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前世の悔恨

 俺は、うん? なんで男か? だって?? 前世の私は男性だったのよ! まぁ、十二年もそれを知らず女の子として暮らしたわけで。女の子であることに何の違和感もないのだけれど。ま、前世を語る一人称は「俺」がいいんじゃないかな?


 もとい。俺は享年三十八歳。日本という国のサラリーマンだった。自慢じゃないがリア充だったんだぜ。なぁ、ヒッキーのオタクなんかじゃないからな。美しい妻に可愛い息子。俺の人生は順風満帆。の、はず、だった。だが、どこからだったのだろう、歯車が狂いだした。死ぬ前の俺は幸せとはとてもいえない状況だった。


 妻とは彼女が十八歳の時に知り合った。俺は競技の名前を言うのは恥ずいから勘弁してくれ。あるナンパ系スポーツサークルに所属していた。そこに、短大一年生の彼女が入ってきたという具合だ。最初彼女を見た時は、ちょっと驚いた。モデル? こんな綺麗な子が生きて歩いてるんだ! くらいに。


 だが、正直、俺は面食いじゃない。実のところ、男のイヤらしいマウント欲求なのかもしれない。綺麗過ぎる女は敬遠する傾向にある。……などと、自らのアホさ加減を客観的に見れるようになったのは転生したからだ。まったく! 前世の俺はクズだった。


 いずれにせよ、俺は同サークルの別の女子に告白して、まさかの「ごめんなさい」をされるという目に合っていた。まぁ、「ごめんなさい」をした子は慧眼というか、俺の下劣な品格を見抜く目を持っていたのだろう。


 だから、彼女争奪戦に参戦したのは、何となく、何となくの勢いなのだ。当然だが、彼女に言い寄る男は多く、ライバルは知り得る限りで四人はいた。結局、俺は彼女を本当に好きだったわけではないのだ。金のトロフィーが欲しくてコンペに参加し、まさかのゲットを果たしてしまったということだ。


 今なら彼女が俺をなぜ選んだのか? 理由は分かる。女性、特に、美麗の女性に多い、彼女はいわゆるダメンズ好きだっただけだ。人品骨柄卑しき俺だから魅かれたに過ぎない。だが、当時の俺は、デートで街を歩けば、誰もが振り返る彼女を得て有頂天だった。


 切っ掛けはそんな感じではあったが、決して、彼女をブランド物のバッグとして扱ったつもりはない。初めてのキス、H……を重ね、俺は確かに彼女を好きになっていった。愛という言葉はどうも曖昧で何ともいえないが、それに近似した感情くらいは持っていたはずだ。


 俺は大学院に進学し、彼女は子供のころからの夢と言っていた、保育士となった。二人は半同棲生活を始め、俺の修了・就職とともに結婚。一男に恵まれた。経緯は別としてここまでは、リア充を絵に描いたような幸せな日々だった気もする。だが、既に俺が知らないところで、負のスパイラルは始まっていた。


 俺が就職したのはマスコミ系の大手企業だった。三十代半ば、入社十年目の俺は、その社の社運をかけたというのは少し大仰だが、大規模はウエブサイト構築のプロジェクトリーダーに選ばれた。この歳で次長(デスク)のポジション、部下は十名もいる。同期ではダントツの出世頭だった。つまらぬプライドの後押しで、俺は猛然と仕事に勤しんだ。


 午前様は当たり前。妻や息子が起きている時間帯に家にいることはなくなった。いつしか妻と話すことはなくなり、たまに顔を合わせば、たわいもないことで、言い争う。違ったのだ、ここが起点だと思っていた俺の不見識が情けない。不和の芽は息子が生まれた時から始まっていた。


 妻は子育てのため、あれだけ憧れを語っていた保育士の仕事を辞めた。夜中に授乳する際、俺を起こすからと別室で休むようになった。気遣い? それは、俺がすべきことで、妻に気を遣わせた時点で既に負け、破滅フラグが立ったということだ。


 やっと子供が幼稚園に上がり、妻が仕事に復帰した矢先に俺が超多忙になったわけだ。間が悪いと言えばそうなのかもしれないが、忙しかろうが、なんだろうが、俺は妻の立場に立ち、彼女の目線で物を見たことなど一度もなかったと思う。それこそが事の本質だ。


 弱り目に祟り目。さらに悪いことが重なる。俺の父と妻の実家の義父が相次いで病に倒れた。介護のため、妻は再び仕事を辞めざるを得なかった。俺の会社は誰でも知っている超大手だ。当然だが介護休暇制度もある。だが、俺は妻とこの取得について話し合うことさえしなった。


 結局、俺は金さえ稼いで来れば文句はないだろう? としか考えられない、大馬鹿物のKY野郎だったということだ。俺の年収は三十代半ばで大台を超えていた。だが、それが何だというのだ?


 お金がなければ飢えて死んでしまう。それはそうだ。しかし、しかしだ。お金は棺桶に詰めて、あの世に持っていけるものでもない。そうだろう? もっと大切な何かを犠牲にしてまで、拘るような物ではないということだ。


 このころになり、少しではあるが、自分がいかに身勝手であったかだけは理解できた。だが、時、既に遅し。ここまで妻との人間関係が崩れてしまえば、もはや挽回の余地などないだろう。俺は、離婚届を内ポケットに入れ、早めの帰宅。妻と協議離婚に向けた話をするつもりだった。


 こんな冷え切った両親の元で、子供を育てるのは良くないだろう。親権はやはり妻か? 幸い、父が残した資産もある。金銭面はどうにかなるのだろうが、なぜ、こうなった? 全ては自らの瑕疵。重い、重い悔悟の念に囚われ俺は交差点に立っていた。


 向こうに男の子。息子よりは少し年下、幼稚園児くらいか。手に持っていた風船を離してしまったようだ。風向きのせいだろう。風船は真っ直ぐ上には上がらず、車道へ流れる。子供のことだ、反射的に赤信号の交差点に飛び出した。そこに大型トレイラー。急ブレーキを踏んだようだが、とても間に合いそうにない。


「危ない!!!」


 俺は飛び出し、その子を突き飛ばした。尻餅をつき大声で泣く子供。何とか彼の命は助かったようだ。だが、人生唯一と言ってもいい俺の善行は、とんでもない代償を伴っていた。突き飛ばした瞬間、足がもつれた。トレイラーの真前に飛び込むように倒れ込む俺。大きな車輪が目の前に迫る。

 本編、唯一の前世部分なんだからね。「俺」一人称はこの部分と次でおしまい。今わぁ、だだのぉ、ちょっと可愛い女の子なんだから。「だが、元男だ」とか言ったら、コ・ロ・ス!


 読んでいただいて「ちょっと、リアルっぽ過ぎてイヤかも?」と、もし、もしも、感じていただけているのなら、中の人は欣喜雀躍すると思います。なぜなら、なぜなら。この部分だけ、私小説だからです。太宰治の「人間失格」みたいなのをやってみるかぁ〜 みたいな。


 もちろん「小説」ですから誇張多しですし、虚実ないまぜです。私、主人公みたいにキレないですし、お金だってねぇ〜。どこまでがリアルで、どこからが嘘かは、教えてあげないわ。でも、心の動きみたいなところは、マジ、五臓六腑をぶち撒けてみました。


 以降は、剣と魔法の世界になるわけですが、自分の思うところを、ルナ始め各キャラに代弁させている部分も結構あります。

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