王からの召喚
「ルナ、いろいろ話は聞いている。せっかく帰ってきてくれたのだが、どうやら、ゆっくりしている暇はないようだぞ。少し落ち着いたら、私の部屋に来てくれるか?」
うーーん。火龍の一件は、当然、父の耳にも入っているだろう。自分の部屋に来いというのは、また、内密な話があるということに違いない。
ひとまず、自室に入り、マリアが準備してくれていた昼食をとることにした。
「マリア! 会いたかった」
「まぁ、まぁ、お嬢様、小さい子供のように」
二人っきりになると思わず抱きついてしまった。
「あのね。マリア、私、恋人ができたの」
「それはよろしゅうございました。きっと、お嬢様にお似合いの美しい方でいらっしゃるのでしょう」
「美しいって? なぜ、女の子だと分かるの?」
「幼い頃からご一緒しております故」
「なんだ。マリアにもバレてたんだ」
「確かに、この王国では、同性愛を忌避する風習もございます。ですが、私は一切気にしません。お嬢様がお選びになった方です。素晴らし人。人品卑しからざる人に違いありません」
「ありがとう。マリアならそう言ってくれると、思っていたわ。でも、まだ、お父様やお母様には内緒にしておいて」
「心得ております」
食事をしながら、ミチコのこと火龍のこと仲間のことを話した。
「お嬢様、本当に学園に行かれて良かったですね。私も我が事のように……」
彼女は溢れる涙をハンカチで拭った。
「マリア、そんな、泣くほどの事じゃないわ。なんだか、私がコミュ障極めていたようじゃない?」
「いいえ。そういう意味ではありません。お嬢様はお心のお優しい方。決してコミュ障などではございません。あっ、そうそう。そろそろお父様のお部屋へ行かれては?」
ああ、そうだった。私は父の部屋へ行くことにした。火龍の件も学園長から連絡が入っているだろう。母と弟の目の前ではないころでというニュアンスがあるのなら、まだ、父には愛想を尽かされていないのだろう。
「ルナ、よく無事で帰って来たな。よかった。お前の強すぎる力、災を引き込むのではないかと心配していたが、どうやら的中してしまったようだ。だが、案ずるな。お前の力は破格中の破格。自らの力でそれを振り払うことができたのだろう」
「お父様、このような事態は想像してはおりませんでしたが、厄介ごとが降って来てしまうのは、覚悟の上。おっしゃるように振り払ってご覧にいれます。まだ、このような娘を心配していただけるだけ、嬉しゅうございます」
「何を言うかと思えば。どのような力を持っていようと娘は娘。可愛くないわけがなかろう? 誰が何と言おうと、誰を敵に回そうと。私は、私だけは、常にお前の味方だということを忘れないでほしい」
「あ、ありがとうございます」
ちょっと意外な気もした。父は他の家族と違い、私の理解者たらんとしてくれているとは思ってはいた。それでも私を怖れ、若干の距離を置いているのだろうと考えていた。ここまで強い決意を持って娘を愛そうとしていてくれるとは。親の心子知らずだったのかもしれない。
「折角、久々に帰ってきてくれたのだが、すまない、明日、王都に戻ってくれるだろうか?」
「学園長から何か連絡が?」
「いや、学園長からではない、王自ら連絡してきたのだ」
「え!」
「なんでも、勲章を授与したいから、王宮に来いということらしい。ああ、そんなくだらないものは不要という顔だな。だが、それは違うぞ」
「どういうことでしょう?」
「お前は火龍を倒した。その噂は瞬く間に国内に広まるだろう。そして、数々の憶測を生むに違いない。勲章は王宮がお前の後ろ盾にいると示すもの。身の安全の為にももらっておけ」
「心得ました。で、私は王宮へはいつ?」
「それがな。どうも、あの、オリル十四世はせっかちでいかん。明後日の朝、来いとのことだ。既に、お前が一日でノルデンラードから王都まで飛べることも知っているようだ」
「そうですか。致し方ありません。明日朝、学園に戻ろうと思います」
もう少し、ゆっくりはしたかったが、あれだけの事があった後だ。マリアに子細を説明して、まだ、荷もほどいていないが、ああ、そうだ。マリア用にも身代わりペンダントを用意したんだった。家族の前では渡しづらかったのでこっそり手渡した。
「いろいろバタバタするけれど、考えようによってはいい事かもしれない。この分だと卒業したら、居を構えられるくらいの冒険者にはすぐなれる気がするわ。そしたら、迎えにくるから」
「はい。楽しみにしておりますが、くれぐれもご無理なさいませぬように。私たちに残された時間には、まだまだ余裕がございます」
「そうね。でも、早いにこしたことはないから」
その日の夜は早めに休んで、翌朝、再び、学園に向かって飛ぶことにした。例のジャイロスコンパスを逆にして今度は学園に向かって飛行する。飛び方のノウハウは行きでかなり習得できていたようだ。学園から数キロ離れた地点に二時間ほどで到着することができた。
そうなのよ。この時期は、なんだか、いろいろなことが急に進んだ。「生涯」のおつき合いする人が、どんどん増えていく。不思議な感じだったけど、何かに仕組まれたことだったのかもしれない。ちなみに、この「生涯」というのは「その人の」生涯という意味だから。私の寿命は……。
ということで、まぁ、マリアにもバレバレだったようです。それだけ、心を通わせていたということでしょう。お父さん、実は、とってもルナのことを想っています。




