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シュウマツの窓辺に白百合を〜異世界に「あたし最強!」で転生したのだけど、前世のヨメがいた  作者: 里井雪
王都の休日

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前世のこと

 温泉は三人並んで、リベカはわざと真ん中に入った。


「なぁ、ルナ、この間、言うてた前世の話。ちょっとしてくれるか?」


「ああ、そうね」


 満天の星空の下、私は前世の物語を語り始めた。単にストーリーを語ったのではない。物質文明と魔法文明の相違。そもそも物質文明とはいかなるものかという点も解説した。そのあたりを論理的に語っておくことは重要だと思った。リベカは、先日、話してくれたように、転生という超常現象は受け入れてくれるだろう。


 だが、飛行機が空を飛び、五百メートルを超える摩天楼がそびえ立つ世界。もう何十年も前に月に人が降り立った世界。たった一発で大都市を灰塵に変える武器がある世界……。


 そんな文明を前提もなしに話したとして、あり得ない夢物語と思われて、当然だろう。だから、私は、リベカへの説明は、物質文明と魔法文明の根本的な差異から、積み上げるという方式を思いついたのだ。


 話は湯から上がって、寝床に入っても続き、気がつけば空が白んでいた。


「以前ストーリーは聞いたのだけど、改めて物質文明の説明を聞くと。奇々怪々というか、理解しがたい部分も多いわね。魔法のない世界は、何となく持つ者と持たざる者との格差が大きい気がするの。こちらより、争い事も多いことでしょう? なんとなく殺伐としているのは分かる気もする」


「そうやなぁ〜。逆を言うたら、魔法というものが、いかにありがたいものか、よう分かるということやな」


「うん。環境汚染なども含め、魔法を物質で代替するには、大きな代償が必要ということでもあるの。でも、話してて思ったのだけど、私がこの世界に来た意味」


「来た意味??」


「エルフの里で聞いたのだけど、この百年ほど、エルフなど魔法的な存在は生まれなくなっているらしいわ」


「え? それは? もしかして、魔法が消えつつあることを示唆していると?」


「それに加えて、火龍事件、何か関係がありそうかもな」


「そう思うの。私は世界の終焉を防ぐためだけに呼ばれただけではなく、魔法のない世界に、それを代替する手段を伝えるために来たのかも」


 起きている事の全てではなくとも、いくばくかは、悪魔が意図したことなのだろう。だから、ヤツ、ディアボロスが人族に、親切に振舞う訳がない。これは、私自身の決意のようなものかもしれないが。


「そういうことも考えられるわね。なら、少しずつ、物質文明の研究もしていかないと」


「そやな。冒険者として剣を振るい弓を射るだけやなくて、そういうアカデミックなアプローチも必要やな。よっしゃ。ああ、もう朝や。朝ごはん食べたら昼寝でもしょうか?」


 海が近いこともあってこの宿ではお魚中心メニューとなっている。とてもありがたい。リベカの提案通り、少し仮眠して今度は宿の外の温泉に入ることにした。小学生みたいに、水着の上にワンピを羽織って、街に繰り出し、土産物を探しながら、露天風呂へ。


 このあたりの名所となっている。白い棚田状の段差があり、一つ一つが真っ青な湯で満たされている。上から見ると、白と青の色の対比が鮮やか。すばらしい。自然の絵筆に人智は及ばぬということなのだろう。


 温泉につかりながら。ふと。


「そう言えば、リベカの恋話、聞いたことないわ」


とミチコ。


「ああ、募集中や。昔、好きな人もいたけど、私、あんまり女の子らしいないからなぁ〜」


「そのグラマラスな体で良く言うわ」


 ミチコは遠慮がない。


「そらあかん。体目当ての男はロクなヤツおらんからな」


「ああ、それはそうかもね。美人は意外に男にもてない。寄ってくるヤツはクズばかり。気をつけた方がいいかかもね」


「気に障ったらごめん。それ、ミチコの経験談やろ?」


「クズに当たったのは本当。でも、もう、忘れたわ。こちらの人が忘れさせてくれた」


 またぁ〜。自分が美人か否かについてはコメントをはぐらかした。少なくとも私は、ミチコやリベカを美しいと思うし、やや黄色味を帯びたきめ細かい肌も、褐色に輝く肌も自分にはない健康的、いや、人間味かな、を感じさせ、羨ましいと感じる。女性へのステレオタイプな賛辞。「肌が白い」は褒め言葉とも限らないと思っているのだ。


 ただ、この感覚には恋愛、友情バイアスがかかっていることは明白だ。もちろん、私は女の子が好きということもあって、男性の目を強く意識することはない。だから、「私のお友達とっても可愛いの♪」というような「女らしい嫌らしさ」も持ち合わせてはいない。


 でも。でもね。誤解しないで欲しい。この種のカマトトを忌避しているわけではないし、そういう女の(したた)かさに、同性としての敵意を抱いているわけでもない。むしろ逆。その意気や良しと感じている。自分にない「女子力がある人」として評価もしているのだ。


 話が少し逸れた。美醜については、私自身の例が分かりやすいだろう。自分で言うのもなんだが、客観的にみて、私は神の造形の悪戯ともいえる姿かもしれない。


 恋人や友人は私を綺麗だと言ってくれる。だが、私の人外オーラがあまりに強いために「不気味」と感じる人も多いようだ。


 すなわち、美醜などというものは、人の感じ方次第。合理性のある概念ではない。極論すれば、会話や文書のために便宜上ある架空のものにすぎない。この種の概念を言葉先行で一人歩きさせてしまうのはバカバカしいと感じる。


 御託を並べてしまったが、私はこの二人を最高に大切に思っている。その感情は私の脳に干渉し、彼女らを世界一の美女と認識させているということだ。


「ルナ。まだ入ったばっかりでのぼせてるんか? 可愛いなぁ〜。私も宗旨替えしとうなるわ」


「ダメよ。ルナは渡さない」


「もぅ。いいから。いいから。ね。リベカにもいい人現れるわよ、きっと。私たちがついてるから、クズは掴ませない!」


「そうね。ある意味、競合関係になり得ない私たちなのだから、公正なアドバイスができるかも」


「ああ、期待してるわ」


 そういえば、何気なく使ってはいるが、女子力なる言葉も美人以上に曖昧模糊たる概念だ。だが、私たちなりの女子トークができたということではないだろうか?

 「あたし、バカだから」とわざと無知を装う女性はいる。でも、私はね。それは、広く女性の強さだと思ってる。つまらないマウント欲求を操作されている男が、本当のバカってこと。


 中の人の友人に女子大の講師をしている人がいます。IT系のことを教えているのですが、AIのシンギュラリティの話をしたら、すわ!ターミネーターの未来がっ!、みたいな感じで、過剰に恐れられてしまったので、今年はカリキュラムから外したとか。


 一般女性の感性って、やはり男性では理解できない部分はあるのでしょう。ですが、私は真っ直ぐに強い女性が好きです。ルナは、スリーサイズを聞くようなセクハラ受けたら「まず、アンタのチ●コのサイズ言ってみろ!」くらい、言い返しそうです。てか、ずっと先ですが、そういうシーンも書きました。


 リアルそうはいかないのでしょうけど……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 53/53 ・ああー。魔法が無くなるの悲しいですね。 [気になる点] 満点の星空…文法がどうとか言われていましたが、いい表現ですよね。 [一言] 肌が白い、で思い出しました。最近のブーム…
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