家宝のペンダント
……ということがあったというのは、今さっき、思い出したんだけどね。人格という意味で、前世からの連続性は確かにある。十二年の間に私は新たなパーソナリティを形成し、前世のそれと今統合したというイメージだろう。記憶については、今生の記憶はリアルで生々しいが、前世のものはモノクロームで色がないように感じる。微妙に現実感が欠けているということだ。
だが、一つだけ、前世からの強い想いを引き継いでいる。記憶が蘇る前からも、何かは分からなかったが、心に引っかかるものがあった。悔恨の情。「妻を幸せにできなかった」という想いだけは今も心に爪痕を残し、鮮血を流し続けている。本当に、本当に、私はここで捲土重来のチャンスを得ることができるのだろうか?
悪魔との契約だ。チャンスと言っても、ずいぶんとアイロニカルな結末を迎えるに違いないのだろう。だが、それでもだ。これだけは、これだけは何としても……。
「ルナ、ルナ!、これを!」
奔流のような記憶と人格の再構築で目眩がしたが、ふと我にかえると、父の心配顔が見えた。家族全員が私の寝室に集まっている。ああ、ちなみにルナというのがこの世界での私の名前だ。
父が差し出したのは、シルバーのクロスペンダント。十字架というのは、こちらでも何か聖なるものを表すのかもしれない。中央には漆黒に輝く黒玉が埋め込まれている。
「我家に古くから伝わる家宝は、この日のためにあったのだな。宝石が肌に触れるようペンダントを着けるといい。お前から溢れ出る魔法を吸収してくれるはずだ」
「ありがとう。お父様」
私はペンダントを素肌に直接着けた。すると、あの横溢する魔法の発露は、嘘のようにピタリと収まり、感じられなくなった。
「この魔道具は、神界に魔力を戻す役割をするものだが、ある程度の魔力なら貯蔵できる。これだけの魔力があるお前には必要はないかもしれないが、魔力が尽きれば、そのペンダントに貯まったMPを使うこともできる。宝石を肌から離して手でペンダントの外側を包むようにすればいいだけだ」
父の説明はこういう意味だ。魔法は神界から来るものとされている。この魔道具は神界から来て溢れ出した分を吸収し、戻す役割を担うらしい。ただ、右から左に魔力を戻すのではなく、ダムのように、ある程度の量はストックしておき、貯蔵限界が来た時点で「放水」するような動きをするということのようだ。
父は、さらに、こう続けた。
「みんな、よいな。このことは、私が魔法実験を失敗し、突如、魔力が溢れ出したということにしておいてくれ」
これは父が私を庇う発言だ。これだけの魔力が溢れ出れば、近隣の民にも気づかれてしまう。そして、魔法が発現してしまうと、私の容姿には美し過ぎる以外にも大きな問題点があったのだ。
この世界での「黙示録」。終末を描く一節には、「終焉の時、天から白銀の髪、赤い瞳のエルフが御使として遣わされる」とある。私の普段の容姿はプラチナブロンドにエメラルドアイ。
だが、魔法が溢れ出ている状態だと、白銀のオーラが天を目指し、私の瞳はルビーに燃えてしまう。結果、ここで言うところの「御使」まんまだ。もちろん、いい大人が御伽噺を信じているわけでもないだろうが、私が、不吉な存在として、風評被害に遭わないとも限らない。
父は、そこまで見越して気遣ってくれたということだ。家族に対して「微妙な雰囲気」などと書いてしまったが、それは、私の一方的な僻みなのかもしれない。
毎日のリリース時間なんだけど、少し早めがいいかなと思って、20時〜 としてあげたわよ。これから毎日20時となるからね。
できれば、ヨハネの黙示録をもっとトレースしてみたかったのですが、天からの御使がラッパを……は、料理がちょっと難しいですね。それは、またいずれ、別作品にて。で、このアイテムですが、先々、いろいろ……。