ミチコの朝ご飯
翌朝、ミチコが朝ご飯を作ってくれた。学園寮の各室は、広めのワンルームマンションと表現すればいいだろうか。小さいがちゃんとしたキッチンもついている。もちろん冷蔵庫もある。
この世界に電気やガスはないが、代わりに魔法の燃料、魔導石というものが存在する。水晶のような石だが、火・氷・風・土・雷・水・光・闇の属性を持っている。
コンロには火の魔導石が燃料として使われるということだ。冷蔵庫は前世の位置づけとは少し違う。飲み物や果物を冷やすためだけに使われる。生物の保存は腐敗防止用に光属性の魔導石を使った保存庫というものが別に存在する。
陸路の交通手段は馬しかないこの世界だが、光魔導石があれば保存期間は半永久。光魔導石はレアなもので高価だが、お金さえ出せば、いつでも新鮮な肉、魚、野菜を食べることができる。
魔導石は電池といった位置づけのもので、ある程度使うと効力が切れてしまう。もう、RPGなどから連想できるだろう。これらの石は、森の奥やダンジョンの魔力が湧き出すポイントから採掘されるものだ。
だが一つ問題がある。これも予想の範囲内だろうか? 魔性石の近くにはこれを守護するガーディアンと呼ばれる魔獣がいる。
これらを狩って採掘を行うのが冒険者の主な仕事だ。冒険者ギルドは、冒険者間で石の取り合いが発生しないよう、ミッションの発注と受注という形で調整するのが役目ということになる。
RPGとの違いは一般的な採掘ミッションについて、冒険者への報酬はない。彼らは魔導石を売って収入にし、ギルドに一割の紹介手数料を支払うという仕組みだ。
例外もある。本来、魔導石を守護するはずのガーディアンが野生化、凶暴化して人を襲うことがある。これらの討伐は王国などがスポンサーとなって要請がくる。
さらに、状況によりけりだが、傭兵依頼や警察のサポートなどについて、ギルドが適性と判断したものは、報酬付きミッションとして冒険者に公示される。
要は、魔法を使える人口が多いということは、冒険者人口も多いということに繋がり、ひいては資源採取量も増えることになる。前世でいえば、石油。エネルギー資源を押さえているユーロ連邦王国が、経済的に豊かである所以だ。
今朝の朝食のメニューは、ご飯、わかめの味噌汁、味付け海苔、目刺、生卵だった。日本で味付け海苔が「開発」されたのは明治、卵を食べる習慣ができたのは江戸時代。でも、和食の朝食といえばコレでしょ? パラレルワールドだからねぇ〜。
生卵以外はミチコが自国から持って来たもののようだ。定期的に送ってもらえるらしいが、貴重な品であるには違いない。申しわけないと思ったが、久々の和食、食欲が優先してしまい、山盛りご飯を二杯も食べてしまった。
「もしかして苦手かなと思ったけど、目刺、食べれるんだ。ええええ。生卵にソイソースって、何で知ってるの? そう。ご飯にかけると美味しいのだけど……」
「ああ。私、エルフの血が濃いので、お肉、特に脂身を食べるとお腹をこわすけれど、お魚や卵は大丈夫だから」
やばい。やばい。やばい! 微妙に話題を逸らしたが、不審に思われたかもしれない。
「朝ごはんをご馳走になったから。お昼は私が。料理は全然ダメなのだけど、サンドイッチくらいなら作れるわ。家から荷物が届いていて、黒パン入ってたから。今日は天気もいいし森にピクニックでもいかが?」
「あっ、それいいかも!」
学園の近くにはイズミールという森林地帯がある。奥に行くと魔導石があって、ガーディアンがうようよしているが、入り口付近なら安全だ。たとえ、出て来たとしても魔法剣で一撃なのだが。
ちなみにガーディアンは純粋に魔法的な存在で、臓器ががあるわけでない。倒されれば屍は残さず、光の泡となって消え去ってしまう。当然、例の魔法では対処できないが、幸いにして剣や矢などの物理攻撃は有効ということだ。
いずれにしても、産出する魔導石が小ぶりなものが中心ということもあり、この森に出るガーディアンは、あまり強いものはいない。スラ●ムとかドラ●ーとかはいないけどね。森の奥は学園生の演習場として、好適な場所ともなっている。
そう。これが初めてのデートということになるわ。誘うという行為自体に、ドキドキしてた。ちょっと懐かしいかも。
食もいろいろ書きたいのですが、中世や戦国時代を前提にすると厳しいです。パラレルワールドということで、ご勘弁を。
あと、冒険者ギルドについてですが、資源を押さえているという設定にしました。単にモンスターを狩るだけではなく、資源を確保する経済活動をするとなると、全世界的な権力という設定との整合性があるかなと。
明日はピクニック。小さなイベントですが、タイトル〜エピローグまで続く拘りのアレです。




