身代わりのペンダント
で、学園都市セヘルにて。故郷のノルデンラードでは人目もあるので、重ね着していたが、暖かいこの地方なら半袖で十分だろう。前のものと同じような白いワンピを物色していたのだが。突然、ミチコが。
「ルナ、コレ。素敵だと思うわ。たまには、こういうのもいいんじゃない?」
「え? でも。なんだか恥ずかしいかも」
彼女が手に取ったのは、膝丈のワンピ。パステル系の淡い緑、春に芽吹く若草のような色だ。薄いピンクと黄色の雛菊がプリントされている。ウエスト高めでタックの入ったスカートがふわりと広がり、袖は半袖のパフスリーブ。
背中を貝殻のボタンで留めて着るようになっている。前世基準でいうとロ●ラアシュレイ風、ただし薔薇模様ではない、クラシカルな感じもするが、この世界の空気感にはマッチしたデザインだ。
「ええなぁ〜。試着、試着」
リベカも続いた。
「え、えぇぇぇ」
この世界にはプリントという技術はないので、この種のものは一枚物。花の柄も一つずつ手書きしたものだ。当然、花の大きさも形も均一ではないわけだが、それはそれで味がある。着てみると、パステルグリーンに私のプラチナブロンドの髪がよく映える。
無難な白系よりずっと良いように思われた。手書きの手間を考えると銀貨三枚は、妥当な値段だろう。買い求めることにした。
二人については、今日は服は買わないという。前世流にいうところのイタリアンレストランで昼食。私は、キッチリ、パスタ二人前を平らげてエスプレッソを所望した。
前世からそうだったが、私はアルコールは苦手だが、カフェインは中毒なくらいに好きだ。もちろん、砂糖もミルクもなし。この世界でもコーヒーというものが存在するのはとてもありがたい。ミチコもリベカも苦い物は避けるようで、紅茶とジェラードという組み合わせだった。
そこまで大きな街でもなく、買い食いができる店数はないのだが、アクセサリーを売っている露天商を見つけた。女三人、しゃがんで冷やかしていたのだが。え! こういうのは、運命? 誰かに操作されている気もする。
親友二人にピッタリなデザインの銀製のペンダントが売られていた。そう。蝶、と、ブーメラン風の三角形を象ったものが二つが並んでいたのだ。
「この二つ、おいくらでしょう? それから、彫刻用のペンを貸していただきたいのですが」
「お、おおおお、ねえちゃん…… ああ? 失礼。目を疑うなぁ〜。アンタみたいな人がこの世にいるとはなぁ〜。美人さんに免じて安くしておくよ。銅貨三枚ずつで」
「うーーん。少し高くないです? 二つで銅貨五枚で」
「いやぁ〜。まいったね。分かりましたよ。五枚で。じゃ、これ」
ペンダントと一緒に渡してもらったのは彫刻ペン。サイズは一般の筆記用具くらいだが、先にはキリのような尖った金属が付いている。魔法の文字を刻むためのものだ。
「どうしたの?」「なんや? 急に」
「いいから。いいから」
私はテーベ文字で呪文を刻んだ。父に教えてもらったものではなく、あの魔導書を昨夜試していて、たまたま発見した呪文だ。「身代わりの呪文」。厄除け不動尊のお守りとして、前世のお寺で売られていた気がする。
でも、こっちは正真正銘、命の危機に際して身代わりにペンダントが壊れてくれる。
「コレ、こんな私の友達になってくれたお礼。呪文は『身代わり』。冒険者を目指すのだから、二人も危ないことがあるかもしれない。ちょうど、いいなって。こちらがミチコ用、こっちがリベカ」
「あら。デザインでプレゼント先が、決まっているのね。また、謎の理由かしら?」
「まぁ、まぁ、ミチコ、詮索はええやん。嬉しいわ! ありがとう。そやけど、私たちだけ? 貴女の分は?」
「ああ、この呪文は自分自身の為には有効じゃないの。私にはコレがあるから、大丈夫よ」
私は左耳のピアスを触りながらそう答えた。白を黒と言ったわけではない。でも、言わない嘘がある。昨夜、早々に私が調べていたのは闇属性魔法について。その過程で見つけた呪文だ。
この呪文は自分自身用には無効であると同時に、闇属性魔法を持つものにしか刻めぬものなのだ。おそらく、人族の間にある本物の身代わりペンダントは、この二つだけということになるだろう。
「そうかぁ〜。魔法はなくても今日の記念や。この葉っぱのペンダントどう?」
「そうね。じゃ、これは、私たちから」
二人が選んだのは、これも私の象徴ということだろう。広葉樹の葉を象ったペンダントだ。二人はさっきのペンを借りて何か刻んでいる。
「はい。どうぞ」
私はペンダントを裏返して刻まれた文字を読んだ。なんだか、結婚指輪みたい。二人連名だったので、顔が火照るという現象は起きなかったが。
2695.12.20 M & R to L
「ありがとう。私のはお礼なのに。でも、記念よね。というか、家族以外からプレゼントを貰うなんて初めてかも。そういう意味でも記念」
「それは、私も同んじやな? ミチコは?」
「う、うん。実はそうでもないので」
「ええええ! 彼氏? とか?」
「そんなんじゃぁ〜。な・い・しょ。それより折角だからエドム、ジャムにもお土産ってどうかしら?」
「おおお、毎度あり!!」
露天のおじさん、今日は大儲けだ。彼ら用には赤と緑の石が付いた指輪にしようかと思ったが、指のサイズが分からない。シンプルなプレート型ペンダントにして、裏には私が身代わりの呪文を刻むことにした。
さてさて、ケーキ屋でもあれば買って帰るのだが、残念ながらそんなお店はない。三人はそれぞれの贈り物を身につけて家路を急いだ。
運命? 誰かが操作しているのかも? と思うと少し不快でもあるけど。何気ないこのペンダントは、ずっと後で、大きな意味を持つの。リベカと三人のいい思い出でもあるしね。
で、ミチコの彼氏? き、気にならないわ。全然、ちっとも。
身代わりペンダントは、ルナが親しくなった人へのプレゼントとして、今後も手渡して行きます。そして……。いろいろ伏線回でもあります!
ローラアシュレイは、服のみならず、カーテン、小物で目につきますよね。有名になったのが「ローマの休日」でオードリー・ヘプバーンがしていたスカーフということらしいです。
昔からのブランドで、今では、クラシカルな感じもしますが、ファンタジー世界にはよく合うかなぁ〜と。実は今年の3月に経営破綻したというニュースを見て思い出したのです。




