闇魔法の講師
特別な目的を持った旅行ではない。三人で熱海の温泉に行ったというに過ぎない。だが、私にとっは、今までに経験したことのない友人との触れ合いだったし、この数日は、今後の怒涛の人生を鑑みるに、束の間の平穏な日々として、今も私の心に印象深く残っている。
再び海路で戻るために、港へ行くと、あっ! ニゲル。別名をクリスマスローズという。薄いピンク色と白の花が咲いていた。
季節は冬。花が少ないこともあるが、火龍以来のゴタゴタで心に余裕がなくなっていた気もする。花が目に止まるのは、久々に気持ちが落ち着いてきた証左だろう。一本、手折って、コレクションに加えることにした。
その夜、別荘に戻り一泊、翌日は三人連れ立って馬で学園に戻ることにした。ミチコはあのアイアンハートを乗りこなせていたので、私とリベカ用に新しい馬を管理人夫婦が手配していてくれていた。
私には、乗馬は得意なので、少し難しい馬か、青毛の去勢馬。気が荒そうに見えるが足は速いらしい。毛の色が少し紫がかって見えるからだろう、リーラヴィントという名だった。
アレ? この世界、英語主体のハズなのに、ドイツ語も昔は使われていたのだろうか? 所々に、欧米の各言語の名残があるようだ。
リベカには栗毛の牝馬。リーラとは父が同じとのことなので、兄妹ということになるだろうか。ローゼヴィント。赤っぽい毛並みなので赤兎を期待したが、残念ながら、この世界に三国志はない。リベカも乗馬はなかなかの上級者だが、こちらはおとなしく扱い易い馬のようだ。
三人で走ると、どうしても私の馬が先に行ってしまう。もぅ。
「少しゆっくりね」
言葉にしてみた。馬が言葉を理解することはないが、語気を感じることは可能なのだろう。ましてや、動物は人と違って勘が鋭い。クロスペンダントで隠していても、私の魔力の強さが分かっているに違いない。次の瞬間、リーラはとても従順になった。
アイアンハートもミチコ一人だけを乗せているのなら、バテることはないようだ。夕刻に三人は学園寮に到着していた。あらら、帰省から戻っていたのだろう。エドムとジャムが馬の足音を聞きつけて、玄関まで迎えに出てくれていた。
「おかえりなさい」
「ちょっと、お久しぶりって感じですね。温泉はゆっくりできましたか?」
こういう時、一言多いジャムは社交的だ。
「久々にお食事といいたいところですが、その前に、学園長がお呼びです。私たち五人にお話があると」
ああ、そうだった。明日から春の講義が始まってしまう。ちょっと、ゆっくりし過ぎたか。
私たちは馬を厩に預け、荷物を下ろすのも早々に学園長室に急いだ。
「今、よろしいでしょうか?」
「入りなさい」
「はい」
「ああ、御三方、お休みは今日までですが、もう少し早めに帰って来てくださいね」
いきなり釘を刺された。ううう。で、ふと見ると、学園長の横には、年の頃なら二十歳を少し回ったくらいか。黒いショートの髪、黒い目、東洋人? それにしては彫りが深く、色が白い。瞳も黒っぽいが、微妙な赤がかかった黒緋と表現すればいいだろうか。何か不思議な感じのする女性が座っていた。
「今後、気を付けるように。ま、いいでしょう。皆さんの明日からについてです。まず、講義は変わらず受けていただきますが、実技についてです。ジャムさん、エドムさん」
「はい」
「あなた方には、専任のコーチを付けます。大変な威力の魔法を持つお二人ですが、キャスト時間が長く、照準が不正確です。この二つを課題として、春の競技会で優勝を狙えるくらいになってください」
競技会というのは、運動会? みたいなものだ。学園の生徒が得意な分野でその実技成果を競い合う。攻撃魔法部門は弓道のような標的当てとクレイ射撃のような競技だったと思う。
「リベカさんとミチコさん、リベカさんは弓術・剣術、ミチコさんはプリーストとして実技で習うことはもうないと判断しました。二年生になったらお二人には臨時講師をお願いするかもしれないレベルです。ですので、お二人には体術を学んでいただきます」
「え?」
ミチコが意外な顔をした。体術はRPG風に言えば武闘家技、格闘技ということになる。寝技はなく、立ち技系総合格闘技で、サンボのような投げ技のあるK-1くらいに考えておけばいいだろう。リベカは武芸百般として、体術を学べというのは首肯できる。だが、ミチコは、あまり得意ではないと思うのだが。
「貴女はプリーストとして優秀ですが、自分の身を守る程度の技は覚えておいた方がいいと思うのです。いつもルナさんやリベカさんが側にいるとは限りません。それに、貴女の体幹はしっかりしているようにみえます。体術くらいなら十分にこなせると思います。ルナさんと違って」
さ、最後の一言は余計よね!
「分かりました。確かに、常にルナやリベカに守られるのではなく、という主旨は理解しました。頑張ってみます!」
「あははは」
「ルナさん、貴女にも体術を学んでほしいのですが、怪我をされても困ります。もう少し、基礎体力をつけてからにしましょう。ですが、貴女にも朗報がありますよ。闇属性魔法の講師が見つかったのです」
「えええ!!」
そもそも、魔法というのは魔力が発現した時、それぞれ無意識に会得しているもの。学園では潜在的な能力を伸ばす、という実技が主となっている。だが、かなり難しいが、同じ属性の魔法なら学ぶことも可能ではある。もちろんRPGのようにスクロールを読めばOKというような簡単なものではない。
講師について、その魔法のイメージを上手い具合に頭に描けるに至れば、後天的な魔法習得もできる。難易度は非常に高いが、学園長は私の魔法の才の方は高く評価してくれているようだ。
学生なんだからぁ〜。なんだけど。社会人なら十時集合は九時四十五分のことよね。
みんな、とても優秀なので、どう技を磨くか?です。それと、学園生活なので「運動会」を出してみました。てか、中の人の事、知ってる人は分かりますよね? K-1と来てますから、例によって……。
明日、一人、主要メンバー追加となります!!
★★ 前回分(53部分)を下書きからコピペする際、一部が抜けました。2020年10月22日のお昼前より以前に53部分を読まれた方は、少しだけ最後に追加があります。よろしかったらご覧ください。★★




