29話 姉妹喧嘩という凶悪犯罪
「じゃあ怪物がいない、魔王だけがいるこの世界がこうまでも荒廃しているのだ? 貴様は本当のことをしゃべっているのか?」
邪神の瞳を見つめると、邪神は目をそらさずにこちらを真っすぐに見つめかえしてくる。
その眼光には意固地をはっているというような軟弱さはなく、こちらが間違っているというような我の強さが感じられた。
「無論、本当のことをしゃべっていますよ。ここが荒れ果てたのはこの世界の魔王が強い者を戦いという願望を持っているからです。あれはまだ願望に飲まれて人を殺めることはありません」
「まだ……か。じゃあ時が経てば人を殺す可能性もあるということか」
「邪神の使徒は龍に変貌し、徐々に自我が失われていくので否定はできませんね」
邪神はあっけからんとした様子で、あまり聞きたくはなかった事実を告げる。
「なるほど。魔王も貴様らの争いに巻き込まれる犠牲者の一人と言うことか」
聞けば聞くほど善神と邪神の争いに嫌気がさしてくる。
どうして私怨や自分勝手でいろいろなものや命が失われなければならないのか。
「私を責められても困りますね。善神が居るからそうせざるを負えないというのに」
その言葉からこれ以上は邪神になにかを求めたとしても、何も出てこないことを私は悟り踵を返した。




