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第1話 『目覚めと急転』

ぱちり


頬に伝わる硬い感触に私は目を覚ました。

労わるようにゆっくりと体を起こす。

やたら痛む頭を押さえ、頭を振ってろくに働かない脳みそから眠気を追い出した。

視界に真っ先に飛び込んできたのは木製の机。どうやら机に突っ伏して寝ていたらしい。通りで体のあちこちが痛むわけだ。椅子から立ち上がると腰がボキボキと嫌な音を立てた。


「いたたたたた……なんで私はこんな所で………」


そうぼやいてようやく気が付く


「…?あれ…ここは………」


ゆっくりと部屋を見渡す。

何一つ既視感が得られない。さっきまで呑気に寝ていた勉強机でさえ見覚えがない。

ここは一体どこなんだ?なぜこんなところで寝ていたんだ、そもそもここに来た理由は…


「わた…し…は…」


思い出せない思い出せない思い出せない思い出せない思い出せない思い出せない思い出せない思い出せない思い出せない思い出せない思い出せない思い出せない思い出せない思い出せない思い出せない思い出せない思い出せない思い出せない思い出せない


「...............誰...?」


自分の口から飛び出した言葉が、現実が、容赦なく自らを襲う。

自分の息を飲む音がやけに頭に響く。

ぐらりと視界が傾いたように感じられた。

誘拐?記憶喪失?家族は?そもそも私の家族って?

色々な考えが頭の中を高速で巡り全身から血の気が引いていく。視界は歪み、ヒューッヒューッと頼りない呼吸を繰り返す。震える右手が、異常な拍動を押さえつけるように左胸に当てられた。


何か一つでも知っているものがないか、どうしても確かめずにはいられなくてもう一度部屋を見る。

薄暗い室内に勉強机。クローゼットらしき引き戸とベッド、カーテンの閉まった窓。そして…姿見。


姿見の中にいたのは、白いワンピースを身にまとった腰まで届く黒髪の少女だった。

真っ青を通り越して真っ白な顔をした少女は怯えるような目でこちらを見つめていた。姿見の少女が自分だとまるで実感が湧かない。夢でも見ているのだろうか。こんなこと、信じられない。

理解することを拒むように思いっきり視線を逸らす。


扉。明らかにこの部屋には不釣り合いな、大きく、細やかな彫りが施された荘厳な木製の扉がそこにはあった。


「し…知らない知らない知らない!!!!」

なにこれなにこれなにこれ!!!!私はこんな部屋知らないしらないここはどこ私は誰私はわたしはわたしはわたしは????????????????


あたまがいたい

たっていられない




ひらり


部屋の隅に紙切れが落ちている


もはや何も考えられない

反射的にその紙に手を伸ばす



『 逃 げ ろ 』


と、赤い文字で、一言だけ。紙にはべったりと赤色の何かが付着していた。



文字を認識するやいなや、体勢を立て直すこともせず扉に向かって必死に走りだす。


あの扉だ

早く逃げなきゃ

外に行けばきっと

こんな訳の分からないこと

誰か助けて


右手の中ではさっき拾った紙切れがぐしゃぐしゃになっている。

空いた方の手を扉にかけ勢いのまま飛び出す。

唯一の希望。扉の先に踏み出した右足は




空を切って、地面を踏みしめることはなかった


落ちる 落ちる 落ちる



地面が、あるはずの地面がない!混乱の極みにある脳では何も正しく理解することが出来なかった。声すら出ない。左手がドアノブを離れる。勢いのまま飛び出した体は重力に従って落ちていった。周りは闇。落ちる過程で上下が入れ替わる。ついさっきまでいた部屋の扉が急速に離れていく。手を伸ばしても、もう届かない。暗闇の中で扉だけがポツンと小さく浮かんでいた。

きっと私は今とんでもない間抜け面をしているのだろう。一周まわって冷静にすらなってきた。


ああ、こんなことならせめて

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