出立の準備
マリアに手伝ってもらって、いろいろな道具を揃えるのは楽しい日々だった。でも、楽しい時はすぐに過ぎちゃうのよね。いよいよ、魔法学園に向かって飛び立つ日が間近に迫った。
魔法学園は遥か南、直線で二千キロほどある王都近くの魔法学園までは、飛んで行くことになる。私の飛行速度は、ゆっくりとはいえ、時速百キロで一日五時間くらいなら大丈夫だろう。四泊五日ほどの行程だ。だが、入学式の二十日前に出発することにした。
それには理由がある。ここノルデンラードから西南に、これも二千キロほど先の広大な森「エルフの里」アルディアに寄ってみようと思い立ったのだ。
エルフの里から東南に戻る形で王都まではやはり二千キロ。倍の行程にはなるが、この機会を逃せば次はいつになるのか分からない。前世の記憶が戻ったとはいえ、自分自身が何者か? についての謎はまだまだ多い。少しでも解明しておきたいということだ。
ちなみに、この行程を前世風の地名で言うと、私の現在地がモスクワ、王都がイスタンブール、エルフの里はドイツ南部のシュヴァルツヴァルトあたりということになる。モスクワからシュヴァルツヴァルトはほぼ一直線に飛べばいいだろう。黒い森から王都へはアルプスの麓に沿って戻るのが分かりやすいだろう。
この世界のエルフたちは広大な森の奥に自治領を設け、ひっそりと暮らしている。彼らの生活に不可欠で、人族に頼るしかない物品については物々交換をするため、人里に来ることはあるのだが、人族が彼らの森に入ることは決して許さない。
ただ、私はこの姿だ。もしかしたら、受け入れてもらえるかもしれない。彼らの生活を知ることは、今生の私について、もう少し深く知ることができる気がした。
さてさて。いよいよ出発だ。出発前夜、マリアの力を借りて鞄に荷物を詰め出す。生まれてこの方、彼女とは、ずっと一緒だった。何とはなしに重い空気が漂い、二人は押し黙ったまま作業を進めた。
お気に入りの生成りのチュニック風ワンピ。スタンドカラーで前ボタン止めタイプ。ウエストリボンが背中を飾っている以外装飾もなく、とてもシンプルなものだ。スカート丈は膝上。夏は裸足でキャメルのサンダルを履く。見た目エルフまんまの私にとっては、飾らないナチュラルなコーデが似合う気がする。
寒くなれば、ダメージデニムのパンツ。なんと! あるのだ! 「ディ●ゼル」とか、お高いわけでもない。これと合わせることもできる。もう一枚パステルブルーのチュニックは持ってはいるが、カーディガンやコートと合わせて、ほぼ年中着ている一品だ。魔法学園入学用に、もう一着同じものを購入した。
これも一着しかない葡萄色のイブニングドレス。そして、これらの衣装。寝袋、テント、飯盒、サバイバルナイフ、といったサバイバルグッズは魔法でかなりコンパクトに折りたためる。
さらに、忘れてならないレインコート。もちろん魔道具で、着ると体にピタリと張り付いて雨を弾いてくれる。ゴアテックスのような素材なのだろう蒸れることもない。さらに、回復系魔法がない私にとっては風邪薬などの常備薬、怪我に備えたポーションなどは旅行に不可欠だ。女の子として当然だがポーチに入れた化粧道具も。
だけど。あんまりお化粧はしないかなぁ〜。そもそも私の肌はコーカソイドというより、アルビノに近いくらい白い。コンシーラーいらずだけど、少し色の入ったファンデと血色を良く見せるためのピンク系のチーク。ノー・ベースメイクだと、私の見た目はほとんど人形。「生きてる」ように見えないから。眉毛を少し整えて。
うーーん。睫毛も合わせてプラチナブロンドなので、ブラウン系のアイブロウとマスカラで少し色を付ける感じ。さすがにビューラーはいるわよ。あとオレンジ系が好きなのでシャドーとリップは合わせてる。ラメの入ったのとかはしないかなぁ〜。そだ。アイラインも少し。って、結構してるかぁ〜。化粧品全てに魔法がかかっているので、化粧崩れはもちろんなし、ペンがずれたりもしないので、朝の十五分で全ては終わるのだけれど。
爪? ああ、そうよね。魔法のある世界だから一度ネイルを手入れすると数ヶ月は持ってしまう。マニキュアやペディキュアはこの世界では贅沢品にあたる。貴族かお金持ち用かな。だから、自分でやるよりも専門のネイリストにお願いするのが普通。
私は、マリアが何でもできちゃうので、お願いして夏は寒色、冬は暖色という感じで季節ごとみたいな。今は夏向けにターコイズブルー。サンダルを履くと涼しげな感じがする。でも、剣を使うから短く切りそろえる必要があるし、ビーズなどもNG。というくらいかな。だから、マニュキュアは自分のお化粧道具として持ってないわ。
あのね。お化粧はね。ただ「塗る」だけなら魔法で一発。でもね。違うんだなぁ〜。男性は、理解できないかもしれないけれど。
この世界はパラレルワールドとしたので、地球との関連性があるというのは既にお気づきでしょう? やっぱり、剣と魔法といえばヨーロッパかなぁ〜。行ったことない場所がほとんどですが、リアル風のモノを書くことで、雰囲気出ればなと思っています。
中の人的にはちゃんと描くべきこと描きたいと思っていて、進みがゆっくりですが、エルフの里へあたりから、物語が動き、学園に着いてからが「本番」です!!




