19話 この世で最も恐ろしい儀式、ガールズトーク
「ハイドは陰気くさくて、直情的なだけ。それがすべてよ。あたしからはそれ以上に語ることは存在しないわ」
沌神は貴神にきわどい質問をされるのを避けるためか、先手必勝と言った感じでそう宣言した。
それを聞いた貴神は嘆かわしいと言った感じで、眉間に指を押し付ける。
「洗いざらいと言ったのに、抽象的な一言で済ますとはなにごとか……」
「しょうがないじゃない。いろいろと知らないあんたらに1から10まで補完して説明するのめんどくさいのだもの」
「……」
沌神の自由さに疲れたのか、貴神は脱力してクッションに身を埋める深度を深くすると口を開いた。
「せめて、善神に対することとかだけでも言わぬか」
「まあ、それくらいならいいわよ。ハイドがジキルに対して思っていること、あいつは直接話さないから正確にはわからないけど、アンタはそれでいい?」
「いえ、少しの情報でも助かるので無論です」
こちらに確認を取ってくる沌神にそう答えると、一回咳をしてから彼女は話し始めた。
「じゃああんたがここに連れて来られた原因のハイドとジキルの確執ついて話すことにするわね」
「お願いします」
「最近の人間にしては返事がいいわね。ご褒美に特別に推測までつけて上げましょう。
……じゃあ説明するから、ちゃんと聞いてなさいよ。ハイドの言によるとあいつらが仲が悪かったのは精霊になる前――前世の時かららしいわ。詳しい確執の詳細を言わないけど、前『ジキルと見た目似てんだから仲良くしなさいよ』て言ったら、『人に悪意を押し付けるあんな奴に似てるわけがないでしょう』とかキレてたから、あたしの推測だけどそこらへんが確執と何か関係してるじゃないかしら」
「善の神なのに悪意を押し付ける……ですか。沌神はそれを信じたということは善神は予ねてからそういうことをするものだったのですか?」
「そうね。あいつは昔からそういうことをするのに躊躇いがない奴ね。自分が善であるなら何をしてもいいと思ってるようなん奴だから、定期的に自分の中に生まれた悪を怪物にして排出して、自分がいつも善であれるようにしてるし」
「その上、怪物の被害で民草が被害が及んだときに直談判しに行っても『私の悪が成したことなので、私に言うのはお角違いです』とか平然と言って話を聞かんしな。しかもそれから怪物の被害を口実にハイドが気色ばんでジキルに飛び掛かっていて、妾達に累が及ぶのなんぞ迷惑千万じゃ」
今まで邪神が難癖をつけて善神を恨んでいると思っていたが、善神は邪神や他の神に恨まれることをしているようだ。
自分の国で信仰されている神がどうも胡散臭いものに感じられる。
「善神が一方的に悪いのですか?」
「まあ、ハイドもいつも理不尽に善神に殺気を向けてるから一概にどっちかが悪いとは言えないわね。常でジキルをこの世から消す方法を真剣に考えている奴だから」
ジキルは人の話を聞かない。
ハイドは自分の恨みに従って周囲を無視して、突き進む。
真っ当な話合いなどで解決できるようなことではないらしい。
こちらが少し頭の痛い思いをすると、貴神がだらりとした姿勢から徐に姿勢を少し正す。
「また誰か来たの。今日は客が多い……」
貴神がそう呟くと自分のすぐ隣で紫色の光が溢れ、痩躯の男が現れた。




