21話 欲望を抑えらなかった、被害者には申し訳ないと思っている
「わたしは……」
私が帰るには神からの加護を得て、魔王を打倒することしか残されていない。
それをなすと沌神に答えようとしたが、声は途中で途切れてしまった。
「何も決まってないのなら、ここに止まるのも一つの手じゃが」
貴神はこちらの様子から何を思いついてないから続きがないと勘違いしたようで、気を利かせてそんな言葉を投げかけてきた。
ここに留まる……。
現実的な選択肢だ。
魔王との戦闘で荒廃した世界ではあるが、人が十二分に生きていける環境であるし、そうすれば私は加護を受ける時のような寿命を減らすという代償を負うこともない。
現状況では最善の選択肢ともいえる。
しかし理性ではそうわかっているが、受け入れらない自分がいる。
先ほど魔王を打倒すると言えなかったというのに自己矛盾も肌肌しい。
魔王を打倒するのも、ここに留まることも嫌だというのだろうか。
なら何を私はここで成したいというのか?
心はなにを基準に動いているのか?
問いが胸の中で溢れかえってくる。
その問いに対する答えは知っている。
だがそれが正しいかどうか自信が持ってない。
私の感情的な答えは実現する可能性も低ければ、曖昧模糊として具体性も存在しない。
それでいいのか?
ダメに決まっている。
だが確かに私はそれを望んでいる。
「魔王を打倒せず、善神と邪神との争いをやめさせ、元の世界に帰りたい」
気づけば適当でもないし、正しくもないそんな願いを私は口にしていた。
沌神はその言葉に考えるように瞳を閉じ、貴神はおもしろそうに口角を上げた。
「あんたはあたしたちがそれをしようと今まで働きかけて来なかったとおもているのかしら」
沌神はこちらを窘めるようにそう言って、桃色の瞳でこちらをじっと見つめてくる。
「あなた方がそうしただろうことは重々承知だ。だが私は打倒も見て見ぬふりをすることはしたくない」
「あまり小うるさないことは言いたくないけど、あんたの選択は感情的すぎるわ。望みのままに突き進んで必要なものを見失えば破滅しかないわよ」
こちらの答に沌神は目を開くと、どこか遠くを見るような目でそう告げた。
彼女の経歴や行いを知らないというのに、その言葉には不思議と重みのようなものが感じられる。
自分は必要なものを見失っているのだろうか。
必要なものが自らの安寧だとすれば確かにそうかもしれない、だが私が必要なものはそれではない。
「私が必要なものはこの胸のわだかまりの解消だ。私の寿命が縮もうとも、死を迎えることになってもそれは破滅ではない」
沌神は私の言葉に驚いたように目を見開き、そこに何か見出すように凝視すると「信長様……」と小さくつぶやいた。
しばらくして放心している自分に気付いたのか、そっぽを向くと、
「あんたはあたしのよく知っている人に思考回路がそっくりね。きっと大物になれるわ」
照れ隠しのようにそう呟いた。
「よかったではないか。気に入れられたぞ」
最初の意趣返しのように貴神がそういうと沌神は貴神を睨みつけた。
だが貴神はそれを無視して、こちらに笑みを向ける。
「寿命も命も惜しくないと確かにお主は言ったな?」
そういうとこちらに向けて紫色の光が降りてきた。
善神から加護を受けた時と同じ光だ。
「妾の加護だ。お主は神と接するには脆弱すぎる。受け取れ」
貴神の加護。
それを受け取って何かが変わったという実感はわかないが、確かに何かを受け取ったことをその光が証明していた。
「ここでの要件もすんだじゃろう。早速望みを行動に移すがいい」
次の行動、まだ決めてはいなかったが、知らなければいけないことはわかっていた。
するとおのずと次の行動が見えてきた。
「では、早速行動に移らさせていただきます。お世話になりました」
別れの文句を言うと
「あんたどこに行くの?」
と沌神が語りかけてきた。
「邪神の元です」
「忘我の滝ね。ここからかなり距離があるじゃない。仕方ないから送った上げるわよ」
沌神がそう切り出してきたので私は龍に化けた沌神の背に乗って、忘我の滝に向かった。




