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シュウマツの窓辺に白百合を〜異世界に「あたし最強!」で転生したのだけど、前世のヨメがいた  作者: 里井雪
リベカとの出会い

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入学式の演奏

 それから五日ほど、朝はジョギングに付き合ってもらい、ミチコが朝食を作る毎日が続いた。朝食はいつも和食というわけにもいかず、フレンチトーストとコーヒーなどのメニューが多くなった。彼女は私に配慮してベーコンはスクランブルエッグと一緒に炒めず、自分用にだけ別に用意していた。


 お昼は私の担当なのだが、うるさいさね! そうよ。サンドイッチしか作れないのだから。茹で卵を潰してマヨネーズで和えるくらいはできるんだからね。もちろん、お野菜はたっぷり!


 実家で一人のトレーニングの時は、ちょっと辛くなるとリタイアしていた。でも二人で走るジョギングは、伴走者に引っ張られる。わずかな間のトレーニングに過ぎないが、徐々に、徐々に、効果が出ていた。ん、じゃないかな?


 森までを走っているのだけど、初日は道の半分くらいで折り返さざるを得なかったが、一週間後には往復約八キロを一時間かからずに走れるようになっていた。


 明日は九月一日。入学式の日となる。成り行き上、仕方がないと思うのだが、総代で新入生挨拶をするハメになっていた。これでも辺境伯の娘だ。人前で話すのは慣れてはいる。が、問題は、式後のパーティだ。まぁ、貴族様メインということなのだろう。ここは少々不味いことになっている。


 王都近くの貴族の子はその嗜みとして楽器の一つくらい演奏できて当然らしい。だが、私の生まれた北部ではそんな習慣はない。まぁ、田舎ということなんだけどね。辞退してもよかったのだが、一つだけ、私にできる楽器がある。前世の記憶が蘇った後、この世界にはギターによく似た六弦の楽器があることを知った。


 前世では趣味でアコギを弾いていたので、気になって取り寄せてみたのだ。ところが、この楽器は似て非なる物。なんと、フレットが付いていなかった。左手で押さえて右手でコードを弾くことしかできなかった私には、とても扱えない。で、楽器屋に頼んでフレットを付けてもらったわけだ。これを荷物に入れて送ってもらっていた。


 さてさて。入学式の朝。学園長の挨拶から始まり、私の答辞。この程度の挨拶に原稿など不要、アドリブで軽くこなした。続いて、主だった職員の自己紹介。新入生は五十人しかいないので、生徒も自己紹介と進み、式典は滞りなく終了した。


 夕刻になり立食パーティが職員食堂で行われた。この世界にもいろいろな楽器はあるが、音階は一オクターブに七音階。前世で言う西洋式だ。ピアノ風の楽器を演奏するもの、ハープ風、バイオリン風……。管楽器という選択はないようだ。


 魔法を持つ者は、直感力といえばいいのだろうか、この種の芸術的な才能にも長けていると言われている。楽器演奏の巧拙は、その人の魔力量に依存するのではないかと思うが、前世との比較からいえば、みんな、そこそこの演奏技術を持っているようだ。とんでもない騒音を聴かされはしなかったが、延々と続く学芸会は少々苦痛だ。


 私の順番が来た。よし、まだこの世界の誰も聴いたことのない曲をプレゼントしよう。ちなみに前世の記憶というが、その思い出し方は半端ない。ちょっとでも頭にキーワードが残っていれば、ネットで検索した結果のように詳細情報が鮮明に蘇る。


♪〜

Em7、D、Em7


Are you going to Scarborough Fair?

〜♪


 スコットランド民謡だし著作権切れなので、これを演奏しても、うるさいおじさんに「お金出せ!」などと言われることはないだろう。


 私の声はもともと少しハスキー気味だ。高音は出にくい傾向にあるのだが、この曲なら大丈夫。むしろいい感じに聞こえるのではないか?


 周りを見回すと大成功のようだ。聞き慣れぬメロディーが注目を集め、切ない歌詞が聴く人に届いたのだろう。ハンカチで目頭を押さえているオーディエンスすらいる。


 私はこの曲を選んだのは、記憶にある数少ない英語歌詞の曲だった、ということに過ぎなかったはずだ。だが、なぜ「決して叶わぬ恋の歌」にしたのか?


 あれ? あれ? ミチコと会って以来、私の涙腺は壊れてしまったようだ。どうなってしまうの私??


 男性だったころの影響という考え方は当たらない。私は私、性自認は普通に女の子だし、十五歳という年齢に相応しい幼さが残っているだろうと思う。だが、前世から変わらず冷静で合理性を持った性格だったはずだ。父や母に対する処し方についても、年齢不相応な理路整然さだったと思う。


 でも。でも。でも。ミチコに会って私の中の何かが変わった。強固な外殻にヒビが入り、脆弱な部分が剥き出しになってしまったということか。それは、それでいいのかもしれない。妻と「失敗」したのは、弱い自分を晒すことができなかったという面もあるのだろう。

 そうよ。人前で喋ることにビビるような子じゃないのよ。可愛くなくて悪かったわね! でも、そういうのを可愛いと思う気持ちは、男性の上から目線じゃないかしら?


 演奏は「本好きの下剋上〜司書になるためには手段を選んでいられません〜」のアニメを観ていて思いつきました。あれもそうですが、弦楽器がお手軽ですよね。ただ、中世風世界でフレット? 三味線を習ってる人のお話によると、あれがないと、左手で押さえる場所の基準が分からず、激ムズらしいです。


 実際、今の形のフレットがギターに付いたのは18世紀とのこと。現代でギターの嗜みといえば、コード押さえて、右手はジャン!ですよね。アルペジオまでは厳しい。そんな感じです。


 音楽は著作権の関係があってコードや歌詞を書くのは難しいのですが。この曲なら大丈夫でしょう。大好きな曲で前作でも和訳して出しました。観た人も気付かれなったかもですが「終末なにしてますか?忙しいですか?救ってもらっていいですか?」アニメの挿入歌にも使われてましたよ。


 ライブハウスで、女性歌手がカバーしたのを聴いたことがあるんですが、震えましたぁ〜。これからも、少しずつ音楽出しますが、著作権が存続しているものは、タイトル●付きです。


 あと、ルナの前世の記憶は半端なく思い出している設定です。でないと、歌詞とか無理ですよね。これからも、転生者かも?な人がメロディーだけ覚えていて、彼女が歌詞を補うみたいなのもあります。で、ルナのこの設定は、音楽のためだけではなく、彼女の、もう一つの使命、多分、悪魔は想定外だった使命、にも関係します!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 25/25 ・色々あるんですね。そして見せ方が上手い。参考になります。 [気になる点] 8キロ1時間弱……て事は、若干のスローペースですね。人間レベル。 [一言] 卵焼きと野菜炒めしか料…
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