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39話 魔王は黒

ハーデスは私の言葉を聞くと苦汁を飲まされたような顔になり、唇をかんだ。


「それは本当にあなたの意志ですか? 誰かが正しいというから、常識的に正しいと思うからそう決めたのではないのですか?」


 その声に少し思い当たる節があったせいか、すぐに返事を思いつかなかった。

 するとまるでこちらに返事をさせまいとするようにハーデスは言葉をつづけた。


「あなたは幼い。僕にはあなたが自分の意志で神々のことや魔王のことに介入しているようには思えない」


 失礼極まりない言葉だ。

 自分の意志ではなく、私が常識にのとって行動した結果こんなことをしているなど。

 そこまで私は馬鹿ではない。


「幼いからと言って何も分からず、何も感じずに生きているわけではない。私には守りたいものもいれば、大切なものもいる。私は自分の価値観で自ら判断している」


「その守りたいものとは魔王ですか? どうして彼を恨まないです? あの男が邪神の信徒でなければあなたはここに送られることもなければ、脱出するために寿命を減らすことも無かったはずなんですよ」


 ハーデスはこちらを見ないようにするようにそっぽを向くと幾分か棘のある口調でガイアには助けるほどの温情を与えるべきではないと言った。


「当たり前だろ、私のことを分かってくれるかもしれない唯一の人間なんだぞ。誰も彼も私に才能があると言ったり、媚へつらうような態度をとった中でも奴は違った。誰よりも才能がある私を歯牙にもかけなかった。いつも違うものだと拒絶され、区別される私を奴は拒絶しなかったのだ。どうして奴に掛かる火の粉を取り除こうとしない。どうして危機に瀕しているときに助けようとしない。そっちの方がおかしいだろ!」


 困ってる人を見捨てては置けない。

 そういう心持で神々の戦いをどうにしようと思ってたはずだった。

 無論、ハーデスがガイアのことを話題として取り上げたとき、そう言い張ろうと思っていた。

 だがこちらの意志に反して勝手に口はそう言葉を紡いでいた。


 その言葉には周りの人間に対する不安やガイアへの期待が込められていた。

 誰かにすがろうとする気持ちが自分の中にあるとは思わなかった。

 これが私の本当の気持ちと言うことだろうか。


 いや違う。

 きっと自分の知らない心の奥の部分が顔を出したのだろう。

 確かに周りの人間を神々の争いに巻き込みたくない気持ちの根幹にあるものが表出してきたのだ。


 どうして一番大切なことなのに忘れていたのだろう。


 そんな疑問を考えていると少し覇気のない声が聞こえてきた。


「あなたは魔王に相応に入れ込んでいるんですか……」


 見るとハーデスはショックを受けたような顔をしており、それを何とか悟らせまいとするためか顔に手をやっているようだった。


「何を言ってもあなたは意思を曲げることはなさそうですね」


 そう言ってしばらくすると、そう呟いて溜息を吐いた。


「それにあなたがちゃんと自分の意志で判断して決めていることが分かりました」


 諦めたようにそういうと


「僕も魔王討伐の手助けしましょう」


 と言った。

 ハーデスはショックを受けたようにげっそりとした印象を受けたが幾分か覇気を取り戻したように見える


「魔王を討伐すると言ったてまだゼウスが四柱の神のかごを受けたのかはわからんのに早計過ぎるだろう。ゼウス加護はいくら持っている?」


「善神、貴神、沌神の3柱の神から加護を頂いています。ならあと一柱で四柱か」


 武神がそう呟くとこちらに向けて青い光が降りてきた。

 私に向けて神の加護が与えられている。


「俺の加護をお前に与えた。これで、魔王に戦いを挑む最低条件を満たしたな」


「魔王を討伐に行く前に私の生まれ変わりだというペルセポネと話をしたい」


「話など魔王を討伐したあとにも出来るだろう。加護を受けてお前の寿命が減っているのだ。俺たちと共に討伐に行けるのは1日に一回しかない。むやみに無駄には出来ん。行くぞ」


 武神がわたしにそう告げると私たちは魔王討伐に向かった。

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