6話 ためらいのなさすぎる自称神
漆黒の金属棍が軋みを上げると、魔王の尾の拘束を解いて、ハーデスは後方に下がる。
魔王は追撃に入るかと思うと、周囲で大蛇のような焔が蜷局を巻き始めた。
焔は収束すると、色以外はハーデスとまったく同じ赤い金属棍を生じる。
「自動迎撃「アヴェンジ・グリード」発動」
最初の禁術以降初めて、魔王が声帯を揺らした。
その静かな声音は淡々していて私にはどこか退屈そうに感じられる。
そんな魔王の声とは対照的に金属棍は自らの誕生を喜ぶように身を振るわせる。
振動を終えると宙に浮かび、鎌首をもたげた。
その様子からは確かな意思と、こちらへの警戒が垣間見える。
近づけばあの金属棍が飛び掛かって来るのは明白だった。
仕掛ければあの金属棍の迎撃に遭い、あちらが出るまで待てば魔王に金属棍と言う援護が加わった状態で対処することになる。
どちらも最悪なことには変わりがないが、わずかながら前者の方がましだった。
私が足のばねに力を入れると、目の端から武神が飛び出していた。
自分も同じ行動を取ろうとしていたというのに、驚かずにいられない。
武神には自分とは異なり、迷いがなかった。
命取りになる状況で、躊躇いなく行ける人間は少ない。
大概の人間は躊躇うのだ。それをしないというのも、狂人か無知な子供だけだ。
だが、そのどちらにも武神は当てはまらなかった。
魔王に突っ込んでいくその瞳には理性の光があり、何かを考えるように眉間は閉じられていた。
狂ってもいなければ、無知でもない。
武神は確かな勝算を持って魔王に突撃している。
その気概と賢しさはただ天才としか表現することが出来ない。
武神は二刀の剣を何もない空間から取り出すと、五節棍を一閃。
五節棍は縦に割られたがない事も無かったのかのように二つに別れ、武神に殺到する。
だが、武神はそれを更に一閃すると、五節棍は粉塵になって消える。
魔王はその様を見ると焔を燻らせて、武神に叩きつける。
それを武神は巧みに避けて魔王に向けて一太刀。
だが、刃は魔王の肌に弾かれた。
武神はそれを見ると退却の必要があると感じたのかバックステップ。
「交代の時間だ」
少し息を荒くするとそう呟いた。
確かにこちらの消耗が激しすぎると思うがどうやってそんなことをするきだと思うと、
「下がるがいい貴様ら」
すると尊大そうな声が背後で響いた。
振り向くといかにもお嬢様然とした金髪女と屈強そうな男たちがいた。




