エピローグ〜タマコへの謝辞
とうとう、最後の家族が亡くなってしまった。タマコ。ミチコが亡くなってからも、ずっと私を支えてくれた「肉親」。予想していたはずの未来なのに、この寂寥感、喪失感はなんだろう。
一本ずつ手足をもがれていく拷問を受けているようだった。私の愛すべき家族や仲間は、優しく、暖かく、あまりに素晴らし過ぎた。その対価ということなのかもしれない。
彼女の遺族、子、孫、ひ孫……、配偶者を合わせれば総勢三十人以上いる、と一緒に遺品を整理していたら、私宛の手紙? 「ルナママへ」と記した大きな封書が出てきた。ミチコのように何か遺言を残してくれたのだろうか? だが、それにしても、分厚い。
開けてみると原稿用紙に、青いインクで流れるような流麗な達筆が残されていた。確かにタマコの字だ。少し読んでみる。私たちが過ごした冒険の日々、そして、人類滅亡の危機が去った後の世界のことが、ノンフィクション小説として綴られていたのだ。
そうか! 私は常々「思い出」に拘っていた。それは、こんな日が来ることを見越した、ただの我が儘。その思いを斟酌して、私に生きる糧を残してくれた、ということなのだろう。
ダメな私。子供に気を遣わせるなんて、親失格だ。だけど。でも。とても。とても。嬉しい。ああ。大切なタマコの遺品を涙で汚してはいけない。いつものように、私は天井を見つめた。
小説の中でもタマコは気丈に振る舞い、親から引き剥がされた辛い想いについては、詳しく描かれていない。いや、その気持ちは筆舌に尽くし難し、ということだろう。書かなかったのではなく、書けなかったのかもしれない。とはいえ、喜ばしいことに、こちらに来てからのタマコは、本当の笑顔を見せてくれるようになっていた。
さらには、良き伴侶を巡り合い、子宝にも恵まれた。勝手な解釈かもしれないが、彼女の人生の後半は、まずまず幸せであっただろう。親として、そうだったと信じたい。
折角、タマコが残した名文に蛇足を記すのは気が引けるが、最後に、事の顛末を少しだけ加筆しておきたい。
私たちはベルフラワーの仲間を中心に、自動車会社を立ち上げた。とても順調に会社は発展し、わずか十年で世界的な企業に成長した。だが、その後がいけなかった。残念ながら、私たちが培ったテクノロジーは、全世界に広がることもなく、社内でも後進に上手く引き継げなかった。
これは偏に私が焦り過ぎたということなのだと思う。進化と同じ考え方だ。テクノロジーにおいても、ミッシングリンクはあってはならない。いきなり二十一世紀を目指してしまったのが間違いだった。
こういうことだ。当初、会社を立ち上げた創業メンバーは、全て魔法を持つ者だった。だから、とんでもないオーバーテクノロジーだったとしても、簡単に理解することができた。
だが、彼らの引退後、テクノロジーの継承が上手くできなくなってしまったのだ。創業メンバーが人族で寿命が短かったという点も大きい。わずか数十年で、テクノロジーを世界に広げるのは、土台無理な話だったのだ。
ただ、誤解しないで欲しい。魔法を持たない人族が劣等民族だという意味ではない。魔法を持つ者の方が、現実世界にあってはならない存在だったのだろう。要は、自然の摂理としてテクノロジーはその発展形態に順序があるということだ。
さらにいえば、まだ魔法が残っている間は、自動車を作る工作機械や素材加工の一部に魔法を使っていた。そうでもしないと、複雑な工程が必要な自動車を、ゼロから作ることは不可能だったからだ。例えば、金型を作るのがどれだけ難しいか、考えてみてほしい。魔法なら一瞬なのだ。
もちろん、これら全ての工程を魔法を使わない方式に改めようとはしていた。だが、魔法の終焉に間に合わなかった、という事情もある。
結局、世界は産業革命から「やり直す」しかない事態に追い込まれていった。会社は蒸気機関を造ることで、継続はできたが、私たちが築き上げた全ては、「伝説」となってしまった。
ことこれに至り、私が今までの方針で人類にアドバイスすることが、本当に正しいのか? がとても悩ましくなってきた。さらに、私の性格の問題もある。魔法を持たない者との交流は、それは私がひねくれ者だからなのだろう、どこか共感の欠如があり、上手くいかなかった。
少しずつ私は人を避けた。本当にマリアの存在とはなんだったのだろう? 彼女だけが特別だった理由は今もって分からない。
だが、ミチコから言われた使命を忘れた訳ではない。私は生の続く限り、人族に対し、陰ながらのアドバイスは忘れないつもりだし、私の死後、エルフの里の「財産」を解放するつもりだ。
そして、ミチコの手紙、タマコの小説、仲間、家族との思い出、その全てに感謝しながら、天命が尽きるまで生きていこうと思う。
ああ、そうだ!! 自伝小説か……。それもいいかもしれない。今は、人類に残すべき研究のことで、頭がいっぱいだが、いつか、そう私の寿命が尽きる前に。私も何か書いてみたいと思う。小説を書くということは、懐かしい日々を思い出すことでもあり、それは、私にとって心躍る作業となるに違いない。
このエピローグは、そんなヒントをくれた、タマコへの謝辞でもある。
ありがとう。タマコ。やっぱり貴女は私たちにとって、神からの最高の贈り物。まさに「恩寵」だったわ!
なのに私は、貴女に、身代わりペンダントについて感謝の言葉を伝えることができなかった。後悔? いいえ。違う。むしろ、これは、神の配剤。きっと、また、こことは違うどこかの世界で、ミチコと三人、家族になりましょう!
もちろん、リベカ、エドム、ジャム、リリス、ジャン、ルツ、ナオミ、セム、テラ……そして、両親、弟、マリアも!! みんな、みんな、配役は変わっても、どこかで一緒に。その時まで、このお礼は、大切にとっておくから。
最愛の娘タマコ! 永遠の愛を貴女に 〜 われても末に逢はむとぞ思ふ❤︎
書きたかったタマコへの謝辞は本文に書いたと思う。だから、みんなへ。ここまで読んでくれて、本当にありがとう。この後書きは、本編小説の後に書いているわ。だから、エルフの里の遺産とともに、本編+外伝のノンフィクション小説として、後世に残すつもりよ。って、今、読んでくれているのよね? き・み。
長い、長い生涯だった。でもね。なんだかんだ言いながら、楽しかった、幸せだったと思うの。時間の長短ではないのよ。よき家族、友人、仲間に、もう一度感謝を! そして、今、読んでくれている方の、ご多幸を心から祈っているわ。それじゃあね!
外伝を最後に付けたのは、もう一つ理由があります。本編が悲しいエンディングでしたので、せめて、なにがしかの「希望」がある終わり方をしたい。というのが、最後のルナ発言です。転生のある異世界、きっと、みんなどこか新しい世界で楽しくやっていると思います。
感謝の言葉はルナが、私に代わり述べてくれました。ですので、一言。ありがとうございました!!
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で、でぇぇ。予告でございます。2021年秋頃、新作リリース予定です。
今作ほど長くはない気はしますが、やはり長編です。今度も主役は女の子。名前は、スミレちゃん。転生物(転移かな)ではありますが、主人公はヒーラー&ガンナー(タマコみたいな)です。
しかもヒロインは、かなりサイコパスさんで、魔王と結託して、人類の滅亡(皆殺し!)を謀るという、トンデモな方向性です。物語の倫理観も、ちょっと異常な感じとなります。
・・・というのをですね。一人称をやめて、なんと、二人称。「主人公はあなた」を交えて描いてみる予定です。(二人称+三人称描写)
ああ、そうそう。男性はもれなくTS「そうよ、貴方はこれから、お・ん・な・の・こ♪」してもらいますからね。
実験的な作品ともなりますが、よろしかったら、読んでやってくださいませ。
でわ。でわぁ〜。また、秋にお会いできるのを楽しみにしております。




