親友の終わり
学園に戻ると昼になっていた。学園長に龍王との報告をした後、昼食。やっとミチコと二人、部屋でのんびりすることができる。冬休みは一月末までかぁ〜。
私は年末年始は実家に帰省し、その後は、故郷が遠すぎて帰れないミチコ、リベカを連れて、王都にある我が家の別荘で過ごすことにしていた。実家への出発は遅れてしまったが明日。一週間ほどミチコに会えないことになる。
私とミチコはベッドに並んで腰掛けていた。あれ? あれ? いつもこんなだったっけ? なんだか、今日のミチコは距離が近い。
「ねぇ。ルナ?」
「うん? 何? 改まって。というかこの二日、いろいろ有り過ぎたわね。ちょっと疲れたかも」
「私たち、そろそろ、親友をやめない?」
「え!! うん。あれだけの話を聞いたら止むを得ないよね。でも、仲間ではいてね」
私は少し暗く答えた。あれだけの話だ。「概念通信」でそれはないと知れていても、内容からすれば私の気が狂ったと思われても致し方ないレベル。それがなかっただけでもよしとすべきだろう。
いつかは話さなければならない事。覚悟は決めていたはずだ。今、少し距離を置かれるのは当然のこと。また、仲間から始めて、少しずつ挽回していくしかない。だけど。だけど。悲しい。
「えええ! あっ。ホント、ルナって、そういうとこ、おぼこいのね。というか鈍すぎ。親友やめて恋人になりましょうってことよ」
「え! だって、貴女は」
「龍王の計らいで、私は貴女の前世のことを全て知ったわ。あまりに荒唐無稽で遽には信じられなかった。でも、龍王が話していたように、全部真実だと知覚できる。だから、だからよ。私は貴女を受け入れる。ううん。違うわ、貴女に私を受け入れて欲しいの」
「う、うん……え、ええ……。嬉しいけど、全然、理解できない」
「あのね。貴女は前世で奥様を幸せにしたいっていう強い思いを持って死んだ。そうよね?」
「ええ」
「だから。奥様の生まれ変わりかもしれない私を幸せにるすこと、それが、貴女の目標だった」
「うん」
「それがすれ違いの元よ」
「ええ? どんどん、分からなくなる」
「まず。幸せというものは、誰かに『してもらう』ものではないわ。自ら『なる』もの。『してあげる』は、上から目線の男性的考え。今更言っても仕方ないけど、奥様と上手くいかなかった根本はそれだと思うわ」
そうなのか? そう言われてみれば、そうかも。きっとそれは、男性では理解できない感覚。女の子になってみて、初めて気づけることかもしれない。
「貴女は私の性的指向に囚われすぎていた。私と親友以上になろうとしたら、私を幸せにするというミッションがクリアできない、と思っていたのではないかしら?」
「その通りだし、今でもそうじゃないの?」
「どうしてそう常識にとらわれるの? 貴女らしくないわ。人の性的指向ってそんな絶対的なものかしら? ルナは私を強く愛してくれる。そうでしょ?」
そんな真っ直ぐな目で、「愛してる」なんて言葉を吐かないで。心臓のドキドキが聞こえちゃうじゃない。でも、否定なんてできない。
「う、うん。もちろん。それはそうだけど」
「なら。それ以上のものは私、いらないし、私を世界一愛してくれる人がいたら、その人の性別なんて些末なことよ。あのね。私、彼氏がいたって言ったでしょ? とんでもない男だったのよ」
彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべてこう言った。
「うふふ。三蝶子さんと同じかなぁ〜。私もダメンズなの。暴力も振るわれたわ。男がこりごりってわけでもないけど、女の子の方がDVとかないかなぁ〜なんて。ああ、この部分冗談だから。そう言わないと、ルナ、真剣に信じるものね」
「少し理解できてきたけど」
「だから、私にも躊躇いはあったの。男性経験がある私でいいのかな? って」
知らなかった。ミチコは、そんなこと気にしていたんだ。
「でもね。それは、とても酷い経験だった。女の子をいたわらないH。痛いばっかり。生理の時もお構いなし。でも、ちゃんと演技しないと彼の機嫌が悪くなるから。どんどん、深みに入って行ったわ。必死で奨学金をもらい、この学園に逃げて来たの」
「男性と経験があるからとか、私は、今生の私は良く分からないし、それは気にし過ぎ。っていうか、この流れ、私、なんだかバカみたい」
「うううん。そうは、言ってないわ。決して。前世も含めてとても複雑だし、双方の戸惑いは当然だと思う。だけど、全てを知ったら、躊躇する理由が見当たらなくなったってことかな」
「まだ、私も信じられない思いなの、でも、嬉しい、ただ、ただ、嬉しい。いいの? 本当にいいの??」
「もちろんよ。それにね。貴女の裸見たことあったでしょ?」
「うん」
私は今更ながら赤面した。
「あの時、実はね。私、欲情しちゃった。貴女の裸があまりに綺麗で。そのままベッドに押し倒したいって本気で思ったの。貴女のHな声が聞きたいって」
「えええ!!」
「だから。ガチ・ヘテロなんてそんなにいないのよ。もうここまで言わせたのだからいいでしょ?」
「わかった。私は貴女が好き。どんなことでも、受け入れるわ。貴女の全てを」
私は黙って目を閉じた。多分、キスされる。急だけど、大丈夫、ちゃんと準備はできてる。前世での記憶だってあるんだから。でも、でも、なんだか怖い。
ミチコの顔が近づいてくるのが分かる。息遣いまで伝わってくる。ああ、される。アレ? アレ? キスはなぜかオデコに来た。
「震えて真っ青になってる唇にキスなんてできないわ。大丈夫。女の子同士のいいところでしょ? ゆっくり進めましょ。これは私が失敗から学んだこと。相手の意図を汲んで無理に合わせることなんてないわ。相手を好きであればあるほど、忖度してしまう。でも、それは激しく自身を傷つける。結果は裏返り、それは私が望まぬこと」
「う、うん」
本当に自分の馬鹿さ加減に呆れるばかり。でもね。多分、私は「自分のような存在が人に受け入れられることはない。マリアは例外」と信じていたのよ。今、思えば、ただ自分が、お子ちゃまだっただけなのでしょうけど。
「おぼこい」は分かるでしょうか? 「未通女」と書いて「おぼこ」と読ませVirginのこと。世間知らずな子というような意味でもあります。関西地方の方言なので、ミチコ知ってかなぁ〜。
昨日、HoneyWorksなどと意味フの後書きを残しましたが「いつだって僕らの恋は 10センチだった。」。数年前の作品ですが、ラスト(後日譚のところかな)で彼氏が「そろそろ恋人やめないか?」と言って婚約指輪をパッカンするという。(正確なセリフは忘れましたが、そんな感じのシーン)
「クサァァァ!!!」と思ったんですが、コレもしかして?? そう感じるのは、私の感性が歳をとり過ぎたから? リアルのJCやJKからすると、単なるロールプレイかもしれないですが、乙女心って昔も今も変わらないかなぁ〜と。
で、いつか、このネタ使ってヤルゥゥ!!と思っておりました。
上から目線とか性別なんて関係ないは、中の人なりの想像でもあり、意外と本音でもあります。皆さんはどうでしょう?
思考実験として「同性にメッチャ真剣な告白受けて、絶対、確実に断りますか?」と、時々友人に聞くんですけどね。女性の方が「場合により受け入れるかも?」という答えが多い気がします。私? 絶対ダメとは断言できません。ああ、彼女いたらそれは別の話ですよ。




