温泉への小旅行
この間、ミチコはリベカに乗馬を習っていたようだ。リベカは活動的な性格ということもあり、乗馬は私より遥かに熟達していた。
それに、あのアイアンハートという馬。元軍馬に似合わずおとなしく優しい馬らしく、初心者の訓練にはもってこいということのようだった。ミチコは飲み込みも早かったのだろう。わずか数日でなんとか形になる程度には乗りこなしていた。
で、冬休みが終わる数日前。いよいよ温泉へ向かって出発ということになった。別荘から船着場までは、歩いても行ける距離なので、連れ立ってぶらぶらと。潮の匂いがしてきたら港はもうそこ。温泉行き船の停泊場はすぐに見つかった。
波穏やかな内海だから、待っていたのは小型船。船長十メートルくらいで、屋根はあるが、大きめのボート、屋形船といったくらいの大きさだ。
お昼ご飯を買い込んで乗り込む。まぁ、やっぱり、私はサーディンサンドにした。
船は、風属性の魔導石による駆動とのことだが、帆はなくスクリューを回して進む方式で船足はかなり速いらしい。熱機関というものが存在しないこの世界だが、魔法動力というものは排出ガスを一切出すことはない。考えてみれば、この世界に環境汚染というものは存在しないということになる。
季節柄、海風は少々冷たいが、穏やかな内海の航海は快適だった。日が沈むころ船はプルサの港にゆっくりと入っていった。ここまで来ると、火山の影響もあって、冬でも暖かい日が多い。宿について、夕食を済ませて、もう暗くなってはいるが、早々に温泉に入ることにした。宿はこの地方独特の石造りの伝統的な建物だ。
温泉は、ねぇ〜。露天風呂なのだよ。ねぇ。そこの君。期待した? したでしょ? でも、残念でしたぁ。
この世界にも水着というものが存在するんだなぁ〜。当然の帰結ということかもしれないが、石油加工という概念がない世界に、ポリエステルやポリウレタンも存在しない。その代わりに魔法がある。本来は伸縮しない自然素材で編まれた水着は、魔法の効果で肌にピッタリフィットし撥水効果も十分。
足が長くてモデル体型のリベカはレモン色のビキニ。圧倒されるようなスタイルだ。ミチコは、やっぱり青系が好き? なのかな。そう言えば色の好みを聞いたことがない。空色のビキニだがフリルが付いていておとなしい感じがする。痩せ型の彼女なのだが、うーーん、羨ましい。ちゃんと出るところは出ているようだ。
で、私なんだけどぉ〜。ちょっとウケを狙ってみた。だって、水着になってしまうとペッタンの幼児体型を隠すことができなくなるのだから。前世の記憶にあったアレをオーダーしてみたのだ。早々に、宿の露天風呂へ! 水着前提なので混浴だが、もう時間が遅いからだろうか人影はなかった。
「何? ルナの水着。地味というか濃紺? でも、白過ぎるルナの肌とのコントラストが眩しいかも。おとなしい形が逆にエロイ」
「ああ、ミチコさんに喜んでいただいて光栄ですわ」
そのあたりまで、余裕だったのだが。
「うん? ここどうなってるの?」
「ああ、そこは水抜きと言って。あああ、ダメ、手を突っ込んじゃぁ〜 ああああああ」
旧スクの水抜きから手を突っ込むとみせて、動揺した私の唇を軽く奪ったミチコ。もう、ダメだ。やりたい放題。
「やだ。リベカが見てるから」
「ええやん。別にキスくらいで驚かんでぇ〜」
「だから。イヤだって人前は」
「ふぅ〜ん。人が見てなければ何してもいいんだ?」
「いや、そうじゃなくて」
意地悪されて、動揺させられている自分。でも、この動揺は本音をいえば、嫌じゃない。妙に心がざわざわ波立って快楽へと続いていく。私はドMなのかもしれない。前世からの想い、女の子として彼女に一目惚れしたこと、諸所の事情が相まっているのだろうけれど。
彼女が好きで好きで堪らない。身も心も彼女に捧げたい。というか、もう私の全ては彼女のためだけにある。だから、ミチコに好きにされてしまうこと、彼女のモノ、彼女の所有物であることを強く意識させられることへの嫌悪感はない。むしろその逆だ。ちょっと自分が怖い。
「ミチコ、私はええけど、ルナはまだまだ初心者や。それくらいに、しといたり」
リベカがうまく助け舟を出してくれた。ふぅ、これで、ゆっくり温泉につかれる。「動揺」してしまった証はお湯に流れてしまうことだろう。
そ、そうよ。それは認めるわ。でも、多分、強過ぎる私の魔力の反作用だと思うの。
ルナは屈折はしているものの、本来、冗談も言える明るい性格です。ですが、いろいろあって。でも、だんだん、仲間に打ち解けて本来の姿?になってきたのかな。