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シュウマツの窓辺に白百合を〜異世界に「あたし最強!」で転生したのだけど、前世のヨメがいた  作者: 里井雪
エピローグ

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私たちの希望

 この物語はルナという筆者により書かれたものだ。だが、彼女の死によって未完に終わっている。


 私は彼女が養子とした者の末裔。血はつながってはいないが、彼女の子孫ということになる。だから、余計なお節介をしたくなってしまったのだ。どうか、事の顛末を書き加えることを許してほしい。


 私がルナのことを知ったのは、我が家に伝わる不思議な珠の伝承による。その珠は、どのような動力で動いているのか全く分からなかった。


 にも関わらず、少なくとも私が生まれてから二十年の歳月を輝き続けていた。事の子細を知るまで、その珠とともに保管されていた遺言は御伽噺だと思っていた。信じてはいなかった。


 珠と遺言は百年近くも前に、私の曽祖父に預けられた物だということだった。遺言によれば、私の祖先は千年前に日本からこのドイツに渡って来たのだという。


 私の容姿は金髪碧眼、どう見ても東洋人には見えないが、血脈のどこかに日本人が混じっているらしい。


 当時、私は、ミュンヘンの大学に通う学生だった。その珠の光が消えたのが気になって、遺言の通りに行動してみようと思ったのだ。


 まだ若かった私にとっては、ちょっとした遊び、冒険旅行のつもりだった。夏休みを利用して私は、遺言が示すシュバルツバルトの森の奥へキャンプ道具を抱え、旅立った。


 森の奥には魔の領域というものが存在した。当時の私の考えでは、強力な磁場があるのではないかと予想していた。電子機器や磁石は狂い、近づくと頭痛がするというのだから。磁界シールドを施したスマートフォン、ヘルメットに鉛を貼ってみるなど、役に立つか否か不安だったが、一応の対策は講じた。


 若く、冒険心旺盛な私だったが、遭難してしまう危険性もあり、「引き返す勇気を」と念じながら森に入った。しかし、それは全くの杞憂だった。


 有効だったGPSと地図を頼りに迷いながらも、森の中で三泊すると、私は、エルフの里に到着していた。なんということだ! あの遺言は御伽噺などではなかった。


 エルフの里を見て私は太古の超文明を信じざるを得なくなった。こんな森の奥に、現代の建築技術の粋を凝らしても造れそうにない建造物。そもそも、建材や建築機械をどうやって運んだのか?


 これらの建造物が今まで人の目に触れなかった理由。人の行手を阻んでいたのは、本当に魔法の結界だったのではないか。彼女の死とともに雲散霧消していたというのなら理屈は通る。


 私はルナが指定した家に入った。なんとそこには、眠っているようなルナの遺体が、ベッドに横たわっていた。あの珠の光が失われてから、一年は経過しているはずだ。なのに、そこにある遺体は、まるで生きているかのようだった。


 揺り起こそうと触れたその頬は冷たかった。脈もない。確かに彼女は死んでいるようだ。だが、一年を経て死後硬直すらしていない遺体などあり得ない。


 彼女の髪を飾るハナミズキの花も枯れていないことから、これを留めている小さなピンの魔法効果によるものらしい。ピンには白い石が埋め込まれていて不思議な光を放っていた。


 さらに彼女は、どうやって手配したのかは、分からないが、私の行為が違法とならぬよう、自らの埋葬許可証も準備していてくれた。覚悟の死ということでも、あるのだろう。


 建造物を目にし、結界の理屈は理解したが、未だ私の心には神秘主義を否定する現代人としての常識が残っていた。しかし、ここに至り、私は魔法というものがかつて存在したことを確信した。


 遺体の保存状況もそうだが、何より私が宗旨替えしたのは、彼女の美しさだ。伝説のエルフを目の当たりにして、魔法の存在を否定できる人などいないと思われた。写真を撮ろうと思ったが、彼女の神々しさへの冒涜と感じ、シャッターをタップする指がどうしても動かなかった。


 私は、ルナを抱き上げ、彼女が眠るべき墓に向かった。彼女はまるで体重がないかのように軽く、死化粧? 香水だろうか? 遠くに花の香りがした。その墓は丘の上、古びたもう一つの墓碑の隣が掘り下げられ棺が設置されていた。


 棺の蓋を開け、私は彼女をゆっくりと横たえた。棺の中にはブロンドと黒の髪束が二房。長い年月を経たものに見えるが、その輝きを失っていない。これも魔法のなせる技なのだろうか。いずれにしても、ルナにとって、とても大切な人の遺髪なのだろう。


 ふと、見渡すと一面の白百合の花。数本を手折って彼女への手向とした。棺の蓋を閉め鍵をして、盛られていた土をかける。墓碑を棺の上に動かそうとしたが、重すぎて一人では無理だった。後日、エルフの里探索隊によって墓碑はあるべき場所に収まった。


 ルナの墓の横の古びた墓を見る。俗名ミチコの墓とある。風化の度合いから千年近い歳月が経っているのではないかと思われた。ミチコ、確か、日本人の名だ。


 後にルナが記した小説を読んで知ったのだが、このミチコこそ、我らが祖先の片親、彼女らは同性愛カップルだったらしい。


 彼女らの象徴なのだろうか。なにげなく咲いていた白百合の花にも秘密があった。あまりに綺麗なので一部の球根を持ち帰り分析させてみた。ところ、何と! 千年も前の球根が脈々とその命を繋いでいることが分かった。おそらく何らかの魔法的な植物なのであろう。


 さらに、この里の大いなる遺産には驚嘆させられた。エルフという種族は勉学にひたすら勤しんでいたようで、研究結果を大量の書物として所蔵していた。ただ、この図書館の構造は魔法の力を前提としており、我々がその書物を読むことは困難であった。


 この点についてもルナは見通していたようだった。魔力での運用を電力で代替する方法を考案し、遺言に残していたのだ。


 ルナの慧眼により、エルフの里の遺産は白日の元に晒された。彼らの研究結果は、テクノロジーにおいて現代科学のレベルを大きく凌駕しているようだった。


 大半の技術は魔法を前提としていたが、ルナの電力代替手段を使えば、現代の物質文明に応用な可能ものも多数存在した。


 さらに進んでいたのは物理学、数学の基礎研究だ。魔法というものは、我々が触れる術を失っただけで、エルフの遺産を使えば確かに観測でき、その存在は明らかだ。魔法を勘案した物理法則は世界の真の姿を示してくれていた。


 魔法がその解析をサポートした数学についても、我々が見たこともない数々の定理が証明されており、テクノロジーの進歩に大いに貢献しそうだった。


 エルフが残したテクノロジーや基礎研究は人類の文明に長足の進歩を与えるだろう。ルナは我々に宝の山を解放したくれたエルフでもあったのだ。


 この小説の最終章を書き上げ思うことがある。小説の形態をとっている以上、誇張や脚色はあるのだろう。だが、ここに書かれたストーリーラインは概ねノンフィクションだ。


 ならば。ならば。我々の生きる世界を救い、人類繁栄の礎をつくったのは、このルナとミチコであることに疑いの余地はない。


 すなわち、彼女ら、我々からすれば神ともいえる存在の二人が百合カップルであったという事実は、今を生きる全ての性的マイノリティへの福音であるに違いない。


 そう。私も彼女らに大いなる勇気を与えられた一人なのだから。

 この物語はルナが書いていますが、本部分については、彼女が亡くなってから書き加えられたものです。従ってルナの後書きはないのです。


 これを書いた筆者の性別は、敢えて明らかにしていません。同性愛者なのでしょうけど、男女どちらと見るかは、読む方のご想像にお任せします。


 ということで、ルナです。どう評価するのか難しい生涯でした。結局、孤独死したルナですから。でも、タマコの子孫の手で丁重に埋葬されましたし、短い間でも、仲間と家族と過ごせた彼女は、まあまあ「幸せ」だったのだろうと思うのです。


 今のところの科学の到達点では、人が時間を遡ることはとても難しく、過去を変えることはできないようです。だけど、であるが故に、過去に起きたことは永遠に変わることはないとも言えます。楽しい思い出、そう、楽しいと感じるか否かは貴方次第。是非是非、大切にしてください。


 明日から、外伝が始まります!! 外伝は13部分(12日分)ありますが一つの章にまとめました。これは以前、外伝をシリーズ化したら、せっかく本編を読んでいた方に来ていただけていないように思えたからです。


 主人公は予告したかな? タマコ! 彼女はプリーストですが、いろいろな関係上、もう一つのクラスを得ます 。なんと、ガンナー! ファンタジー世界にFN P90を持ち込んでみました。その他の銃器も出てきます。なにより、本編では語られなかった「ああ、そうか!」もあります(そう感じてください)ので、是非是非、継続してお読みいただければと思います。


 だから。「さよなら」は言わないわ。謝辞は最後の最後にまとめてなんだからね。アレ? 君、誰?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 173/173 ・死後の話がここまでハートを揺さぶるとは [気になる点] >有効だったGPSと地図を頼りに迷いながらも、森の中で三泊すると、私は、エルフの里に到着していた。なんということ…
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