タマコのペンダント
「ああ、そうそう。忘れないうちに、渡しておかないと」
私はタマコ用の身代わりペンダントを思い出して、部屋から持って来た。
「これ。身代わりペンダントといって、タマコがピンチの時、その不運を引き受けてくれるの」
「ありがとう! ルナママ。フヨウの国にも身代わりのお札というものがあります。あ、これ、このデザインは!」
し、しまった! また、変な気を使いすぎて、タマコを涙目にさせしまった。その銀製のペンダントは、五弁の花をデザインしたもの。ベルフラワーのマークのつもりではない。桔梗紋はアケチ家の家紋だ。街の露天商で見つけ、運命的なものを感じ、買い求めていた物だった。
「大切にします!」
早々、彼女はペンダントを首にかけた。と、リベカが。
「あ、そうや。そうや。新しい家族、タマコちゃんお願い!」
彼女は自分の部屋から彫刻用ペンを持ってきて、タマコに私のペンダントの解説をした。
「はい。私でお役に立てることなら」
私の葉っぱペンダントの裏は、ほぼ文字で埋まってまっているが、一箇所だけ、タマコのために用意されたような空きがあった。その場所に彼女はペンで「& T」と書いた。
「みなさん、早く下へ」
「料理が冷めますよ!」
エドムとジャムが呼びに来た。久々の家族、そう一人増えた! 賑やかな夕食。タマコ用にライスボールを作り、卵焼きを。子供向けに関東風。砂糖を入れて甘くしてみた。
そうか。卵焼きの発祥は江戸時代だっけ。タマコは知らないかな? でも、ま、いいかぁ〜。あとは、こちらの名物のソーセージなどなど。
「ああ、いいなぁ〜 みんな家族だね。家族との語らいこそ、料理を美味しくする最高のスパイス」
「なんだか、ルナ、言うことがオジン臭い。あっ、そうだ。そうだ。フヨウじゃお買い物できなかったから、オステンで買って来たの。ルナが喜ぶと思って」
おお、花椒じゃん。麻婆豆腐はちょっと材料不足だけど、野菜をガーリック炒めにしてこれを入れると、なんとなく中華料理風の美味しいものができる。野菜を切って炒めるだけなので、私でもできる。はず。
「今度、これを使った料理作ってみるね」
楽しい。楽しい夕食も終わり。ミチコと久々二人きり。
「タマコ、疲れてたのね。シャワー浴びて横になったらすぐ寝たわ」
「彼女の魔力は、とっても大きい。すごい魔道士になるわ。そんなことより、新しい大切な家族、みんなで立派に育てましょう」
「ええ。そうね。じゃ、私シャワー浴びてくるね」
「ダメ」
「え?」
「そのまま。抱いて」
「何? 汗かいてるから臭いわよ」
「今はミチコの匂いが懐かしい。だから」
「もう。変態さんなんだから。え? どうしたの? 泣いてるの?」
「体臭のあるミチコが恨めしい。私、汗すらかけないのよ。私、人じゃない」
「何を突然。貴女が人だろうとエルフだろうと、私にはなんの関係もないわ。貴女を愛してる」
「違う。違うの。ミチコのいない二ヶ月。寂しいというより、焦燥感があった。だって、私とミチコって、もう長く一緒にいれられない。死ぬことなんて怖くないわ。なんでもないと思ってる。でも、でも。ミチコと離れるのはとても怖い。私がこんなじゃなく、ただの女の子だったら良かったのに」
「もし、貴女がただの女の子だったら、そもそも、私たちは出会ってないわ。ルナ自身が言ってたじゃない。運命は変えられると。だから、最後の最後まで足掻きましょう。私たちが二人で生きるために」
「ありがとう。分かっているのよ。でもね。でもね。時々、弱気になるの」
「世界最強の魔道士の弱みを見れるのは私だけ。とても光栄なことだわ」
「何を言うかと思えば。さ、早く。今夜は、私を滅茶苦茶にして!」
分かっている。分かっているのだ。これは悪魔が仕組んだゲーム、だけど、どこか、必ず出口がある。抗ってみせる。何としてもトゥルーエンドを迎えてやる。そうは思っている。でも。でも。ミチコと一緒だと、やっぱり泣いちゃう。弱気になる。
なぜなら。そう。そうなのだ。私は彼女を愛しているから。
心が乱れても時は過ぎて行く。夏が過ぎ、秋を迎えて銀杏を採って、やがて冬を迎えるのだろう。
タマコを加えた私たちの仲間、いや家族という呼び方が相応しいだろう。冒険者としての生活は順調だったし、タマコもみんなに馴染んできた。健気に明るく振る舞おうとして作っていた笑顔が、本当の心からの笑いに変わった気がする。
街に買い物に出て、マーケットを見ると豆苗、エンドウマメの若芽が出ていたので、この間の花椒を使ったガーリック炒め。それから、それから、ジャンが送ってくれたスパイスとシュリンプ、ムール貝、じゃがいも、人参……、カレーだぁ〜
久々食べたよ。みんな驚いてたけどね。まぁ、私がレシピを語って大半はミチコ作なんだけど。
タマコが書いてくれたサイン、後々、とーーっても役に立つのだけど。今は、な・い・しょ。ミチコとはね。うーーん。安定したり揺れたり、もう、わけわかんない;;
ルナもミチコも悪魔に翻弄され揺れ動いています。そして明日、次の章へ。もう、タイトルから、ねぇ〜。
このペンダントの件は、外伝でも少し……。それ以上は言わないことにします。




