冒険者のミッション
そんなある日、いつもの四人でのミッション。久々に見る高レベル、ゴールドの星二つというものだったが、生憎、アライアンスを組む適切なパーティが見つからなかった。この頃には、ギルドに集う冒険者の数も徐々に減ってきていたのだ。
「まぁ、四人でも行けるでしょ?」
冒険者にも慣れてきて、ちょっと甘く見ていたのかもしれない。二泊した氷の洞窟の採取ミッション。私に強化魔法があるので、エドム&ジャム伯父さんは剣で戦う方が効率的となり、いつも、そのスタイルとしていた。
強化魔法というのは一つの魔法だが、人にかける場合、二重までの重ね掛けは可能だ。RPGというものはよく知らないが、I、IIがあると説明したら、ルナママは一発で理解した。要は、I、IIを重ねると、その人の能力、ステータスが三倍になるということだ。
上げるステータスは二つ選ぶことができるので、素早さII(二倍)と攻撃力II(二倍)のバランスがいいと思うのだが、素早さI、II(三倍)のリクエストが多い。まぁ、結局、手数が多い方が効率がいいというのは、どうやらゲームと同じらしい。ハリスには防御力強化がいいと思うんだけど、コイツもノウキン! 素早さアップをくれと言われる。ま、素直にお願いされた強化をするのだけど。
結局、上級冒険者にはマチマチ一択となるようだ。って、ルナママの受け売りよ。なんのことだか、分からないけど、彼女の前世の知識らしい。
剣士の二人が先行して、私はハリスに守られながら、FN P90を撃ちまくる。ああ、もちろん、先行二人への治癒も忘れずにやってるわ。思いの外、雑魚ガーディアンの数が多く、予備マガジンを使い切ってしまったが、なんとかボスまで辿り付くことができた。
ボスは、ヌエ型だった。猿の顔、狸の胴体、虎の手足、尾は蛇というヤツだ。こいつが、氷属性というのは、ちょっと変だなとは思っていた。
これも慣れた感じで、ハリスがタゲを取り、剣士二人が攻撃。ルナママやリベカお姉ちゃんがいないパーティは、ちょっと火力不足。止め刺すのは私の役目となることが多い。
止め用にS&W M940(魔改)リボルバーには魔弾をセットしている。魔弾とは、スライム弾に魔導石を粉末状にして混ぜるというものだ。一発のコストはかなり上がるが、弱属性のガーディアンに対して、絶大な威力を発揮する。今回は氷の洞窟なので、火属性の魔弾を五発装填しているのだが。
「OK! タマコ、お願い!」
「はい!」
とても動きの速いボスだが、射撃の腕はかなり上達した。外すことなどない。私は正確に、魔弾を猿顔の眉間にお見舞いした。
「ぐぉぉぉ」
やったか? アレ? 一発でも弱属性がこもった魔弾を受けて無事でいられるガーディアンはいなはず。だが、ヌエは倒れず、手負いとなって暴れ回る。どうして??
「前に経験がある。これ、ボスだけ属性が違うのかもしれない。もしかして、闇属性なんじゃないか? タマコ、光属性の魔弾、持ってるよね。しばらく三人で凌ぐから、それで撃ってみて」
エドム伯父さんはいつも沈着冷静だ。
「はい!」
ヌエは、小型である分、足の速いボスだと思う。手負いとなった今、逃げるといっても犠牲者なしに逃げ果せる可能性は低い。もう倒すしかない!
念のために各属性の魔弾も一揃え持って来てはいる。予備弾の袋から魔弾を出そうとして、慌てて、地面にばら撒いてしまった。ルナママのことを笑えない大失態だ。
あああああ! いけない!!
蹲み込んで、白くペイントされた魔弾を探した。あった! 急いで弾倉にセットする。
待て!! 待て!!
魔弾は一つ。外したら終わりだ。落ち着け自分。私は目を閉じた。心の中に広い湖を思い浮かべる。風のない平らかな湖面。鏡のような湖面……。ジャン伯父さんに教えてもらったゼンの極意。明鏡止水。スッと心が落ち着く。私は目を見開き息を止めた。
忘我の境地というのだろう、まるで時間が止まったようだ。正確に、精密に、照準を合わせる。私のS&W M940(魔改)はダブルアクション、ハンマーを起こす必要はない。静かにトリガーを引く。
タン!!
澄んだ薬莢の破裂音が洞窟に響き渡った。聖なる魔弾は20万PRMの超高速回転をしながら真っ直ぐヌエに向かう。この時、私の目には弾頭の回転まで見えていた気がする。刹那の後、光がヌエの額を貫いた。
ぐおおおおお!!!
ヌエが断末魔の咆哮を放つ。ガーディアンボスはゆっくりと地面に倒れ、やがて、光の泡となって消え去った。
「ふぅ。やったね! タマコ、【よくやった】」
「あっ! これは!」
ジャム伯父さん、うん? どこかで聞いたような、が、目ざとく見つけたそれは、ボスのドロップアイテムである魔導結晶だった。
魔法が失われていくに従い、魔導石の産出量も減り、いまではかつての数倍の価格で取引されている。闇の魔導結晶ともなれば、とんでもなく高価だろう。もちろん、ボスが守っていた闇の魔導石もある。
「ねえ。ベルフラワーのみんなに何かプレゼントでもしない?」
「ああ、それがいいね」
帰ってルナママに相談したら、将来の軍資金に残しておけと言う。結局、ケーキを作って、みんなで食べるに止まった。もう、このころから、ルナママの頭には計画があったのかもしれない。私たちが冒険者を辞めてからの青写真が。
このミッションを終え、コパーランクだったハリスはシルバーに昇進した。彼とはお互い冒険者を引退した三十歳を過ぎてから結婚し、一姫二太郎、三人の子宝を授かるのだが、最終的な二人のランクはゴールドだった。
うはぁ〜。この話、聞いてないよぉ〜。こんな危険な目にあっていたなんて、無事でよかった。それから、タマコは、子宝にも恵まれた。これは、彼女にとって何よりなことだったと思うわ。
タマコのクラスのイメージは、FF11の吟遊詩人です。上級者というか、レベルキャップに達した、ハイな人たちは、マチマチ(攻撃間隔を短縮するマーチ&マーチの重ねがけ)を好むようです。中の人はアタッカーを本気でやったことがないので、よく分かりません。
あとですね。ハリス君に台詞がないのは意図的です。「のんのんびより」の越谷卓君(お兄ちゃん)をイメージして遊んでみました。




