バンパイアの感染者
嫌な事件の後だし、少しのんびりしたい。ミチコ、エドム、ジャムはリリスパーティと共同で、近場の風魔導石狩りに行って、一昨日戻ってきたとのこと。
「ねぇ。ミチコ、今夜は、海豚亭で一杯どう? 私、例のスパイスもらってきたから」
「いいわね。また今夜一曲歌う?」
「うーーん。今夜はいいかな?」
夜、というより、夕刻、早々に私たちは五人で連れ立って冒険者酒場の暖簾を押した。
「マスター戻ってきたわよ。はい、スターアニス。ほら、星のようでしょ。八つの角を持っているから八角とも呼ばれているわ。細かく砕いて使ってね」
「これは。珍しいものを。お代は?」
「お代はいいわ。私に何杯かサラトガクーラーを奢ってくれるってことで」
「承知しました。でわ、早速、作ってまいります」
おお、前世以来の本格的サラトガクーラー。美味しい! その夜は久々の五人。ゆっくりと夜を過ごした。
「ねぇ。ミチコ、お酒は少し控えめにね。帰る前、お水を多めに飲んで」
「あら? どうして?」
「お酒臭いキスはちょっとイヤなの」
これは彼女の耳元でのウイスパーボイス。
「あら、それ、誘ってるってこと? なんだか、少し上達したじゃない?」
「私だって進化はするの。頬が赤らむのは止められないけどね」
それから数日はのんびり休暇とした。あの銀杏並木の先に大きな公園がある。天気のいい日にはミチコとお弁当を持って出かけて、ベンチで日がな一日読書をして過ごす。で、ミチコと一緒だし、これ。吉屋●子「花●語」。説明は不要よね。
何もない、何もしない幸せ。こんな日がずっと続けばいいのに。という願望はフラグを立てているのだろう。休暇明けにギルドに顔を出したら、アロン本部長にベルフラワー五人が呼ばれてしまった。また事件か?
「また、事件ですか?」
「まぁ、まず、掛けたまえ。ああ、お察しの通り。次から次で申し訳ないね」
「今回は、どこで?」
「うむ。少し遠いのだが、ブランという街を知っているかね?」
「知ってるわ。吸血鬼伝説の?」
「伝説ではない。実際にバンパイヤが住んでいるのだ」
「え、魔族との協定は?」
「例外もあるのだよ。先の大戦以前から、あの村にはバンパイヤが暮らしていた。大戦が終わり、魔族との国境が確定した際、特例として、眷属を作らぬという条件のもと、彼の既得権、居住を認めることにしたのだ」
眷属を作らないという意味は、人の血を吸わないということだ。大戦の後、人と魔族の平和協定の中で、人族は魔法で作った人造血液の提供を行っている。それで我慢するので、父祖の地での居住は認めようということのようだ。
もともと、魔法的な生物の中の比較では魔族の割合は大きい。エルフなどの亜人よりは自己増殖能力が高いからだろう。とはいえ、世界総人口約四億に対して百万人といったところだ。
先の大戦では、魔力も戦闘力も高い魔族ではあるが、人口比で圧倒的に上回る人族の物量には勝てなかったという点も否めない。
その魔族の中でも、バンパイヤ、サキュバスといった悪魔に近い存在は、さらに人口が少ない。魔法的な生物は人から進化したものだが、これらの種族が同じ形態でこの世界に生まれたか否かさえ明確ではないようだ。
いずれにしても、一種の絶滅危惧種としての保護対象という考え方もあり、非道な行為を行わなければ、それなりの特権は認めるとされるのが常だった。
「大人しく平和に暮らしていた、公爵様が、突然、人を襲い出したと?」
「ああ、そういうことだ」
「ならば、急ぎなのですね。ミチコと旅の渦で行きますか?」
「いや。ブランはカレスト本部からかなり離れている。それに相手にする魔族の特性から、今回は、ルナ、エドム、ジャムで行ってくれないか?」
「今、急ぎと仰ったのでは?」
「今回は特例として、龍王様が力を貸してくださる」
えええ! 確かに龍王が乗せて行ってくれるのなら、一日でブランに着けるだろう。
「出発は明朝。街外れの広場に龍王が降り立つとのことだ」
「本部長。一つ質問をしていいでしょうか?」
「なんだね。エドム君」
「はい。確かに龍王様がお力を貸していただけるというのは、とてもありがたいこと。ですが、世界の危機と言いながら、今までこのような便宜を図っていただけなかったのは、なぜでしょう?」
「うむ。それは……」
「大人の事情かな?」
「ルナ君、その物言いはいただけんな。だが、そう。そういうことだ。人族と魔族との大戦の後、協定が成立したことは知っているな。あの協定には龍王様も加わっているのだ」
「相互不干渉?」
「そうだ。龍王様は無闇に人族に加担してはならない。それは、世界のパワーバランスを崩す行為だからな。だから、このような便宜を図るためには、魔王も含めた合意、凛技が必要なのだ」
「魔王、国王、関係者のハンコを集めるには時間と手間がかかるってこと?」
「ルナ君。まぁ、そう言うな」
「すいません。ついつい。前世の知識が……。分かりました、本部長。明日朝、出立いたします!」
「エドム、ジャム君も頼んだよ」
「はい!」
二人は綺麗にユニゾンした。
まぁ、大人の理屈というか、官僚主義というか、比較的平和な世界で、いい人たちなのだけど、ちょっと気になるわよね。
今、そういう物語が多いと思うんです。周りの人は全て善意。だけど、中の人は天邪鬼ですから、いい人の問題点、官僚的な考え方含めて、書いちゃうつもりなのです。良心や善意だけで、世の中が回ればいいとは思いますが、残念ながらそうは行きません。




