生涯の仲間
自室でベッドに腰掛け一息ついた。
「ありがとう。ミチコ。よく気付いてくれた。あんなヤツ、殺すのも汚らわしい。でもぉ〜。もうちょっと手加減してビンタしてくれた方が嬉しかった。しばらく頬が赤く腫れてしまうわ」
「それは仕方ないわよ。あそこで遠慮したら演技だとバレてしまう。治癒魔法かけてあげるから勘弁して。ちょっとやり過ぎと言えばそうだけど、助けるならちゃんと責任を持つって、ことかな? あそこで中途半端な助け方をしたら、ええっと??」
「エドム君とジャム君」
リベカは彼らの名前を把握していた。
「そうね。折角助けても、ああいう手合は間違いなく意趣返しをしてくる。それも、私たちのいないところで、再びあの兄弟だけに。まぁ、あそこまで恐怖を与えておいたら、さすがにないと思うのだけど」
最初から、そう思っていた。助けるなら責任を持って助ける。卑劣な仕返しが予想されるなら、そんな気を起こせぬくらい徹底的に心をくじく。ヤツが再び兄弟に手を出したら、確実に殺されると信じさせることが重要だ。
「あああ、閃光のルナの二つ名で売ろうと思ったのに、これじゃぁ切り裂きルナだわ。それに。服にヤツの汚らわしい血が付いちゃった。これは買い直しねぇ。明日、買い物に付き合ってもらえるかしら?」
手首を切ったのがいけなかった。服は返り血を浴びており、清浄の魔法では対応できないくらいに、汚れている。
「ああ、気晴らしにええなぁ。喜んで。そやけど。さすがやなぁ〜。二人とも深謀遠慮もさることながら、気の合い方が半端ないなぁ〜。やっぱりお似合いや」
もう。ヤメて。リベカ。嬉しくて、また真っ赤になってしまう。そんな話をしていると部屋のドアをノックする音がした。
「どうぞ。開いてますよ」
ドアを開けおずおずと入ってきたのは、あのエドム、ジャムの兄弟だった。男性としては身長が低い方だろうか、百七十センチくらい。痩せ型で大きな目が印象的だ。双子なのでどちらが、どちらなのか区別がつかないが、弟のエドムの方から話し出した。
「僕が弟ということになりますが、エドムと申します」
「僕の方が兄。ジャムです。双子で区別がつかないと思いますが、ピアスの色を見てください。僕が赤、弟が緑です」
よく見ると二人とも右耳に小さなピアスとしている。え? 右耳だけ? え? いやぁ〜、こちらの世界での人族の習慣はなんとも言えない。この世界での私の年齢は十五歳。その種のことはまだ早い、と周りに思われていたのかもしれない。え? 友達いなかったから? うるさいわね! でも、そうかも。いずれにしても、全く情報がない。
「この度は、危ういところお助けいただきありがとうございました」
さすが双子。綺麗にユニゾンして礼を述べた。
「礼には及ばないわ。あそこで、貴方がたが死ぬなんて不条理、あってはならないこと。当然のことをしたまでよ。私は大貴族の令嬢様なの。ノブレス・オブ・リージュに決まってるじゃない」
「ルナ、照れ隠しはやめた方がいいわ。彼ら戸惑ってるじゃない」
「そうや。ルナはな。美しすぎる容姿、強すぎる魔力……。それは決して当人にとって福音とは言えん。分かるやろ? 助けようと決意したんは貴方らへのシンパシーや」
弟の方が饒舌なようだ。
「はい。分かり過ぎるほど分かります。ルナ様が、上から目線の憐憫の情で、私たちを助けたのではないことは。貴女様の正義感は大きな尊敬に値するものです。ですので、命をお助けいただいた恩義に報いるには、どうしたらいいのか? を二人で相談しました」
兄が続ける。
「私たちは二人で一人前の半端な魔道士です。ですが、少しはお役に立てるのでは? と思うのです。お噂をお聞きするに、私たちを加えればちょうど五人。どうか、手下として、貴女様のパーティに加えていただけませんでしょうか?」
私は、ミチコとリベカに視線を送った。二人とも異論はないようだ。
「分かったわ。ただし条件がある。私たちは皆、学生なの。手下なんてダメ。同等のパーティメンバーとしてなら喜んで受け入れるわ。それから。命を助けた恩義など、つまらぬことは忘れてちょうだい。パーティとなるということは、これから互いに命を預けあうのだから。いいかしら? それから私のことはルナでいいわ」
「私はミチコでね」
「リベカやで」
「あ、ありがとうございます!!!!」
もしかしたら、悪魔が仕組んだことかもしれないのだけど、この出会いも衝撃的だったわ。私たちは、生涯の友をまた得ることになったの。パーティについて言えば、もしかしたら、「みそっかす」が集まって、結果、同じだったかもしれない。でもね。こういう出合いでなければ、未来は変わっていたかもしれない。
えと、ピアスの件は次回のお楽しみですが、予想の通りです。BL要素も入れてみたいのですが、なかなか難しくて。軽く匂わせるだけですが……。




