を及ぼす。せいぜい、道が見えるくらいの高空に上がり、経路を見失わないように飛ぶという程度だ。
さらにもう一つ。三つ目。物への重力を操って目的の物を「消す」という技だ。この技は、ディアボロスにも警告されたのだが、調整にとても神経を使う。強い重力場を作って、それが暴走すれば、最悪、宇宙が崩壊の切っ掛けを作ってしまうらしい。魔法的なブラックホールをイメージすれば分かりやすいだろうか。小さな木の実を「消す」ところから始めたが、この力は限定的な使用でもかなり恐ろしいことに使えそうだ。
三つという言い方をしてしまったが、さらなる、制約がある。というべきかな? 私からすれば必然というか。当然なのだけど。これらの力は全て「同じ魔法」。すなわち、神界に対する重力干渉、現実世界での重力とは異なる概念だが、似たものという意味で重力と呼ばせてほしい、を行うことで時空の歪み、これも便宜上の言い方だが、を生み、現実世界に何らかの現象を起こしている、と考えると分かりやすいだろうか?
うん? ますます分からん? あ・な・た。頭悪いわね。現出している現象は違うけれど、同じ魔法という点に注意よ。そう。同じ魔法なのだから、同時には使えない。加速しながら空を飛んだり、空を飛びながら何かを「消す」ということはできないってこと。わかったかな?
ちょっと長い解説回だけど我慢しなさいよ。だって、この物語自体が超長いから。今後は、できるだけ物語の中で説明するようにするけどさ。
えと、中の人得意の嘘八百回でもあります。リアルワールドは「四次元の世界」といわれていますが、もし、魔法があったら? ここでは、神界とか魔法空間みたいな言い方をしますが、それを加えて五次元かも? みたいな発想です。
も一つ。パラレルワールドは言葉の通り並行(平行)世界ですが、実はグラデーションみたいに相互が微妙に関連しあい絡みあってるのでは? というのが次の思いつき。なので、この世界は、私たちの世界とピッタリ一致する共通点があったり、全然違ったり、ということの論拠となっています。
あと、ルナの魔法には、またまた制約があります。「同じ魔法なので同時に使えない」という点です。今後、意外に使い勝手が悪いことになってきます。
それとぉ〜。どこかに似たようなこと書いた気がしますが。「フルーツバスケット 」観て、友人に「アレって、ロバート・E.ハワードの『英雄コナンシリーズ』だよね?」と言うと。私のぶっ飛びについてけないと。だって「ヒロイン・本田透がいかに素晴らしい女の子か? を描くストーリーじゃん!」
本編もルナがいかに凄い女の子か? を描く物語でもあります。「なろう」の中では珍しくもないかもしれないですが、テレビ放映されるような有名作品では、女の子が「最強」というのは、私はあまり知りません。セーラームーンは、タキシード仮面の力を借りますし、新サクラ大戦も村雨白秋、強過ぎ。
そういう意味でのアンチテーゼを示すつもりなんですが、ルナ自身、お嬢様育ちであることには違いなく、恋愛についてはド素人ですし、十五歳の年齢を勘案しても幼い。前世から引き続き、外面は繕うけど、精神面のコア部分は超脆弱って感じです。