生涯の親友
彼女から友達になろうなんて、単なる僥倖? どう考えればいいのだろうか? 導かれた? ならば、それは、悪魔の意思なのか? 冷静になると色々な考えが頭を巡ったが、考えてどうなることでもない。とにかく、サフラン、誘ってみよう。
「あの、雨が降って来たけど、ここのすぐそばにサフランが咲いているの。少し摘んで行きたいのだけれど、一緒に行ってくれるかしら?」
「へぇ〜。そんな場所あるんや。私も知っておきたいし、是非! まぁ、貴女に護衛は不要やと思うけどな」
私も彼女も実習中は変身している。帰り際、私はオベロンを佩いている。彼女の変身は民族衣装風だろう。半袖、緋色の膝丈ドレスに、若葉色を基調とした複雑な刺繍が施されている。足元は紐で編み上げるサンダル。髪飾りに鳥の羽が二枚という感じだ。見た目は寒そう、私もそうだが……。だが、防寒の魔法がかかっているで、着ている当人はいたって快適なはずだ。
もちろん、リベカの愛用の弓と箙を装備している。
「私のこの剣はオベロンと命名したのだけれど、貴女の弓や箙はなんて名前なの?」
「ああ。私な、リーフ共和国の先住民と、このあたりから来た冒険者との混血やねん。で、この衣装も先住民風。弓はイェと箙はバールーという名前にしてる。今、世界の言葉は英語に統一されたけど、先住民の言葉もかつては存在した。太陽と月という意味や。ちなみに、私らの中では女が太陽、男が月やで」
ちなみに、前世の場所ではオーストラリア、リーフ共和国には王様はいない。広すぎる大陸にとても少ない人口で、国の体裁をかろうじて保っている程度だが、先住民と移民、主に冒険者が、民主的かつ平和に暮らしている。
話しているうちにサフランの群生に辿りついた。必要量を摘んで準備して来た袋に入れ、剣を吊るしているベルトに結びつけた。
「さ、帰りましょ。遅めのお昼を食べたら。私のお部屋でお茶はどうかしら? まだ、一回分のサフランは残っていると思うから」
「お腹すいたなぁ〜。お茶とかガラやないけど、折角のお招き、喜んで」
雨に濡れたので学園寮の部屋に戻ってシャワーを浴びて着替えをした。ミチコも食事に誘おうと思ったが、午後の魔法実習が中止となり既に済ませているとのこと。お茶の時間まで待っていてもらうことにして、リベカと昼食を済ませた。
私と始めて食事をする人の常だが、リベカも少々驚いて? 呆れて? いたようだ。
「ヤセの大食いとはよう言うたもんやな。その食事どこに入るんや?」
「あはは。じゃ、また三時PMに!」
少々、尾籠な話だが、私は食べる量に対して出る量が極端に少ない。しかも、「出るもの」は兎や鹿のような草食動物状だ。お魚も食べるので人族のようなモノが、出てしかるべきなのだが、違う。そもそも、トレーニングをしてやっと人並みくらいの体力。体の力になる一般的な消化・吸収は、エルフそのもの、ベジタリアンとういうことなのではないか。
そう考えてみると、この食欲の行先の大半は魔力ではないかと思っている。私にはとてつもなく効率のよい物質→魔力変換機能が付いているだろうか? だが、その効率をしても大量に食べなければ、これだけの魔力を維持できないということなのだろうか?
いよいよ待ちに待ったティータイムだ。ミチコとはしょっちゅう、お茶、懐かしい日本茶も嗜んでいるが、女の子三人なんて、まるで女子会みたいじゃない? 友達いない歴、十五年の私にとっては画期的なイベントだ。
食器は故郷から取り寄せたもの。純白の陶器に濃紺と金で網目の模様が入っている。ティーカップとお揃いのお皿に銀製のスプーンとフォーク。
お茶はサフランの雌蕊を乾燥させて作ったお手製。学園の側に、ケーキ屋などはないので、お菓子ももちろん手作り。マフィンくらい作れるんだから。ホットケーキミックスはないので、薄力粉、砂糖、ベーキングパウダー、無塩バター、牛乳、卵と紅茶の葉っぱを少々。
きっちり計ってカップに入れれば、あとは魔法のオーブンにお任せという具合。分量を間違えなければ、失敗はない。って、ミチコに手伝ってもらうのだけど。レシピ知ってるだけでも、尊敬に値すると思うのでしょ? でしょ? そうでしょ。
「始めまして。ミチコと申します」
なんだかんだいうがミチコはとても社交的だ。
「わぁ〜。なんや、美女二人に囲まれて緊張するわ。平民でも友達にしてくれるいうから、お呼ばれに来ました。リーフ共和国出身のリベカといいます。弓術メインで学んでおります」
「私の国、フヨウも王国で、身分制もあります。ですが、皆が平等という共和国制に憧れておりました。折角、この学園に来たのですから、もう身分のことは忘れましょう」
「ああ、ルナと同じこと言うんやな。貴女方会ってまだ二ヶ月くらいやろ? 呼吸がおうてるいうか、以心伝心ゆうか。夫婦みたいや。もう、ええから結婚してしまいぃ〜な」
「ちょっ。ちょっと、私たち女の子同士だし」
やばい。耳の先まで真っ赤になってしまい狼狽を隠せない。
エルフと違って人の一生は短い。「女子会」という言葉は好きではないのだけど、何気ない日常の宝物、大切にしなさいよ。
サフラン茶は少し苦味もありますから、いろいろ混ぜるパターンも多いようです。こちらでは、サフランの雄蕊のみです。実はコレ、婦人病にも効くといわれ、漢方薬としても使われます。ツムラの中将湯ですね。
弓と箙の命名については、オーストラリア先住民の伝承を元に命名しました。




