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49話 魔王最終形態

「『アプソリュートシール』解除」


 魔王は膝をついた状態から胸から大量の血を流しながら立ち上がる。

 いつものごとく傷は回復せず、逆に傷口が広がっていた。


「あなたたちがこの世界で僕と同じくらい強い人たちですか……」


 元の世界とガイアと同じような調子の声を聴き、魔王を見るとあの熱のこもった瞳ではなく、さめついた瞳がそこにはあった。

 私は目の前に居るのが魔王ではなくガイアだと確信した。


「一生の終わりは最高の時間にと思っているので、楽しませていただけると嬉しいです。残り時間は五分程度ですので悠長に構えずに最初から本気できていただければと」


 ガイアはまるで今から戦いを始めるような口ぶりでそういうと、こちらに戦うように促すように拳を固め、構えを取った。


「逃げろ」


 武神は幾分か尖った声でそう投げかけてくると、ガイアの前に対峙した。


「三人同時ではなく、一人ずつですか」


 ガイアは少し落胆したような顔しながらも、武神に向き合うと拳を引き絞る。

 武神はそれにあわせてか居合の構えを取る。


「退却しましょう。正気に戻った奴と戦うのは自殺行為です。師匠は死なないので気に病むことは在りません」


 ハーデスに腕をとられるが、対峙する二人に目が離せず、見続けていると武神が消えた。

 武神が先ほど居た場所には変わりに折れた剣とガイアが立っていた。


 加護によって上の領域に至ったと思っていたがその光景はそれを凌駕していた。

 経過さえも見ることもかなわず、結果だけが見取る事しかできない領域。

 アーツが介在する余地もない世界。

 それが今あそこで起こった事だ。


 全ての次元が異なっている。

 アーツを六つ同時に並列展開していた先ほどの光景が児戯に思ってきた。

 ハーデスが今全力で退却に踏み切る理由が理解できた。


 あれは頂点に位置する者なのだ。

 唯人ではどんな加護、援助を受けようとあそこには至ることができない。


「次はあなたたち二人のうちどちらですか? それとも二人がかりですか?」


 そう尋ねる声が聞こえるとハーデスは止まった。

 前方を見ると先ほどまで背後に居たはずのガイアが目の前に居た。


 ふざけている。

 その姿を見て、始めて敵対者に対してそんな所感を抱いた。

 奴は口から吐血し、胸からおびただしい量の血を流し、まさに死にかけだというのに、それでもこれなのだ。


 ここから勝てるという結果を予想することを拒否する。


「どっちつかずでよくわかりませんが、いつぞやの五節根のそこのあなたからいきましょうか、前の時と何か変わりましたか?」


 その言葉を聞くとハーデスは不意打ち気味にガイアに飛び込んでいき、五節根を振りかぶった。


 魔力が相当に込められているのか、五節根の周りにはオーラが見える。

 それはガイアに近づいた瞬間に爆ぜ、なぜかハーデスの身体が浮かび上がった。


 殴ったのか?


 そう思うと上空に浮かび上がったハーデスがその場から消えた。

 ガイアは蹴りぬいたような姿勢で上空に移動しているのを確認すると、次の瞬間に拳を振りぬいた姿勢に変わっていた。


 時間の連続性の見えないその光景に理解が追い付かない。


 気付くと乾いた破砕音が地に響き、地面にハーデスが埋まっているのが見えた。


「あとはあなたですか……」


 ガイアは地に降りて吐血すると、そう呟いた。

 顔は真顔でなんの感情も感じれない。


 命を危機を感じた。

 頭の中で記憶が展開され、周りの景色はゆっくりになっていく。

 だがガイアはそんな世界でも常とかわらないスピードでこちらに近づいきた。

 記憶を振り返ることなくこのままではやられる。

 あるもので奴に対処しなければならない。

 すると先ほど魔王がアーツを並列展開した様が思い浮かんだ。


 身体強化系のアーツを並列展開すればもしくは。

 そう思うとアーツが自動的に展開され始めた。


『定まらぬもの』『神に連なる者』


 赤、紫のオーラが生じるとアーツが二つ展開され、身体能力を引き上げる。

 だがひどく不安定な状態ですぐにほどけることを直感で感じ取ると更にアーツが展開される。


『五輪』


 青いオーラとともに更なるアーツが展開されてほどけると思うとなぜか不安定な状態が安定した。


『勇者』『特異点』


 さらに白いオーラ、ハシバミ色のオーラとともにアーツを展開すると


 ――これ以上のアーツの付与不可能


 そんな声が頭の中で聞えた。


「そちらが来ないのならばこちらから行きましょう……」


 するとこちらに肉薄したガイアは拳を振りかぶった。


 ちゃんと奴の動きが見えている!


 奴の拳を剣でいなし、カウンターに切り込むとガイアはそれを避けた。


「なるほど、あなたは僕について行けるようですね。残り時間いっぱい楽しめそうでこちらとしては何よりです」


 ガイアは心なし上擦った声でそういうと構え直した。

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