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シュウマツの窓辺に白百合を〜異世界に「あたし最強!」で転生したのだけど、前世のヨメがいた  作者: 里井雪
本能寺の変

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勿忘草の魔法

 私は静かにホンノウ寺の外壁にとりつき。中の気配を読んだ。よし! 夜回りの監視は近くにいない。飛行の技で壁を飛び越え、ただちに加速の技を使う。加速モードに入っている私を目視できる人はいない。そういう意味で、私は最凶のアサシンであるとも言える。


 ここフヨウでも、大概の文化は西洋的だが、建築物は和風のものも多い。松や灯籠を配した庭を抜け、ミツヒデに聞いた寝所の前に立った。縁側を音がしないように登り、障子をこれも音がしないよう、オベロンで小さく切り取る。見えた!!


 日の出の薄明かりの中、眠るのはノブナガ。あの髭は前世の教科書で見た肖像画にそっくりだ。加速の技を解く。この魔法は、アサシンのためにあるようなもの。決着は一瞬でついた。


「グラウス」


 右手を強く握る。ノブナガはビクン!! と体を痙攣させ、口から血を流し事切れた。私は再び加速の技を使いミツヒデの元に戻った。


「うまく行ったわ。さぁ、お願い。敵はホンノウ寺にアリよ」


「皆の者、切り込むぞ!!」


「うぉぉぉ!!」


 払暁の時、ラクヨウの町の静寂を鬨の声が破った。千名を超える兵士達は正門に殺到する。私はオベロンを使って門を切り裂いた。


「おおおおお!!!」


 兵士たちから驚嘆の声が上がった。


「ミチコ、回復をお願い!」


「ええ。一兵たりとも犠牲は出さないわ」


 魔道士の少ないフヨウでのプリーストは、兵士にとって神とも呼べる存在だ。ミチコが築く物理防御壁は敵の矢はもちろん、火縄銃の銃弾も通さない。


「よいな。敵は狂人と思え。決して切り結ぶな。敵一に三名で当たるのじゃ。銃で矢で射よ。槍で突け!!!」


 バーサーカー化した二次感染者は、相当手強いが、マスターがいない今、その攻撃に統制はとれていない。ミツヒデの指示が的確であったこともあり、「謀反軍」は難なくホンノウ寺を制圧した。


「ありがとうございました。これからホンノウ寺に火をかけます。混乱に乗じて皆さんはお逃げください。ルナ殿、そしてミチコ姫、どうかお元気で。タマコを頼みました」


「ありがとう。ミツヒデ。貴方のことは。受けたご恩は忘れない。生涯、決して!」


「あ、そうだ。あやうく忘れるところでした。ミチコ姫、これを」


 ミツヒデが差し出したのは、ハナミズキの花? ああ、髪飾り。え? こ、これは! それは生花を髪に飾るためのピンのようなものだ。花が枯れぬよう光の魔結晶が嵌っている。貴重な魔結晶を装飾具に使うなど、とんでもない贅沢品だ。ああ、元カレからのプレゼントだったのかな?


「ありがとう。でも、コレ。うーーん。せっかく持って来てくれたし、ルナ貰ってくれない?」


「え、こんな高価なものを?」


「ちょっと、訳あり品だけど。気にする?」


「いいえ。ミチコの物なら、どんなものでも、ありがたくいただくわ」


「さて、行きましょう!」


 私たちはミツヒデとがっちり握手をした。こういう儀礼も西洋式だ。


 ギルドに戻ると馬二頭が準備されていた。私がタマコを前に乗せ二人乗りでミチコがそれに続く。


「ミカ本部長ありがとうございました!」


「こちらこそ。お疲れ様でした。お気をつけて!」


 二人は北に向かって馬を早足で駆けさせた。早馬は宿場ごとに馬を乗り継ぐ、この世界では最高速の陸上移動手段だ。コホクまでは百キロ近くあるが、今日の夜までには到着できるだろう。六月のフヨウは、かなり暑い。過去の失敗に学んでいる私は、こまめな水分補給、もちろん、ミチコとタマコにも、を欠かさないようにした。


 前世風に言うと琵琶湖の西側を走る。一般的な鯖街道である若狭街道は花折峠超えとなる。距離は出るが、馬の負担も考えて琵琶湖沿いの西近江路を選んだ。水坂峠を越えたら小浜、あとは海沿いに舞鶴へというルートだ。


 大津から比叡山の麓を越えようとしたその時、二名の武装した兵士に誰何された。


「待たれよ! 待たれよ! 我らラクヨウ守護。ホンノウ寺に賊が火を放ったとの報を受けておる。恐れながら面貌を検めさせていただきたい」


 ヤ、ヤバイ! あ、コートから私の髪が少し見えている。


「や! そこな女。異人じゃな! 怪しいやつ、これへ直れ」


「ドルミ」


「ベルタ」


「ドルミドゥ」


「さ、逃げましょう!!」


 私たちは再び馬を駆けさせた。


「今の魔法は?」


 さすが、この時代の子供、タマコは落ち着いている。


「私のは眠りの魔法。ドルミドゥで上書きしたから、あと九十秒は起きないわ。ミチコのは忘却の魔法かな」


「ええ。私のできる限界、一ヶ月ほどの記憶を奪ったわ。彼ら、起きても、今自分がなぜここにいるのかすら分からないと思う」


「限界って? ミチコママ」


「ありがとう。ママにしてくれるのね。限界というのは、これ以上、強い魔法を使ったら、相手は記憶喪失もしくは廃人になる。そこまでしない限界。タマコは光属性の魔法を持っているのだから、治癒以外にも練習して習得できる魔法があるかもしれないわ」


「そうなんだ。ミチコ先生、教えてくださいね!」


 タマコは努めて明るくすることで、家族との別れを忘れようとしているのだろう。聡く健気な彼女を見ていると涙が出そうになる。


「ええ。お船でユーロ連邦のミュルムバードまで二ヶ月はあるわ。ゆっくり教えてあげる」


「ところでミチコ、実戦で使うのは初めて見たけど、あの魔法のネーミングってドナウ川伝説?」


「ええ、私の魔法は龍王から基礎を学んで作ったオリジナル。貴女の前世のお話を少し使わせてもらったわ。Vergiss-mein-nichtの逆ってこと」


 ベルタは溺れる騎士が勿忘草を投げた恋人の名前だ。

 勿忘草のドナウ川伝承。ミチコはよく調べたわね。しかも、逆説的に使うなんて。皮肉屋なところは、私に似てきたのかしら?


 え? 知らない人いる? じゃ、念の為。騎士ルドルフは、ドナウ川の岸辺に咲くこの花を、恋人のために摘もうとし、誤って川に落ちる。彼は花を岸に投げ「僕を忘れないで」の言葉を残し死んだ……ってヤツ。あの花・「あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない。」のモチーフにもなっているわね。


 ああ、今日は解説が多いわ。もぅ。鯖街道は知ってるかしら? 若狭湾から京都へ海産物を運ぶためのルートの総称よ。総称ではあるものの、若狭・敦賀街道(花折峠・大原ルート)を指す場合もあるので、ここでは西近江路(国道161号線)と区別したの。


 何となくなんですけどね。中の人的に京都から福井方面だと、JR湖西線沿いかなぁ〜と。


 で、何気に出てくる髪飾りですが、最後の最後でちょっとした役割を演じてくれます。ハナミズキにしたのは、プリコネ・「プリンセスコネクト!Re:Dive」のコッコロ。エルフにはこの花がよく似合うと思ったからです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 150/150 ・おーやっぱり、単体ボスはあっさり逝った  全体的にイメージしやすかったです。 [気になる点] ドルミさん久しぶり。やっぱ催眠はつよい [一言] 名前のセンスいいなぁ
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