白百合の結婚式
そんなある日、突然、ミチコが言い出した。
「ねぇ? ルナも随分落ち着いてきたし、結婚式を挙げない?」
ミチコとお付き合いを始めて四年になるが、イベントは一切していない。二人とも、形式に拘らないタイプでもあるし、何か心落ち着けて、そういうことを考えることもしてこなかった。これなかったと言うべきか。
もちろん、この世界にも戸籍という考え方はあるし、国は戸籍簿を管理している。だが、日本のように「家」「家族」というイメージより「遺産の分配」「税の徴収」というような意味合いが強い。という流れからだろうか「直系血族又は三親等内の傍系血族の婚姻禁止」という決まりはあるものの、婚姻する者の性別を規定する条項がない。
これを逆手にとった。ミュルムバードに来てすぐ、私とミチコ二人の婚姻届を出している。担当職員は目を丸くしたが、法にない以上、拒否はできない。既に私たちはこの国で、有名人となっていたわけで、あっさり受理された。ね。私たちはユーロ連邦初の同性婚カップルということになるわけ。だから、タマコを養女にできたということでもあるの。
……ということで、ずいぶん前から、私たちは正式なカップルではあるのだけど。
「え? ええ。とても嬉しいわ。是非」
と、答えたが。何か微妙な違和感があった。
よく「フラグを立てる」というが、あれは、主客が逆なのではないかと時々思う。「希望を語ることが不幸呼ぶ」のではなく「不幸を予見するから希望を語りたくなる」のではないかと? ミチコの突然の発言に、何か嫌な予感はあったが、嬉しい気持ちが、全てに優先した。
「今日から三連休だし、ちょうどいいかなと思って」
結婚式といっても、大仰にする気はさらさらない。来賓など呼ばず、ベルフラワーハウスの家族のみ、内々での式。会場も自宅。この家は元貴族のお屋敷ということもあって、玄関ホールがそこそこ大きい。参列者四人なら特に問題はないだろう。
「ルナさん、ミチコさん、を、心からお祝いしたいです」
「前向きな気持ちになられて、なんだか、ホッとしましよ!」
「え? ママたち、まだ挙げてなかったの?」
「ええな! 早々に、ドレスを調達せんとなぁ。明日でも買いに行こうや!」
この世界の衣服は魔法でサイズ調整ができてしまうために、同じデザインでいろいろなサイズの在庫を抱える必要がない。なので「吊るし」のバリエーションがとても多い。
オーダーメイドもできないではないが、ウエディングドレスでも買うのが普通だ。気に入ったものがあれば、その場でサイズを合わせてしまって持ち帰れる。
で、翌日、リベカと三人で、街で有名な洋装店に行ってあれこれ選んでいた。二人とも好みのドレスが見つかったので、買い求めて店を出ると。
「あら? 今日はお休み? 三人連れ立って、こんな高級店から? 怪しい」
何かの買い物に来たのだろうが、リリスに見つかってしまった。
「白状しなさいよ。その包みはなに??」
勘の鋭い彼女だから、もう言い訳できないだろう。私たちは、明日、結婚式をすることを告げた。
「なるほどね。いいことじゃない。ねぇ。テラとセムには内緒にするから。お願い。私は出席させて」
「ありがとう。あんまり大袈裟にしたくなかったから、声かけなくてごめんね。そしたら、明日の11時AM。式を挙げて、お昼を食べて終わり。プレゼント、ご祝儀はなし、厳禁ってことで」
「分かったわ。彼らに気づかれないよう平服で行くから、着替えさせてね」
翌日、朝、朝食を済ませて、私は買ってきたウエディングドレスに着替えた。ミチコのオーソドックスな、肩出しビスチェタイプの王道プリンセスラインに、変化をつけた方がいいかなと思って。
肩出しではあるのだが、バレリーナのチュチュ風、だけど、もっと豪華にフリルが広がっている。膝上のミニ丈ドレスにしてみた。ガーターベルトで白のストッキングを吊って、踝をベルトで止めるエナメルパンプス。
お化粧は、いつもとそうは変わらない。ベースメークは、白過ぎて、どうしても作り物というか、人形というか、生きている感がしない私の血色が良く見えるよう、少し色を入れる。
チークはピンク系、シャドーも同系でまとめた。マスカラ、アイラインはいつも通り。ドレスに負けないよう、リップはいつもはあまり使わないレッド系で少しだけ派手に。
さてさて、これで準備は完了!
形式には拘らないつもりで、そのことに嘘はないわ。だけど、女の子に生まれたら、ウエディングドレスは、何か神聖なものなのよ。だけど、だけど、この違和感、なんなのかしら?
いろいろな意味でのフラグ回、かも? しれません。




