ガンナーの武器
それから、数ヶ月ほどの時が流れた、ある午後こと。私の部屋に置かれた白百合の花は、満開となっていた。
「できたわ。できたわ! エルフからの技術供与に手間取っちゃって。もう、彼ら、原理原則にこだわり過ぎ」
ルナママは、入学の二ヶ月ほど前に、私に渡す機関銃を完成させた。もしかしたら、彼女、前世ではガンマニアだったのだろうか、いつになくウキウキした口調で解説してくれた。
「タマコにはねぇ〜。もう、女の子持ちの定番! FN P90を用意したからね! 女子力マックスのメインアームだと思うわ。パクリと言われそうだから、ピンクのカラーリングは控えてあるの」
彼女の前世でいうところの、ベルギーFN社が開発したFN P90を模した機関銃を作成したという意味だ。独特の美しいフォルムを持つ短機関銃。小型で、私にも使いやすそうだ。パクリの意味は、よく分からなかったが、ママの前世の何かだろう。
だが「ホンモノ」とは違う点もある。エルフから技術供与を受けた、魔法の特殊鋼の利用だ。彼女はこれを、魔法なき世界への対応実験の位置付けとしつつも、現状で使える魔法技術は可能な限り取り入れてくれていたようだ。
まず、ミスリル剛。ステンレスなどに比べ、軽く丈夫な筐体にすることができる。薬莢などにも利用することで、機関銃全体として、大幅な軽量化がなされていた。
さらに、スライム鋼という特殊鋼は魔法の世界ならではのものだ。ブレットの鉛代わりだが、通常は軽いのに、着弾した際、速度はそのままに重量が増すというトンデモ魔法特性を持っている。
ルナママよると、いわゆる、ダムダム弾の威力ということらしい。貫通せず、乱回転しながら大きく広がり、軟体へのストッピングパワーは強大、凶悪な殺傷能力を生むことになる。もちろん対人用ではなく、ガーディアン、対魔物仕様ではあるのだが。
さらに、弾頭が軽量化することは、発射薬が少なくて済むということでもある。結果、反動が少なく、あまり力のない私にはとても扱いやすい機関銃になっていた。
ブレットの形状はFN P90専用のボトルネック型で同じだが、前記の魔法鋼のおかげで、パワーを維持しつつ大幅に小型化された。「ホンモノ」は50発収納のマガジンを使うが、こちらは同じ大きさのマガジンに倍の100発入る。これを魔法の小型化袋に収納することで、十個程度の予備マガジンを携行できる、という具合だ。多数のガーディアンに対峙する冒険者にとっては、とてもありがたい仕様だ。
とはいえ、この機関銃の発射速度は900発/分。調子に乗って撃ってしまうと、すぐにマガジンが空になるだろうけど。
また、サイドアームとしてS&W M940のリボルバーを模したものをもらった。ルナママが自動小銃を作る前にプロトタイプとして製作した拳銃だ。「可愛くないからSIGにしなよ!」と言われたが、むしろ、無骨なリボルバーが気に入った。
この拳銃もミスリル鋼のおかげでかなり軽い。口径は9ミリで、他の銃と共用の9mmパラベラム弾を使う。
ああ、パラベラムというより、スライム弾と言った方がいいだろうか。前述のような強力な魔法のブレットを利用しているのに、発射薬の量は「ホンモノ」とほぼ同じ。ルナママによると44口径を超える威力とのことだ。なんでも、クマくらいなら一発で倒せるとか。
ルナママは自分自身の護身用拳銃も作っていた。SIG SAUER P239。これも女の子御用達のお洒落な拳銃らしい。護身用といいながら、やっぱり9mmスライム弾を使っている。何を撃つつもり? ママらしい選択だ。
彼女、最近では、スーツ姿で過ごすことが多い。ネイビーのペンシルストライプがお気に入りで、ミニ状のタイトスカートで颯爽と歩いている。だから、剣は携行せずショルダーホルスターに拳銃を差し、ジャケットを羽織るというスタイルが定番だ。
ミチコママはちょっと嫌がったようなのだが、ルナママが強引に護身用銃を持たせている。Beretta BU 9 Nano。小型で可愛い感じの銃だし、ルナママのこだわりでピンクにカラーリングしてある。だけど、これも9mmスライム弾使用で性能はかなりヤバイ。
ベルフラーハウスの庭で練習用のゴム弾を使って的当てをやっていたが、銃器については、私、そこそこ才能があるのだろうか、わりと簡単にコツを掴めた。
以前、ふらっと当家に来て一ヶ月ほど滞在して行った、ジャン伯父さんから習ったゼンが役に立っている。
もともと、ゼンはフヨウ国の伝統のようなのだが、彼は遥々旅をして、その極意をマスターしているようだ。ルナママは不得意らしいが、私は、心を落ち着け集中力高める、という技に適した精神構造をしているように思える。
タマコにFN P90を勧めたのは、前世での知識よ。「SAO オルタナティブ ガンゲイル・オンライン」のレン、「GUNSLINGER GIRL」のヘンリエッタが有名かな。特に後者。短めの髪とチャーミングな容姿が、どこか、タマコに通じるものがある。女子学生風のグレーのツーピース、セーラーワンピ、着ている服も可愛いの。
対人戦と違い、RPG的な対魔物戦は、敵の数>味方の数だと思います。そうなると遠隔武器は、自動で矢が供給される箙のように、何らかの魔法サポートが必要。そうじゃないと、すぐに弾切れになるはず。でも。でもです。機関銃の弾が魔法で自動発生って、どこか興醒めというか、ダメな気がして。
なので、特殊な鋼材で軽く、かつ、銃弾も小さくしてみました。これで、百発入りのマガジンを十個。千発以上は撃ちまくれる計算です。
あと「弾丸」と日本語で書くと、飛んでゆく弾のみをイメージするのかな? と思って、ブレットとしました。弾+薬莢+発射薬など一式の意味。「実包」「弾薬」です。
ルナはわずか数ヶ月で、こんな凄い物を完成させています。ということは、製造工程において、かなり魔法サポートがあったということなのです。ルナの知識があれば、21世紀の各種工業製品も作ることは可能です。ですが、魔法なしで、量産して行くとなると、全く別次元の問題が発生するということになります。て、あたりがこの先、行き詰まる大きな要因です。
蛇足ですが、リボルバーは定番のS&W M19とも思ったのですが、9ミリパラベラム弾が撃てないのと、女の子なので、コンパクトなのがいいかなと。




