運命の占い
彼女の話と前世の知識を総合するとこういうことのようだ。エルフ、ドワーフ 、ハーピー、マーメイド、魔族、さらには竜族さえも、どうやら、人の進化形態の一つということらしい。人族は最も人口が多く夜郎自大というか、プライドがあるので、他の種族が自分たちから「進化」したことを認めたくないのだろう。このことは、人族の間では一種のタブーとなっているようだ。
ただ、一般的な進化論と違い、魔法の影響で、すっ飛ばし、すなわちミッシングリンクが起きているのは先ほどの通りだ。ただ進化論的にもう一点考慮点がある。エルフのようにミッシングリンク的進化を遂げた種族は、淘汰を経験していない。逆の視点でみると、人、ホモ・サピエンスは厳しい淘汰の末に、生き残った者達ということになる。
であるが故にだと思う。少なくともエルフたちについていえば、人のように強く種の保全に拘ることもなく、平和的にひっそり暮らしている。
この里には階級支配など無く、富の余剰もない。労働を含めた共有できる資産は共有し、お互い助け合い、自由、平等、友愛が実現してしまっている。人族の世界では、到底実現不可能と思われるユートピアそのものであるように見える。
夕食の支度ができた。予想通りエルフ達はベジタリアンだ。テーブルビート、タマネギ、ニンジン、キャベツを煮込んだ肉なしボルシチに、パン、ポテト、木の実といった献立だった。せめて宿泊代だけでもと話す私に、現金など、ここでは意味がないと言われてしまった。
「そんなことより、貴女の美しい姿を観賞させてもらうだけで十分よ」
「何をおっしゃいます。『お姉様』」
「ああ。やっぱりね」
「何がでしょうか?」
「貴女、女の子が好きでしょ? さっきから百合の花の香りが、ぷんぷんするのだけれど。大丈夫、私はヘテロだから」
と言って彼女は笑った。大丈夫って何が?? また、虚を突かれてしまった。私は耳、長いエルフ耳の先まで真っ赤になった。
「でも、ちょっと残念かな。この里では、エルフ同士で結婚しても子を成したことは、もうずっとないわ。元々、『三代目』が生まれることはほどんどなかったのだけれど。貴女が里の男性と恋に堕ちてくれればと、ちょっと期待したけど、無理な話ね」
先ほどの進化論からも推察できる。彼らは何としても種を繋ぐなどとは考えていない。寿命が人の十倍もあることもあるだろうが、自然に任せ、潔く滅びも甘受するという考えのようだ。それと関連しているか否かは不明だが、エルフ間での同性愛はごく普通で、ヘテロとの割合はほぼ半々といったところのようだ。
話を戻そう。私は同性愛者であることを看破されたから真っ赤になったのではない。そもそも恋愛という感情を置き忘れていたことに気が付いたのだ。要は生まれてこの方、この姿のおかげで友人など一人もいなかった、というのは前にも述べた。
そういえば、父母は気遣って誕生パーティなどを催してくれた。だけど、例の事件も関連しているのだろう。「無理やり」参加させられた子供達は、形式的な挨拶の後、私を遠巻きに眺めるだけ。
前世ではもちろん恋愛もしていたわけだが、記憶が蘇ってからも対象者がいないという理由で、そちらに注意が行くことはなかった。今、言われてみて分かったが、前世、男だったから性的指向が、女性に向いているというのとは違うようだ。女性として生まれて来た中での先天的な性的指向らしい。
「そんなに匂いますか?」
「ああ、冗談よ。でも、この里の中は魔力に溢れている。インスピレーションが研ぎ澄まされるといった方がいいかしら。だから、分かるの。そうそう。占ってあげましょうか?」
彼女はタロットカードを取り出した。もともと占い師が彼女の生業、という表現は正確ではない、この里での「分担」ということのようだ。それぞれが、得意な分野で「労働」を提供し互いに支えていく。それがこの里の全てだ。労働に対する金銭の授受など存在しない。
フェアルは、二十二枚のカードをシャッフルした。タロットは正位置と逆位置で意味が変わるので、裏を向けて混ぜるようにする。三つの山に分けて、また、一つの山に。
「うーーん。貴女を見ていると占う必要もない気がする。ワンオラクルで」
彼女は山から一枚を引いた。裏返すと「運命の輪」の正位置。これは私でも分かる。彼女にとっても予期された結果なのかもしれない。
「未来というものは決して確定したものではないの。人の努力でいくらでも変化する。占いは『起きうる可能性の高いもの』を示唆するだけ。でも、カードを選ぶ時、強い気を感じたわ。九十九パーセントの確率で、近々、貴女は運命の人に出会うと思う」
運命の人? もしや? 前世の傷口が少し疼いた。そうだ。これは、これだけは、必ず今生で成し遂げなくてはならない。
そうよ。この時まで完全に忘れていたのよ。「恋愛」という感情の存在を。あと、もう一回言っとくけど、私が百合なのは「元男だから」じゃないんだからね!
ここで、また仮説なのです。本来「人を好きになること」と性別は、そこまで強い相関にあるのでしょうか? 異性愛、同性愛の比率は半々であって然るべきでは?
人類は淘汰を勝ち抜いた種族ですから「Hして種を残さないと!」と思う個体が多い。他の生物も淘汰の勝ち組なわけですから、同様と考えていいでしょう。なので。なのでです。ここまで異性愛者が多いのは本来「不自然」なこと。種の保全に拘らない種族なら半々なのです!




