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シュウマツの窓辺に白百合を〜異世界に「あたし最強!」で転生したのだけど、前世のヨメがいた  作者: 里井雪
終末の御使

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王宮での儀礼

 馬車の音を聞きつけて、もう深夜近いのに老夫婦が玄関先で迎えてくれた。二人とも黒い髪に青い目、ノルデンラードでよく目にする金髪ではない。彼らは、王都出身者ということのようだ。


「久しぶり。エル、ハンナ」


「お嬢様。ようこそ。もう遅いですが、簡単な夕食の準備ができております」


 荷物を置いて普段着に着替え、早々に食卓に行くと、私の好みを知っていてくれたのだろう。新鮮な海の幸が豊富な王都の名物料理が準備されていた。フランスパンに焼いたサバをサンドした、サーディンサンド。レモンと玉ねぎがサバの生臭さを消してくれる。ちゃんと、私の食べる量も配慮し二人分くらいのボリュームだ。


 かなり空腹だったので、ありがたい。瞬く間に私は老夫婦の心尽くしを平らげた。


「本当にお嬢様は健啖(けんたん)でいらっしゃる。細いお体のどこに入るのか不思議ですが、見ていてご健勝であるのがよく分かります。なによりかと」


 給仕をしてくれていたハンナが独り言のように呟いた。二年前に初めて会ったのだが、なぜか、私を気に入ってくれたようだ。


 このところの強行軍で、相当に疲れた。シャワーを浴びて髪を乾かし、ああ、これは魔法ね。寝床に就いた瞬間以降の記憶がないほどに熟睡した。


 翌朝、朝一番に港を出る船の汽笛の音で目が覚めた。まだ、六時くらいだと思うが、既に迎えの馬車が庭先に横付けされていた。全く、せっかちな王様。


 パンを咥えて走るわけにもいかない。そうできれば、王宮廊下の曲がり角で寓な出会いが待っているかもしれないが。馬車を待たせておいて、大急ぎで朝食のパンをコーヒーで流しこみ、乗り込んだ。


 髪のセットやお化粧が魔法で手早くできるのは、この世界のありがたいところだ。髪はいつものハーフアップだが、ドレスに合わせて空色のリボンで纏めることにした。お化粧もそう普段と変わらないが、リップを少し赤目にしてみた。


 そう言えば、今朝の馬車は少し豪華な作りで、役人も同行している。男性と狭いところに二人というのは、あまり嬉しくはないのだが、清潔感のある身なりをした若い役人だったので、我慢することにした。


 馬車は凱旋門を潜り、王宮前の広場に横付けされた。役人がエスコートしてくれて。ああ、もちろん、ロンググローブははめている。ドーム状の建物に続く階段を登り、正面の扉が開かれた。


えっ、おい、えっ!!! えええええええ!


 王座の大広間に続く緞子の絨毯が敷き詰められた廊下には、王宮の官僚がずらり並んでいた。


 奥の広間には、王侯貴族がぐるりと囲んでこちらを見ている。うーーーん。もうなるほうになれ。私は平静を装って。まぁ、何とかなったと思うのだが。優雅な足取りで広間に進んだ。役人だと思った青年は、どうやら、王族の一人だったようだ。王の前まで私をエスコートすると、玉座の階段を上がり、王の横に立った。


 玉座は三百年前の対魔族戦勝を記念して作られたと言われている立派なのものだ。黄金の(The Golden)玉座(THrone)という名前だが、純金ではなく鍍金のようだ。さすがに金属製ということもあり、座り心地は、あまりよくないように思うのだが。硬い玉座でお尻が痛かったわけでもないだろうが、王は、私を認めるとすぐ玉座から立ち上がった。


 私は典礼にのっとり、スカートを摘んで挨拶をしたのち、その場に立て膝をし、頭を下げた。


「ノルデンラード辺境伯が娘ルナでございます。本日は、王自らの拝謁を賜り恐縮至極に存じます」


「表をあげよ。その美しい顔を見せてくれぬか? かしこまらずともよい。本日、ルナ殿(Lady Luna)に与えるものは、単なる勲章ではない。『同盟』の証じゃ!」


 王は私に敬称、Ladyを付けて呼んだ。異例のことだ。戸惑って言葉が出ないでいると、彼は、私に与えるべき勲章、三日月を型取り中央にルビーが飾られた豪華なものだ、を持って玉座から降りてきた。そして自ら、紫のリボンで飾られたそれを私の首にかけてしまった。


「立ちなさい。遠慮は無用じゃ」


「はい」


「皆に宣言する。この者、ルナ殿は火龍の災禍を未然に防ぎ、王都、百万の臣民の命を救った。我が王国三百年の歴史に刻まれる勲功である。と、同時に。ルナ殿はあの龍を一撃で葬れる大魔道士。我が祖、オリル一世にも匹敵する魔力を持っておられる。すなわち、彼女は、一軍、いや、一国に匹敵する力を持っているということだ。であるが故に、この勲章は、ルナ殿という『国』と我ら王国との友好、同盟の証だ。我らは、今、ここに友誼を結ぶ。ルナ殿に(やいば)を向けるは、このオリル十四世への叛逆と心得よ。ルナ殿、よいな?」


「あ、ありがたき幸せ。拝謝の言葉も浮かばぬほどに」


  再び、立て膝になろうとする私を押しとどめ、王は微笑みを浮かべた。そして、耳元にそっと囁く。


「この儀式が終わったら、私の部屋に来てくれるだろうか? 貴君に提案がある」

 体は決して強い方じゃないけど、ご飯はよく食べるし、ちゃんと熟睡できる。健康といえばそうなのだけど。


 この世界で、その力が一軍にも匹敵する龍を一撃で倒せるということは、最低でも国と対抗できる魔力があることになります。てことは、逆に、どんな策謀に巻き込まれるか分かったものではない。


 王なりの配慮もありますが、ルナとの仲良しアピールは、自らの権力の安定につながります。さらに、彼は龍王などとも「通じて」いますから、終末が来てしまうことは知っているはずです。それに対抗すべき重要人物が、つまらない計略で死んでは困るという打算もあるかもしれません。


・・・という感じで、この世界の人、そんなに悪人はいないのですが、それなりに「大人」です。


 で、サバサンドは、イスタンブールの名物だったりします。宗教はありませんから、朝、礼拝への呼びかけアザーンの放送で起こされることはありません。汽笛くらい。


 細か過ぎるネタですが、黄金の玉座は、中の人の好きなファンタジー「ゲーム・オブ・スローンズ」の鉄の玉座(The Iron THrone)をイメージしています。あと、パンを咥えて……、はアニメや漫画でよくありますよね!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 46/46 ・おおう、確かに国レベル…かも? 火力はユニバース粉砕級ですものね。物理耐久はアレですが… [気になる点] 膝をついちゃアカンですわ。転スラでも言ってた。 [一言] なんかい…
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