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シュウマツの窓辺に白百合を〜異世界に「あたし最強!」で転生したのだけど、前世のヨメがいた  作者: 里井雪
皇帝の狂乱

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連環の計

 今回の作戦はシンプルだ。まもなく帝国軍は越境し、メギド草原。前世でいうところのカザフステップに到達する。越境をもって、ユーロ連邦と魔族は彼らに戦線布告をし、北と西から迎え撃つ。


 現在、密かに両軍の騎馬隊が草原に集結しつつあった。また、冒険者ギルドのメンバーのサポートで付近住民の避難も開始しているらしい。


 作戦は極秘裏に行われているため、ギルドメンバー、本部長にも、事の仔細は知らされていない。集結している騎馬隊は、決死隊となるだろう。精鋭ではあるが、ごく限られた者たちのようだ。その数、両軍合わせ四千ほど。


 数の上からもこの迎撃はフェイク。私が密かに接近することを、気取らせないための陽動作戦だ。そして、敵を上手く誘導し、私の魔法、大量破壊兵器が生む副次的な被害を、最低限で済むようにする。だが、そのために四千の兵に死ねと言っているに等しい。


 決行は、年明け2800年元旦と決まった。私たちは、ベルフラワーハウスに戻り、予定通り年末まで、休暇を楽しむことにした。


 アロン本部長すら知らされていない極秘事項。だけど、家族には話しておいた方がいいだろう。私とミチコはタマコを含めた全員に事の経緯を説明した。


 少し迷った。タマコにどう説明するのかを。でも、十一歳とはいえ、彼女も血生臭い戦乱の時代を生きた武家の娘。それに、幼いからといって、腫れ物に触るような扱いをするのは、むしろその心を傷つけることもある。子供といえど一つの個。子供なりの理解力を有している。包み隠さず、全てを話した。


 ということでぇぇぇ。ま、短い時間だけど、楽しみましょう! 温泉スパだぁぁ。タマコには、赤いフリルスカート付きの水着を準備した。スク水着せて、ペド野郎の視線の餌食になんかしないんだから。お生憎様!


 それに加えてエドムとジャムも参加。男子の水着には全く興味がないので、なんか知らん。でも、ヤツら。小柄だけど鍛えてるなぁ。腹筋割れてるじゃん。


 今回のお食事はスズキ、シーバスという言い方がいいかな、のフォイル焼き。冬は産卵時期なので、脂が乗ってとても美味しい! とかなんとか、束の間、ほんとうに束の間の時を目一杯楽しんだ。


 人は必ず死ぬ。そして私の生は、多分、そう長くはないのだろう。だけど、むしろ、死を意識することは、今を楽しむという気持ちを強くする。前向きになれる。うーーん。これはミチコの魔法の影響なのかもしれないが。


 そうこうしている内に、十二月三十一日。私は決戦場に飛び立つことにした。


「気をつけて」


「気ぃつけてな。心の方、特にな。ああ、そうや、今回は一人やろ。これを」


 リベカは、私に小さな袋を渡した。


「これは?」


「ああ、ドリュアスの実や。幸い私には使う場面がなかったから」


「ルナママ! 御武運を」


「無事の帰還待ってますから」


「ルナの好きなお魚料理準備しておきますね」


 今回は、任務の性質上、私の単独行となる。メギド草原付近までのジャイロコンパスを頼りに、味方、ユーロ連邦軍のキャンプを探す。見えた! 私は静かに降下した。


「ルナ殿。お初にお目にかかります。私は王国近衛師団長、レビと申します」


 青い目に黒い髪を短く切った壮年の偉丈夫が、敬礼とともに自己紹介した。以前述べたように、今回の作戦はいたってシンプルだ、四方八方から集結し、現在、広範囲に散らばり扇状に展開しているオステン帝国軍をまとめる。すなわち、赤壁の戦いのように、彼らを「繋ぎ合わせる連環の計」ということだ。


 そうしないと、とてつもない広範囲にグラウスを使うことになり、副次被害が大きくなり過ぎる。明朝をもって魔族軍と呼応し総攻撃をかけ敵を誘導する。


 陽動作戦とはいえ全くの多勢に無勢。誘導も容易ではないだろう。少しでも市民の財産や環境への被害を抑えるという目的のために、彼らは命を投げ出す覚悟ということだ。


「ルナ殿? 浮かぬお顔をされていますが、我らを案じてくださっているのでしょうか? 戦場で死ぬは軍人の誉。ルナ殿のご心労に比べれば、我らが命など」


 レビはなかなか鋭く、できた男だ。自らの死より私のことを心配してくれている。真っ直ぐ、私を見つめてこう続けた。


「ですが、私たちは、とてもしぶといということをお忘れなく。なに、むざと敵に討たれることはありません。必ず生きぬいてご覧に入れます。明夜、再び会い(まみ)えましょう」


 夜明け待って陽動作戦が開始された。宣戦布告については、軍用通信(魔法の珠)で昨夜行われたとの報が入っている。私はフヨウでもらった迷彩コートを装備し、上空より戦況を見ることにした。


 無用な手出しはするなという点は、三王からも釘を刺されているし、乾坤一擲の策を敵に知らしめる愚も犯せない。とは思うのだが、自重するのは、相当精神的に辛かった。


 西と北から騎馬隊が突っ込む。この草原は比較的雪は少ないものの、冬は冷えて風が強い。気象条件の悪い中では、魔法の守りがある分、連合軍には有利とはいえるのが、多勢に無勢というレベルの話ではない。


 あっという間に押し包まれる。次々と馬は倒され、兵士は帝国軍の銃撃にさらされる。おそらく総数の半分以上の兵士が命を落としたが、帝国軍も、払っても払っても襲いかかる煩い敵に嫌気がさしたのだろう。陣形をまとめ出した。だが、再び。騎馬隊の攻撃が薄い南側に伸延を始める。これではダメだ。


 と、その時。

 再び三国志。ここでいう「連環の計」は、赤壁の戦いで、曹操軍の船を船酔い対策と称して鎖でつなぎ合わせさせ、呉軍が火攻めにした計略に喩えているの。強大な敵への複合戦略みたいな意味もあるかな。ま、だけど、私の魔法は……。


 ルナの大魔法です。最強魔導士がやられることはありませんが、その後のことが心配です。これも、悪魔の周到な計画なのでしょうか?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 162/162 ・今気づいた、リズム取れてる!  七五調的な。  これは天然? それとも意図的? [気になる点] と、その時? なんでしょうね。仲間が [一言] あー、地味に辛いよ。
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