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シュウマツの窓辺に白百合を〜異世界に「あたし最強!」で転生したのだけど、前世のヨメがいた  作者: 里井雪
魔法世界の危機

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休暇の指令

「なるほど! もし、前者なら我らは果てのない殺し合いを始め、あっという間に絶滅すると。プレイヤーがいないゲーム観戦など意味なきこと、ということだな。だが、ルナよ。余への認識、少し間違っておるぞ。確かに魔族は人を喰らう。だが、先の大戦で、人族の行った行為も決して紳士的とは言えぬ。残虐なのは魔族の専売特許ではない」


「あっ! ごめんなさい。言いすぎたわ」


「よい。よい。ま、余も人族の怨嗟の声を聞くのが嫌いとは言えぬがの。だが、怨嗟より悦楽の方がよいのぉ〜。やはりルナ。我が妻となり夜毎聞かせてもらえぬか?」


 全く、ひどい、セクハラオヤジだ。


「私の声を聞かせる前に、魔王の苦悶の声が聞きたいわ。貴方のグロテスクな物を踏み潰させてくれるのなら、考えないでもないけれど」


「うはは。これは恐ろしい」


「魔王、いい加減にせんか!」


 龍王がキレそうだ。いずれにしても、明確な敵がいるような戦いではない。魔族、龍族、人族の垣根を越え、情報を共有し難事に当たるという点については満場一致で承認された。


 首脳会議を終えた私はディナ本部長の執務室に行き、旅の渦を使わせてもらうことにした。旅の渦はとても便利だが使用にはリスクも伴う。本部長だけが持つ鍵で開く秘密の通路。本部長室の床にある隠し階段から、地下に降りて行く仕組みだ。階段を降りるとお手洗いの個室のような扉がある。


「扉に鍵はかかっていないわ。この先へ行くと少々危険だから、こちらで見送るわね。じゃ、気をつけて。ああ、コレ、良かったらみんなで食べて」


 お土産をもらってしまった。ママリガ。トウモロコシの粉に牛乳を混ぜて蒸したパン。このあたりの名物らしい。


「何から何までありがとうございます。では、失礼いたします」


 旅の渦。その名の通り亜空間に続く群青色の渦巻のようなものが床にある。RPGによくあるワープポイントといったものだ。ドアを開け、後ろ手で閉めて、ワープポイントに乗る。


 ここで行きたい場所、今回は、ミュルムバード本部、を念じる。すると、一瞬、強く魔力を吸収される感覚がして目の前が真っ暗、亜空間に入ったのだろう、になった。


 感覚的には、一秒も経過していない。見た目はカレストと全く同じ。私はミュルムバードの個室に立っていた。常人なら旅の渦を使った後はひどい倦怠感に襲われる。MP(マナ)を大量に消費するからだ。だが、私の魔力量なら何の問題もない。私は階段を上がり、アロン本部長がいるであろう本部長室の「床」をノックした。


「ご苦労だったな。お疲れ様。ルナ」


 声をかけた本部長の他に、リリスとミチコが同席しているようだ。


「戻って早々、申し訳ないが、少し話がしたい。そこに掛けてくれるかな」


と、本部長はソファーのミチコの隣の席を指さした。


「なぁ、ルナ、魔王のことどう思う?」


「どう? と言われても。そうですね。信頼してもよい人物だとは思います。ですが、なかなかの策士かと」


「うむ。さすがの慧眼だな」


「あれで、なかなかの狸親父だと思う。彼は言わなかっただろう? 今、北部で起きている魔族の異変について」


「ああ、私へのセクハラはそれを誤魔化すため?」


「そうだろうな。だが、龍王、国王もそれに気づいていながら、敢えて黙っていたのだと思う」


「ああ、さすが、大人な皆さん」


「まぁ、そう言うな。あそこで、確信もないままに、全員が魔王を糾弾する会議になったら、協力体制にヒビが入る」


「でも、ノルデンラードでの魔族の蠢動は、世界の異変絡みである可能性が捨てきれない。そうですよね。今からでも行きましょう!」


「いや。少し待ってくれ。ノルデンラードの変事、ルナが気に病むのはよく分かる。だが、今回は、自重してくれ。二つ理由がある」


 上司としての断固たる態度というのだろうか。本部長はこう続けた。


「まず、まだ、魔族が不穏な動きをしている原因が、魔法ウイルスのせいだという確証がない。ルナが行ってしまうと大事(おおごと)になってしまう。それより、何より、今、君の顔を見て確信した。君には休暇が必要だ。気付いていないかもしれないが、君はとても疲れている」


「ルナ、家族が心配なのはよく分かるけど、調査は私に任せて。私は魔族の血を引くもの。穏便に事を進められるわ」


「ルナ。本部長の言う通りよ。貴女の、主に心かな。すごく疲れているように見える。しばらくリリスに任せて、ゆっくりしましょう。本部長、ルナは私にお任せください」


 ううう。こんな、周りが気を使うほど、私は疲れているように見えるのだろうか? 家族、特にマリアが心配ではある。


 だが、仲間に甘えることも重要と気づいたのだ。ここは大人しく皆の忠言に従おう。エドムとジャムが任務を終え船で帰還するまでには、一週間ほどかかるようだ。それまでの間、ミチコ、リベカと共に、体ではない心を休めろということらしい。

 魔王、なかなか交渉ごとは上手いようだけど、根はいい人みたい。セクハラはいただけないけれど、多分、私を特別だと思うからかな? だけど、彼も含めて「いい人」というのが……。


 でね。うーーん。誰もが見て気付くほど、疲れた顔をしていたのかしら? 力の代償とはいえ、私「心」が弱すぎなのかも。だけど、いや、だから、仲間がいるのかな?


 ママリガは蒸しパンみたいなルーマニア料理です。パンのような扱いで、主食として食べるようですが。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 128/128 ・魔王さんのキャラすごいですね。見たことないです。 [気になる点] 読者にも疲れた顔してるか分からんのがすごい。感情移入できてるのかも? [一言] 蒸しパンかぁ
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