珠子の生い立ち
私はフヨウの国ラクヨウの武将ミツヒデの娘として生まれた。ルナママの前世の史実とは随分と異なるようだが、私が生まれたころ、既に父はこの国の王となるノブナガの家臣となっていた。
ノブナガについては、その先鋭的な英知により、ついに王権争いに終止符を打ったという点は高く評価されるべきだろう。
彼の最大の功績は、争いのないフヨウを作ったということだ。私事とはなるが、私が生まれたころの常識では、武家の娘は政略結婚の具、さらには、敵への人質、そんな未来がなくなったというだけでも、彼に、どんなに感謝しても感謝し過ぎることはないだろう。
しかし、彼は、少々性格が粗野過ぎただけではなく、これは、公にできないことではあるが、世界崩壊の危機を作った「魔法ウイルス」に感染してしまった。父は、フヨウの王の権威を守るため、これを隠し、敢えて逆賊の汚名を着ての死を選んだ。
誰が悪いという話ではない。だから、ノブナガを恨む気はさらさらない。だが、今でも、このことは私の心に深い傷を残している。齢八十を過ぎているというのに、まだ、出血が止まっていないように思える。
前述したように、私は、政略結婚の具となる人生、あるいは、父と死を伴にする生涯を夢想していた。断っておくが、決して絶望していた訳ではない。当然あるべき未来と、諦観していただけだ。幼いころから「武家の娘かくあるべし」と教えられていたのだから。
だが、あの日、魔法が発現したその日を境に、私の人生は大きく動くことになる。まるで、芝居の回り舞台のように、見るもの聞くものが一変してまう運命が待っていたのだ。
父はいち早くノブナガの「異変」に気づき、冒険者ギルド・ラクヨウ本部と相談したようだ。父にとっては主君を売る密告。ノブナガが魔法ウイルスによる狂乱で、これ以上、民を傷付けぬよう、父としては苦渋の選択だったと思う。
逆賊の汚名を着たのも、主君への忠義に反する行為に対して、せめてもの償い、という想いがあったのかもしれない。
そして、私には、奇しき運命の出会いが待っていた。ユーロ連邦王国から派遣されてきたギルド・エージェント二人。ルナママとミチコママだ。父は彼女らとユーロ連邦に行けと言う。彼女らからは養女にするとの申し出があった。あまりに急なことで、頭の整理がつかない。
父が逆賊となるのなら、私は当然、父に殉じ、生涯を終えるものだと思っていた。だから、養女になるなど、武家の娘にあるまじき卑怯な行為として抵抗感も強かった。
しかし「アケチの血統を残せ」との父の言。私の命を助けようとする方便だと分かっていた。でも、それでも、それが父が望むこと、親孝行となるのなら、従おうと思った。
いや、これも教育の賜物なのかもしれない、父の命には逆らうことができなかった、と言った方が正解だろう。
え? お前は誰? ですって。ルナよ。ルナ。この小説は、タマコが私に残してくれたもの。だから、その後書きを書くのは当然でしょ?
読んでみて改めて分かる、タマコの聡明さ。10歳? 小学校4〜5年生ってことよね。信じられないとも思う。だけど、この時代の人は数え15歳で元服。そう考えると早熟だったのかもしれないわね。
ということで、この部分の後書きは再びルナにお願いする予定です。




