火魔法の技術
兄弟も確実に十点を記録。五十点満点で首位に並び、ひとまず前半戦終了。魔法競技の後は、弓術が行われた。リベカが出場しない競技は、かなり、混戦となっていたようだ。
さて。さて。さて。運動会? の常。お昼のお弁当の時間だ。ちゃんと五人、全員分を私が、私がっよっ!! 準備したのっ!
あーー。またサンドイッチなのだけど。例のサーディンサンドだ。まぁ、鰯を焼いて、挟むだけなんだけどね。
え? そうよ。お肉を口にできない分、食べ過ぎで体中生臭くならないか心配なくらい好きよ。お魚。でも、みんな用にハムとタマゴのも準備したわ。
今日のミチコは飲み物担当。準備したのはルイボスティー。ちゃんと氷魔法がかかったボトルに入れて、冷たくて、今の季節にはありがたい。
リベカが準備してくれたのは、鳥の唐揚げとフライドポテト。プチトマトを添えたグリーンサラダもついている。唐揚げなんて、なんか運動会っぽい?
エドムとジャムもちゃんと料理を作れるようだ。なんと、なんと、お菓子? ええええ! セモリナ粉を使ったケーキだ。バニラとレモンのよい香りがする。シロップ多めでちょっと甘過ぎるのは、彼らの国の伝統だろう。
てか。甘すぎるという評価は前世の記憶かもしれない。ノルデンラードのお菓子もかなり甘い。この世界では、甘さは正義な気もしないではない。そもそも、前世、日本のお菓子が「適切な」甘さだったてことかな? アメリカ製だったかしら。歯が溶け出しそうなチョコを食べたことがあるわ。
お昼は、木陰にシートを敷いていただいた。ちなみに、私は直射日光に対してはかなり弱い。ノルデンラードでは、そう気にならなかったが、学園くらい南の地で、この時期の紫外線。対策をしなけば、肌に水膨れができてしまうかもしれない。
念のため、日焼け止めファンデもするのだけど、この世界には、もっと凄いものもある。闇属性の魔導石を嵌めこむピアスがUVをカットではなく吸収してくれる。この種の魔道具は、ペンダントタイプ、チョーカータイプなど様々だが、ほとんど目立たない黒くて小さなピアスは邪魔にならなくて使い勝手がいい。
なので、左耳に二つ目の穴を開けることにした。UV吸収ピアスは小さな魔導石一つで一シーズンもつのだが、人の領域では貴重な闇の魔導石。お値段はそれなりのものだ。
お昼のお弁当が終わって、午後の部。魔法競技は弓術と同様にクレー射撃方式。総合点で順位が決まる。これは、兄弟は苦手だろう。
兄弟が午前の競技で見せた「連射」は、一つの魔法単位で行われるものだ。魔法のクレー射撃の場合、クレーが飛ぶのは十秒おき、連射できている時間内では、一つしか落とせないはず。次が来るまでのリキャストとキャスト時間が間に合わない。
学園長が兄弟に「競技会で優勝できるくらいに」と言ったのには意味がある。この競技は後々冒険者となる者にとって、重要な技術習得も含んでいるということだ。攻撃魔法というのは、とても強力だが、実戦ではキャスト、リキャスト時間が命取りとなるケースも多々ある。
多数のガーディアンに囲まれた状況を想定すれば分かるだろう。全てを一気に倒せなければ、次の魔法を詠唱している間に、やられてしまうということだ。私とリベカが敵を引きつけ、ミチコの防御魔法があるというパーティ構成は、彼らにとって好適ではあるが、私たちがいつも一緒に行動できるとも限らない。
キャスト時間の克服は、冒険者として彼らが一人前になれるか否かの試金石となるはずだ。不得意であるのは事実だろうが、連射以外にもなんらかの対策とその修練は積んでいるのではないか? と思ったら、その通りだった。
例の少女が満点で射撃を終えた後に、エドムとジャムの番が回ってきた。
ああ、なるほど!!
簡単なことなのだが、今まで気付けなかったというべきか。コロンブスの卵のような、素晴らしい創意工夫だった。彼らの魔法にキャスト時間がかかるのは、エドムからジャムに魔力強化が伝わるまでのタイムラグが長いということでもある。魔法の威力を絞ればいいのだ!!
クレーを落とすぐらいなら小さな炎で十分だ。彼らは正確に十秒単位で魔法を打ち続けていた。この技法の習得は、彼らの今後にとって、とても有益なことだろう。
今時ということでもなく昔からあったかな。運動会のお昼は教室でという学校。いろいろ事情はあるのだろうけど、外でご飯を食べると、とても美味しく感じる。もちろん、私に仲間バイアスがあるのだろうけど。これを書いている時からすると、悠久とも言える時が流れたのだけど、今でも鮮明に覚えている。小さな、些細な、思い出の数々、それらが、今の私を「生かしている」と思っているわ。
セモリナ粉のお菓子は、エジプト風という意味です。
UVカット魔道具とかあると便利だなぁ〜と。でも、コレ少しだけ伏線です。ルナは本来、森に暮らすエルフですし、体も強くないですから、暑さには弱いです。




