ゴルゴンのミッション
翌朝、数少ない家事分担の朝食を作るため、少しだけ早起きした。例によってワンパターンのサンドイッチ系だが、この地方はソーセージが名物だ。みんな用にはホットドッグ風のものを準備した。
私は、同じパンにジャムを塗るので、まぁ、よしにしておいて、あとは、サラダと、茹で卵。この世界にも魚肉ソーセージというものがあるといいのだけれど。
で、せっかく冒険者になったのだし、気分を変えてみようと普段着も新たなものにしてみた。まぁ、ルツみててなんか可愛いなぁ〜と思っただけなんだけど。昨日、セーラー服をオーダーしておいたのが届いていた。
某Fなんとか女学院風の夏服。ルツと違って半袖バージョン。襟と折り返した袖は綺麗な水色に白三本線。スカーフは夏服なので紺にして、某F風の小さめ。スカートを紺にする必要はないので、襟に合わせて水色のボックスプリーツ。どんなにミニにしても校則はないのだが、パンツが見えないくらいでね。
あっ、君、期待したの? ざぁーんねん。もちろんスパッツは履くからね。
服装に合わせて、お化粧は控えめにした。眉とアイメイクは少しブラウンを入れておかないと、地毛がシルバーブロンドで白いから。アイブロウペンシルとマスカラはいつものやつ。
ちょっとビューラーを使って。で、ベースメイク。これはエルフで助かる。ほぼ不要なのだけど、あまりに白いので、病人? いや死体? っぽく見えない程度にピンク系のチークを。
あとはピンク系のリップだけ。シャドーはやめておいた。こういうコスって、賞味期限があるのかなと思ってる。だってJKって、十八歳までじゃないのかしら?
それより年齢が上がってくると、だんだん、この服も安物のAVのように見えてくるしね。お化粧を薄めにするのもそういう点を配慮してよ。この世界の人はAVを知らないだろうけど、魔法で映すホログラフはあるようで、当然18禁もあるみたい。さすがに、どこで手に入るのか含めて知らないけどね。
「なんや、ルナ、むしろ若返ったというか、可愛いなぁ」
リベカはすぐにツッコんでくれる。ミチコは、またかぁ〜な笑顔だけだけど。
夏でもそう気温が上がらない、このあたりの気候は私にはありがたい。春から夏にかけて雨が多いのが難点だけど、今日は爽快な青空が広がる朝だった。
五人で連れ立ってギルド、ミュルムバード本部へ向かった。さて、さて、冒険者初日だ!
行ってみると、ミッション掲示板の前が黒山の人だかりとなっていた。どうやら、今朝、貼り出された特殊なミッションがあるようだ。先に来ていたリリスが説明してくれた。
「おはよう! ベルフラワーの皆さん。この人だかりのことかしら? 何でもゴールド星五のミッションが出たとか」
さすがに最高ランクの難易度のミッションが出るのは珍しい。さらに、埋蔵魔導石の権利以外にも特別報酬が付加されるミッションのようだ。
ただ、ゴールドランクの冒険者が五名所属しているパーティなど、普通はあり得ない。アライアンス前提となるため、報酬が多くとも一人分の分け前は、それほどでもないのではないか?
「これ。闇属性魔導石の採取とセットだから、かなりのお金になるんじゃない? 十人くらいのアライアンスでも一年遊んで暮らせるレベルかも」
とリリスが付け加えた。そして。
「ねぇ。ルナ、ミチコのブラックランクって、プラチナと同等よね? どんなミッションでも受注可能なんじゃないの?」
「ええ、本部長の説明だと、そうね。でも、さすがに、経験不足の私たちでは……」
「昨夜、俺を震え上がらせた月姫様が、何言ってるんだか。頭数はいりそうだから、予定通り、俺たちも一緒にやらせてくれよ。天井の修理代が意外に高くてさぁ〜」
月姫? 父からはそういう意図で命名したとは聞いていないが、前世でルナはローマ神話における月の女神だ。ミチコは知っていたようだが、テラは、ああ見えて、なかなかの博識なのかもしれない。
「そうだな。是非、一緒にやろうぜ」
とセムが後押しする。
「雑魚は八人いれば、何とかなるけど、ボスが難物ね。最高ランクになったのは、ボスが強いからだと思うわ。だけど、私、ルナ、ミチコに闇属性魔法は無効だし、ミチコ、エスティル覚えてるわよね?」
「ああ、石化ですか? 実戦で使ったことがないのは不安だけど、一応、できるわ」
ここで言うボスの「強さ」は、闇属性魔法の石化だろう。とても嫌らしい魔法で、ひとつ間違えば、一瞬でパーティが全滅する。この世界言う「全滅」は、当然だが死を意味する。
経験のある手練れでないと厳しいミッションだが、パーティ中三人にこの魔法が無効で、かつ、エスティル持ちならば、問題はないだろう。私たちのアライアンス構成に最適なボスということになる。
「私と、兄弟は遠方からの攻撃で大丈夫やけど、テラとセムは?」
「うまく後ろに回り込むさ。万一の時はミチコ頼むよ」
「はい!」
「ボス以外の雑魚ガーディアンは、闇属性ではないだろうから、弱体魔法は私に任せて! ルナは正面から切り込んでくれればいいから」
「昔に比べれば、だいぶ体力もついたし、加速と解除を使い分けて、ボスまでバテないように頑張るわ」
「よし決まりね!! じゃ、ルナ、受注してきて」
F女学院の制服は、冬服も燕脂のラインで可愛いわよね。そのうちに考えてみようかな。制服の時のお化粧は少し控えめな方がいいわ。って……。この時私は、17歳だったんだからね。ああ、今もあんまり成長してないけど。若くていい? うーーん。でも千年はねぇ〜。
スカートについては「響け!ユーフォニアム」風をイメージしています。アレを観ていて、右ポケットからハンカチを取り出す場面で、アレ? っと思ったのですが。左右でヒダの方向が逆になっている、ボックスプリーツでした。




