左耳のピアス
ミチコは、マリアにも少し似ているかもしれないが、こういう虚心坦懐なところは、前世の三蝶子そっくりだ。
「整いました」!
悪魔の「お題」は、彼女を幸せにすることで間違いない。なるほど。さすが悪魔と言うべきだろう。設定がとてもいやらしい。
わざわざ、私を女にして、しかも同性愛者とした理由が分かった。これこそが悪魔のアイロニーなのだ。私は某有名アニメヒロインの親友ポジションを与えられたということだ。
自らが同性愛者としてヒロインに恋い焦がれていながら、それを隠し「親友」として彼女が愛する男性と結ばれるよう応援する。漫画やアニメのキャラクターは、架空の存在で、あり得ないくらいの人格者である場合が多い。だが、現実の私は、アニメヒロインの親友のように振る舞えるのか?
あの物語のように自らがとても厳しい精神状態にあるにも関わらず、他人を気遣えるような広い心を持ち得るのか? 率直に言って無理だろう。夜ごとミチコへの想いに身悶えしながら、昼間は何事もなかったように彼女の恋愛相談に乗る。
しかし、しかし、だとしても、私は想いを遂げなければならない。私は知●ちゃんのような人格者にはなれないが、親友として彼女を応援するくらいは何とかなるだろう。悪魔の姦計かもしれないが、決して彼女を我が物にできないことは、やり直すための対価と考えるようにしよう。
彼女は恋人ではなく「親友として」幸せになってもらう。そう心に決めてみると少し気が楽になった。なにより、彼女の立ち位置に「罠」がある訳だから、彼女自身は信頼して問題ない人物なのだろう。
今までの言動からもそう感じたし、既にこの時点で、私は「彼女を信頼できないかもしれない」などと考えられない心理状況だった。意味、分かるわよね?
いずれにせよ、その方針なら、私が百合であることにはメリットがある。ミチコと同じ男性を取り合うことなどあり得ない。百合とヘテロなら女同士の親友でいられる道理だ。
百合? そうか。ピアス。彼女にバレることが凶と出るか吉と出るかは何とも言えない。リスクを考えれば隠した方がいいかもしれない。右耳に似たような物を作って着けてしまえば、誤魔化せるだろう。
だが、このピアスはエルフ族として同性愛者として、前向きに生きるとした誓いのようなものだ。つまらぬ弥縫策は、これを託してくれた長老やフェアルに対し非礼だろう。
ミチコは人外と見える私も公平に扱うと言った、その言葉に偽りがないのであれば、同性愛者であるかどうかなど些末なこととしてくれるハズだ。ここはメリットがある方に賭けよう。
「さっきから、急に黙って考え込んで。どうかした?」
「ああ、ごめんなさい。着替えて学園長に挨拶してこないと」
「そうね。あ、でも、もう一つだけ。私が同室に選ばれたのは、私の治癒魔法が貴女の魔法剣とバランスがいいこと。それから、貴女の魔力は破格らしいけれど、それに次いで強い魔力を持つ者は私ということで……」
彼女の容姿が気になってしまい注意が行っていなかったが、確かに漏れ出る魔力量からすると、彼女は有能なヒーラー、プリーストだと思われる。
「ああ、そういうことね。ちょっとね。秘密というほどではないのだけど。どうせ着替えるから」
私は指輪に魔力を込めて変身を解いた。全裸になったということだ。ドレスに着替えて学園長に挨拶に行かねばらなないのだから。
「ちょ、ちょっと。人前で!」
ミチコが目に押さえ、慌てたような口調で言う。
「え? だって。女の子同士だし」
「ああ、さすがお嬢様。同級生として友人として忌憚ない意見を言わせてもらえば、性別は関係ないわ。恥じらいを感じないというのは、相手を石ころだと思っている証拠。とても失礼なことじゃないかしら?」
「あっ!」
私は耳まで真っ赤になり、慌てて下着を付けドレスに着替えた。そうだ。彼女はマリアじゃない。もっとも、マリアに全裸を見せても恥ずかしくないのは、彼女を蔑んでいたわけではなく、肉親と感じていたからなのだが。そのことについては触れなかったが、確かに、ミチコの言う通りだ。
「ごめんなさい。そういうつもりではなかったけれど、貴女の言う通りだわ。非礼を許して」
「いえいえ。驚いた分、言い方がキツくなった私の方こそ、ごめんなさい。全裸を見せられたからといって、貴女の評価を『高慢なお嬢様』に変えたりしないわ」
「あのね。一瞬、見えたと思うけど。ペンダント。あれが私の肌に触れている時、漏れ出る魔力を吸収してるの。肌から離すと、ちょっとした事件になる……ってこと」
そう。そうなのよ。言わなかったけど、お風呂に入っている時もそのまま。魔法的なペンダントだから、錆びる心配はないけど、体を洗う時には気を使うわ。だけど、「体に触れている」という言い方は正確ではなく、触れるくらい近くにあれば大丈夫みたい。
「なるほど! じゃ、今度、森の奥かどこかで離してみせて」
「ええ。いいわよ。今度は全裸にはならないわ。二人のひ・み・つ」
「あはは。うーーん。もう少し良く貴女の裸見ておくべきだったかしら。森の奥でも全裸でお・ね・が・い」
「おいおい。さっきの弁は何処行った?」
「あああ、いけない。夕食までには挨拶を済ませておかないと。じゃ、後で」
そうよ。後書きにはちゃんと書くわ。一目惚れだったの!
大好きなので、よくネタにしている漫画、アニメなのですが。「カードキャプターさくら」です。親友の知世ちゃんが、百合設定って。アレ「なかよし」連載だったのですよ! 大人の目で観ると、知世ちゃん、メッチャ切ないです。でも健気なんですよねぇ〜。アニメ六十話とか泣きました。すいません。昔のアニメで。でも不朽の名作です。
あと、女の子同士だから裸は平気ってところですが。これも、昔、あるポルノグラフィティの一シーン。着替えの際、主人公が召使の前で裸体を晒しちゃいます。相手を「人」と思わなければ、羞恥心がなくなる。少なくとも初対面では、失礼だったかと。でも、許してやってください。ルナ、中身は幼いのです。




