学園長の気遣い
早く行かないと! お化粧は魔法のおかげて崩れてはいない。軽くリップを引き直すくらいで大丈夫だ。
私は髪をリボンでまとめた。ああ、説明が不足していたわね。もちろん、フェアルにもらったリボンの内の一本よ。指輪に変身用装備として「入れる」のは、そのイメージだけ。だから本体は残るってこと。
途中の街の美容院でこのリボンに魔法で髪型を覚えさせた。形状記憶の魔法ということだろうか。リボンを軽く髪に巻くと自動的に美容院でセットした髪型にしてくれる。どう、便利でしょ? まぁ、いつも髪型がワンパターンになるのだけれど。
私が選んだ髪型は左右の髪を少し取って三つ編みにし、後ろに回し、リボンで留めるというスタイル。クラウンハーフアップと言えばいいかしら? 普通はゴムやピンがないと上手くいかない髪型だけど、そこは魔法、ブラッシング含めて綺麗にまとめてくれる。
前世の記憶によると、この髪型なのだから「閃光のルナ」の二つ名でも名乗ることにしようか? レイピア使いにピッタリかも。……という発想は、前世が厨二病だったのか、現世の私がまだ私がお子ちゃまなのかは何ともいえない。
魔法学園への入学年齢は明確な縛りはないが、基本は大学扱い。十八歳入学が一般的だ。十五歳での入学は学園長が許可できるギリギリの下限といったところだろう。
そんなことを考えながら、学園長室のドアをノックした。
「ノルデンラード辺境伯の娘ルナでございます。ただいま到着いたしましたので、ご挨拶に伺いました」
「どうぞ」
学園長は白髪まじりの黒い髪にブルーアイ。コーカソイド系に見えるが前世でいうところのアラブ人に近い。歳の頃は五十代後半か。小柄で上品な感じのする女性だ。教員は通ってくるのが常と言ったが、彼女だけは例外でこの学園の教員寮、もちろん特別室だ、に住んでいる。
「学園長のアミーナです。ルナさん。ようこそ当学園へ。お噂の通り美しい娘さんですこと。全てはお父様からの玉簡にて存じ上げております。強すぎる魔力をお隠しになっていること、そして、その何たるかも」
私の魔力のことを聞くと、こんな年上の人でも微妙に敬語だ。うーーん。ここでは公平と言っていた当人なのだけど。
「いろいろご不安もあるでしょうが、どうかご心配なく。お聞きになっているでしょ? 私が若い頃、お父様をお教えしたこともあるのですよ。ですから、私のことは仮親とお考えになられて、何でも相談してくださいね」
「ご配慮痛み入ります。大した苦労も知らぬ私が、冒険者を目指そうなど無策かもしれません。ですが、父からお伝えしたように、私にはこれ以外の道はないと思っております。自分なりに覚悟は決めておりますが、もし、どうしても困ったら、その時は甘えさせてくださいませ」
「十五歳とは思えぬ確固たる信念とお見受けしました。ですが、時には辛いこともあるでしょう。いつでも、私の部屋のドアは開いております」
「ありがとうございます。では、これより二年間、よろしくお願いいたします」
「こちらこそ。今日は到着したばかりでお疲れでしょう。早めに食事をしてお休みになった方がいいですね。でわ、今日はこのあたりで、おやすみなさい」
「おやすみなさいませ」
私は学園長室を辞して学園寮に戻った。配慮も見識も学園長に相応しい女性だ。単に大きな寄付をする領主の娘というだけで、ここまで言ってはくれまい。ミチコに巡り合えたことも含めて、学園初日は大安吉日だったと思う。
「おかえり。どうだった?」
「ああ。まぁ、社交辞令をね。それより夕食まだでしょう? 食べに行きましょう」
学生食堂ということなのだが、結構、贅沢なレストランが学園には二つ。職員棟、学生棟に一つづつ、どちらを利用しても構わない。朝食と昼食はバイキング形式になるのだが、夕食は前菜、メインディッシュ、デザートまでのフルコースでも食べられる。私はお肉が苦手なので、お魚料理の多い「イタリアン風」、学生棟のレストランに付き合ってもらことにした。
トマトのカプレーゼ、真鯛のカルパッチョ、イカ墨のパスタ、ついでに、フォカッチャを二つ。締めにティラミスとエスプレッソ。いやぁ〜食った、食ったぁぁぁ。華奢で小柄な私の食欲にミチコは目を丸くしていた。どこに入るの? みたいな。彼女はナスとベーコンのアラビアータ、ポタージュスープだけだったのだから。
不思議なんだけどね。食べるのよ。ざっと二人前。食べた物がどこに行くのは謎なんだけど。
ということで。えと、ルナはお肉は苦手ですが、お魚は大好きです。前世の記憶もあり、パラレルワールド設定ありで、これから、ちょっとずつ料理も出していきます。
ネタの方は、ハーフアップ、レイピアで「閃光」ですから、有名なラノベ&アニメ「ソードアートオンライン」です。アスナの髪型、22話で変わっていた気が。ルナは厨二病的に、そんな二つ名を使おうとするのですが……。




