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初めての私小説
〜人族もすなる小説といふものを、エルフもしてみむとてするなり〜
エルフの寿命は千年ほどと言われている。その標準からすると、私はもう間もなく天に召されるだろう。そして、エルフの里の丘の上、白百合の花、彼女と出会った時の思い出の花、世代から世代、千年の時を超えその系譜をつないだ花だ、に囲まれ静かに眠る最愛の人とやっと再会できる。
私は大半の生を研究、学問に費やした。晴耕雨読の静かな日々だった。私が十二歳の誕生日を迎えてからの数十年を除いては。もうこの世にはいない家族、友、仲間、そして最愛の人。皆と過ごした濃密な日々は、悠久の時を経てもなお、忘れ得ぬ思い出だ。しかし、私たちが命を賭けて創り上げた物語に学術的な意味はない。これを論文とする必然性は感じてこなかった。
おそらく、末期の時が迫ったからなのだろう。昨今、その須臾の記憶が愛おしくてしょうがなくなってきた。論文ではなく小説として、私たちが生きた証を残すことにしよう。私が千年の生涯で一度だけ描く小説。波乱万丈の冒険譚をここに記す。