4話 魔王降臨
退却の選択肢は赤いものによって封じられた。
今、この場では意図せずに死を念頭にして己の全ての力を発揮する局面――死地が作られていた。
ここで魔王に敗北すればそこで終わり、勝利または撃退すれば生きることが確定する。
赤いものから目を離さず、奴の行動を予測してどう切り出すかシミュレートする。
こちらが頭の中でどう切り抜けるかを考えると、ついに赤いものが動き始めた。
地面の上を炎上させながら疾走するかと思われたそれは、空に向けて翼を広げた。
その様子を見て、相手が真っ当な人間ではないことを悟った。
一応天のシミュレートもしていたが、いかんせん自分の今までに刃を交えた相手は飛ぶ相手はそうはいなかった。
相手がどう出るかは未知数だ。
とりあえず上から一方的に攻撃されることを避けるために奴に向けて斬撃を放つ。
いくつか放ったが、奴は羽ばたくごとに爆炎を放ちながらそれを全て回避する。
赤いものはどんどんと躊躇うことなく、こちらに近づいて来る。
羽ばたきによって加速させた勢いのままに奴は真上から突撃してきた。
バックステップで落下地点から離脱すると、目の前の地面が爆ぜ、火柱が上がる。
落下と同時に膝をついたことで隙が出来たはずだと今までの経験がささやいて来るがそれを無視する。
頭頂部に生えた曲がりくねった角に、空に向けて伸びる赤い翼、極めつけにはうろこに覆われた太い尻尾。
目の前の特異な見た目をしている相手には普通の人の常識が通じないことはすぐに理解できたからだ。
人間でありながらも竜の特徴を有するもの。
竜人はエメラルド色の瞳を確認するようにこちらに向ける。
見覚えのある瞳だが、その瞳にはいつもの冷ややかな陰りはなく、何かに焦がれるように強い光を帯びていた。
変わり果てたガイアは確かに熱情を持ってこちらに向かい合っている。
その瞳を見ることで、目の前の男があのガイアよりも力が劣っていることを悟った。




