弓の名手
この講座では私と並んで紅ニ点ということになるのだが、驚くべき精度で弓を射る女生徒がいた。褐色の肌、黒いストレートヘヤー、で背が高い。百八十センチはあるのではないか。痩せ形でファッションモデルのような体型だ。さらに彼女を目立たせているのはコバルトとエメラルドのオッドアイというところだ。
いつも左目を閉じ緑色の右目で的を見ているので、この目になんらかの魔法があるのだろう。もちろん、弓矢にも魔法が込めらている前提だが、五百メートル先の三センチの的の真ん中を正確に射抜ける技を持っていた。私も含め到底真似できるものではない。
リベカという名の彼女はリーフ共和国、前世の地名ではオーストラリアの出身らしい。この世界は、人口も少なく、魔法の援助があり、かつ、冒険者ギルドという重石があり、暴動やいざこざ程度はあるが、世界的な大戦争が行われたのは、歴史上一度きり。概ね平和な世界だ。
当然、オーストラリアも植民地としての支配があったわけではない。だが、一部のコーカソイド系の移民は受け入れている。彼女は容姿からして、先住民族とコーカソイドのハーフということのようだ。
今日は上級コース当日。上級という体裁だが、二人が優秀過ぎるので、特別にスペシャルレッスンを行うという意味だ。二人とコーチだけの授業となる。
季節はもう十一月になっていた。かなり南側とはいえ、この地方でも十二月になれば雪は降る。十一月は肌寒く雨も多い季節となる。弓術の実習の上級コースは学園から十分ほど歩いた専用の施設で行われる。この世界にライフルというものは存在しないが、弓術というより射撃という表現が相応しいかもしれない。
いわゆるクレー射撃だ。的の直径は約五センチ。三百メートル先に同時に三つの的が、五秒おきに十回でてきてワンセットとなる。
そうだ。そうだ。魔法の箙のことを話していなかった。この世界の箙は矢を自動発生する仕組みが備わっている。風属性の魔導石をセットするものが普通だが、魔導石の魔力が尽きるまで、常に六本の矢が供給される仕組みだ。
この「クレー射撃」は「箙から三本矢を抜き取り射る」を五秒間隔で十回繰り返すという、トンデモな方式だ。二人とも午前中に三十セットこなしたが、一発も外さずに昼休みとなった。私には加速技と空間操作による誘導がある。この程度は余裕だが、的が見え辛く真ん中に当てるのは難しい。
ところが、後で確認してみるとリベカは全て九十個の的のど真ん中を射ていることが分かった。「人外」の私でさえ舌を巻く弓術の天才ということなのだろう。雨模様になってきたので、本日の授業はこれで終わりとなった。
このあたりは、前世の学校と違い、厳密なカリキュラムがあるわけでもなく、アバウトな感じだ。コーチはさっさと学園に帰ってしまった。
そうだ。弓術練習場の近くには、サフランが咲いている場所があった。この間、少し手折って雌蕊をむしり乾燥させ、サフラン茶にしてみた。ミチコと飲んでいるのだが、残りが心もとなくなってきた。
リベカを誘って摘んで帰ろうか? 相手は女の子なので話易いし二人っきり。パーティメンバー選別の件もある、声をかけるいい機会だろう。
正直、初対面の人に声をかけるのはとても苦手だが、パーティ分けも迫って来ている。勇気を振り絞って声をかけた。って、大層ですって? いい。分かってる? 私はまだ十五歳なんだからね!!
「リベカさんって言うのよね。弓、すごいわ。もしかして右目に秘密があるとか?」
あっ、やばい。ちょっと不躾過ぎたか?
「平民の私が、ルナ様にお声をかけてもらえるなど、光栄至極に存じます」
「いやいや。やめて。様とか。この学校での生徒はみな平等なのだから。いつも通りで」
「そうやった。ごめん。ついつい、なぁ〜。貴女綺麗すぎるしなぁ〜。今日は、お疲れさん」
うは。普通通りって、オーストラリアンイングリッシュ「トゥダイ」ですか! うっ、短縮系がよく分からなかったり……。
「お察しの通り、私の右目はバードアイという魔法がかかっているらしいわ。遠い的でも目の前にあるように見えるんや。ちょっとズルやけどな」
「別に魔法を使うのがズルではないと思うけど。私も魔法で矢を誘導していたから。それに、貴女の右目。私の瞳と同じ色をしている。もしかして、貴女にもエルフの血が流れているのかな?」
「えっ! ルナさ……、ルナの噂は予々聞いてるわ。そやけど、エルフネタは禁句かと思うてた。伝承レベルやから、真偽のほどは定かではないけど、確かに、私の先祖にエルフがいるという話は聞いたことあるわ」
さらに彼女は続けたが、その発言は、私の想定を超えていた。
「私ら先祖を同じくする仲間やなぁ〜。私な、こういう性格でな、どこか吹っ飛んでんねん。貴女の言葉を鵜呑みにするわ。身分違いは気にせん言うたやろ? なら、私と友達になってぇなぁ〜」
え? え? ええええ! もう、わけ分かんない。
頭真っ白になりながら、私は両手で差し出された彼女の右手を包み込んだ。少し冷たくて大きな手だ。
「ふ、不束者ですが」
「あはは。結婚しよう言うたんと違うんやで。でもな。分かるわぁ。勇気をもって私に声かけてくれたんやな。私もこんな外見で、魔法も持ってる。差別されたり疎まれたり。立場は全然違うけど、私ら似たもの同士や。仲良うしてな」
い、いけない。また涙が出そうになったが、今回は何とか堪えることに成功した。
この出会いも何かに導かれたのかもね。「生涯」の友人との出会い。「関西弁?」どいうこと? 彼女はオーストラリア風の英語で話しているわ。
この世界では既に「新大陸」は「発見」されてはいます。ですが、世界全体としての人口も少なく、基本、先住民族の人たちの土地であることに変わりはない。支配されるということもなく、奴隷制などもなく、渡ってきた冒険者により魔法がもたらされ、平和に暮らしているイメージです。
関西弁キャラは、まぁ、おなじみというか……。ルナもミチコも考え過ぎなところがありますが、リベカは明るく、サッパリした感じの性格に描いているつもりです。




