王都の休日
とはいえ、せっかく女の子同士でショッピング。魔道具だけでは味気ない。服くらい買っても問題はないだろう。多分……だけど、流行の最先端を行っている王都に来たのだ。
引き続き三人でウインドショッピングすることにした。この間の事件で、ミチコの処置は手早く正確だったし、衣服に血は飛んでいなかったと思ったのだが、よくみると微妙な汚れがあったとか。
私ほど神経質ではない彼女だが、気になるので新しい服が欲しいと言っていた。歳のわりには大人に見えるミチコだからシックな装いが多い。でも。パステル系のライトブルーのAラインのワンピ。白い襟とハイウエストが「らしくない」可愛さだ。カラーも彼女好みなのだろう。もちろん、魔法があるので冬でも半袖。
「あら。ミチコ、珍しくない?」
「うーーん。ルナがいつもロリロリのを着てるから影響されたかな?」
「ゴスロリですぅ」
「なんや? それ? 聞いたことない符丁で話すのやめてくれる?」
「ああ、これは、極東の国の……」
「違うでしょ? ルナの前世の」
「ああ、もう。いいんだけど、リベカに気が触れたと思われたくないから」
「うん? 前世? ルナの前世か? 私の種族の伝承やと、人の魂は死んでもなくならず転生すると言われてる。前世の記憶やったら、小さい子供が、年齢から考えて知るはずもない知識があったとか聞いたことある。妙な合理主義はユーロ連邦の人の専売特許ちゃうか?」
「そうかもしれないわね。合理主義というより、人族優位主義? 自分たちが理解できないものへの怖れが足りないというか。傲慢なのかも」
「確かにそうかもしれない。リベカがそう言ってくれるのなら、前世のお話、今度するわね」
「楽しみにしてるわ。いずれにしても、ルナの桁違いの魔力みて、それ以上、驚く話なんか、ないと思うてる」
リベカは洋服はもう十分という。名物の伸びるアイスを買って食べ歩きながら、さらに、アクセサリーなども見たかったのだが、二人とも冒険者たることに頭が行っているようだ。結局、昼食は、まぁいいかぁ〜になり、まだ日は高いのに街を引き上げ別荘へ戻ることになってしまった。
うーーん。折角、女の子三人での冬休み。これで終わるにはちょっと物足りな過ぎる。帰る前の一遊び。私は船で行って二泊がけの温泉旅行を提案することにした。
プルサというここから内海を海路で一日の場所にある温泉で、朝船で出て、一泊、一日ゆっくりしてまた一泊、翌朝の船で夜戻るという行程だ。ふふ、DT諸氏! お楽しみ。温泉回だぜぇ〜。
とはいえ、文字というメディアの特性として、光で消ししつつ、で、あんなのやこんなのをお見せすることはできない。アレ? 私、誰に向かってものを言ってるのかしら?
大晦日から新年は別荘でゆっくりするとして、二泊三日で行って、戻って来て学園へ。ちょうど冬休みも終わるころになるだろう。
翌日、十二月三十一日。大晦日ということになる。体系だった宗教がないこの世界では年末にイエスの生誕を祝うでもなく、初詣に行くわけでもなく、比較的淡々と年が変わっていく。それは神話の世界、この世に魔法がもたらされた年を元年とした歴。二六九六年の年が明けた。
だけど、どこかの風習によく似たこともする。この国での新年は、鳥の肉を焼いたご馳走を食べるのが習慣となっている。ミチコ、リベカ、管理人夫婦はワインを飲み、ローストチキンを頬張っていたが、私はとても、とても。
縁起物だからということで、特別に用意してもらった、笹身を一切れかじって、あとはお野菜とお魚。ワインもこの間のブランデー一滴で酔ってしまうくらいなので、遠慮しておくことにした。
明けてしばらく、私は例によって読書の日々を過ごしていた。例によって、前世が懐かしい。どう「紛れ込んだ」のかは明確ではないけれど、日本文学はいい。こんな訳本も入ってきている。
今日は「源氏物語」の「若紫」。ペド野郎の光源氏が十三歳の紫の上と出会うところだ。前世知識の限界もあって、さすがに紫式部の原文は難しいので、与謝野源氏を読むことにした。
女の子なので当然でしょ? てか、そこの君。男に生まれたことを後悔するといいわ。魔法がある世界だし、ファッションも軽装が中心かな。
いろいろ、細かい日常イベントがあって、ルナが少しずつ、少しずつ、心を開いて明るくなって来ます。でも、「終末」からは逃れられない。むしろ、幸せを感じるほど、ギャップが苦しくなるような、そんな感じ。中の人的には「真綿で首絞め」のつもりなんですが、なんだか、普通に日常かも。




