十二歳のころ
〜終焉を告げる銀の星、天より落つる時、紅蓮の炎、渺渺たる深淵を開く〜
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ここは中世風の異世界。ある北の地。ノルデンラードと呼ばれる地域の領主サムエル辺境伯の屋敷からこの物語は始まる。
「旦那様、旦那様! お嬢様が、お嬢様が『お目覚め』になりました!」
「マリア。朝からなにを騒いでおる。こっ、これワッ!!!!」
私は田舎貴族とはいえ辺境伯の長女として生まれた。このあたりは、魔族支配地域との国境を挟んでいることからも、その領主は広大な領地、州と表現した方が、ぴったりくるかもしれない、を支配していた。さらに、独自の軍隊も整備されており、大きな権力を持っている。数百年前、王国が群雄割拠していたこの地域だが、魔族との諍いを契機に人族が団結し、平和裏に統一国家となった。
経緯は後述するが、私の頭にある「異世界」の歴史と対比すると、オスマントルコがヨーロッパを統一した体だが、武力で一つになったのではなく、EUのように、経済交流を中心とした国々の関係性から始まり、魔族という共通の「敵」を前にして軍事的に協調し、やがて国は州になったという構図だ。
従って、辺境伯の屋敷とはいえ、小規模な宮殿のような造りだ。オレンジ色と空色に塗り分けられたレンガ造りの三階建。私の知る「異世界」の知識に引っかかるキーワード。ロココ調、クレムリン宮殿……、といったところか。いずれにせよ、私は、大貴族の子として生まれ、何不自由のない生活。生まれて十二年間、ひもじい思いをしたことは、一度たりとてない。
父も母も弟も親族としての愛情を私に注いでくれているには違いない。だが、幸せな毎日、というにはやや微妙な部分もある。それは、私の容姿に起因する。天使の輪が輝くプラチナブロンドの髪、深山幽谷に隠された誰も知らぬ湖のようなエメラルドの瞳、そこまではこの世界の人族の子として珍しくはない。問題は私の耳の形状だ。母方の先祖の血縁から来るものらしい。私の耳は三角形で横に長いエルフのものだった。
それだけではない。自分で言うのは気が引ける。えぇえい!! 言ってしまおう。私の容姿は「美し過ぎる」のだ。鏡に映る己が姿は、先祖の血が出たなどという生易しいものではない。人外であるエルフそのものに見える。
親族の私への態度に微妙は空気が漂うという点は、ご理解いただけただろうか? でも。唯一、別格といってよい人がいる。マリア。幼いころから私の面倒を見てくれているメイドだ。彼女は私心がないというか純真無垢というか、容姿バイアスなど存在せぬかのように私に接してくれる。私が誤ったことをすればキツく叱ってもくれる。おずおずと「推奨すべきこと」を語る母とは大違いだ。この世界で、彼女だけが私が心を許せる人物と言っても過言ではない。
ああ、そう。そう。話が逸れてしまった。朝の大騒ぎについて説明しておこう。この世界では、女子は初潮、男子は精通がある頃、魔法に「目覚める」。魔法は一人前の大人になるまで使えない、というふうに解釈してもらえば、分かりやすいだろう。十二歳というのはほぼ標準ということになるのだが、容姿から推測するに、私の寿命はエルフ並みである可能性が高い。人族としての平均値に意味があるか否かは何ともいえないのだが。
本来「お赤飯を炊いてお祝いすべきこと」なのだろうが、マリアが大騒ぎしたのは、発現した私の魔力量が尋常ではなかったということだ。そもそも、人の魔力総量を正確に測定する手立てはないのだが、魔力が体に満ちる。「異世界」では、おなじみのロール・プレイング・ゲーム風に言うと、MPが百パーセントを超えると溢れ出てきてしまう。この溢れ方がただならぬ量だったという表現が正確だろう。
え? なんで、私がお赤飯やRPGを始め「異世界」のあれこれを知ってるのか? ですって?? それはそうよ。私、転生者だから。というかさぁ〜。魔力が発現するまで、自分が転生者であることは、キレイに忘れていたのだけれど。
前世の記憶は「記憶喪失」のように私の頭から消えていた。そして、この日、私は全てを思い出した。成り行き上、前世のことも教えてあげないでもないわ。聞きたいの? しょうがないわねぇ。じゃ、ちょっとだけよ。
キリがいいから九月一日スタートにしたの。え? 何? この小説は、私、ルナが書いてるって言ってるわよね? そうよ。決して中の人なんていないんだから!
・・・というトーンで後書きも書こうと思いましたが、まぁ、ねぇ〜、いないハズの中の人です。
初めての方、はじめまして。前作も読んでいただいた方、また、よろしくお願いします。前作(百合磁石)の最後の方で「秋には」と言っていたのですが、無事、早めの秋に出すことができました。
前作は、ウケ狙い、あ、違った、読み手の方が楽しめるように、書いたつもりです。ですが、今回は、自分の描きたいモノを書いたので、どうかなぁ〜、どかなぁ〜。でも、小説を書くって、自分の内なる何かをぶち撒けるという部分もあるでしょう。その結果が、人気作品になる大作家が凄すぎるわけで、太宰をライバル視してはいけない! ってこと。数字は気にしないで行きます。
ところで、中の人には、途中挫折した過去作がいくつかあります。その反省があり、前作からできるだけストックを貯めてアップするようしています。今作、実はぁ〜。結末まで既に下書きができています。で、それがですねぇ〜。ちょっと頑張り過ぎてしまい三十万字以上。毎日、二千くらいずつ出していくとして、完結は来年になる計算です。どうか、気長にお付き合い下さいませ。
いつもネタバレ書いちゃう中の人ですが、今回のトリガーというか、発端はSFの名作「星を継ぐもの」を再読して、進化論って面白いなぁ〜 と思ったこと、それから、それからぁぁぁ。昔の漫画ですが、今、アニメとして放映されている「フルーツバスケット」。後者は、本編を読んでも、どこが? な感じかもしれないです。でも、少女漫画独特の空気感というか、明るくコミカルに見せつつ、なんともいえない闇があるところを再現したいなぁ〜 と考えた次第です。ですので、タイトルも少女漫画風にしました。
これらの切っ掛けがあって、異世界転生の定型を踏まえた終末物。聖書の黙示録をイメージしたストーリーと、あとは、うーーん、難しいですが、女の子同士のラブストーリー。意識した吉屋信子のように(当然ですが)細やかには行かなかったけれど、中の人なりにいろいろ妄想してみました。
なお、少しだけお断りを。本編中に歌詞が入りますが、全て著作権切れのものです。また、著作権が存続している曲、小説などについては、タイトルと作者名、アーティスト名のみ記述し、念のため●で、ちょっとだけツブしています。
それから「異世界」という表記は、ルナのいる異世界から見れば、私たちのリアルワールドが異世界じゃん? というノリで「」付きにしましたが、以降、ちょっと紛らわしいので、最後の段落のように、前世という表記をしていくつもりです。
ということで、後書きが長い中の人なのですが、いろいろネタバレ(って、解説しないとイミフなもの多し)を楽しみにしている方(いるかなぁ〜??)向けに、多分、毎日書いていきます!
ああ、ついでに。ついでにぃ〜。今、ご覧になっている白っぽい背景色ですが「白百合色」です!