1話 神務執行妨害、荒野に強制送還
シリアス章で番外です。
「Grrrrruuuuuuuuuuu……」
大熊の断末魔を聞き、踵を返そうすると、肩に手が添えられた。
振り返ろうと途中まで考えたが、暴力的な邪気を背後に感じ、身体が膠着した。
「あなた珍しい才能と剣を持っていますね。それは人がおいそれと手に入れられるものではないと思いますが……」
高い声音が鼓膜を揺らすと、背後の邪気がより濃密になった。
こちらに身体を近づけたことが分かった。たったそれだけのことだというのに体は大仰に反応し、額から脂汗が零れ落ちる。
「ああ、やっぱり姉さんの匂いがしますね。あなた、善神ジキルの使徒でしょ?」
背後の邪気の塊のような存在に質問を投げかけられる。
声を出そうとするのを本能が拒否するが、質問に答えない方がおぞましいことが安易に想像でき無理やりに声を出す。
「使徒など知らない。人違いだ」
私がそういうと、乾いた笑い声が返事として帰ってきた。
「へえ、あの人は自分の使徒に何も教えないんですねぇ。あいからわず、性格が最悪ですね」
なぜかこちらの肩に入る力が若干強くなるとともに、邪気が強くなる。
「まあいいでしょう。姉さんが何であれ、使徒であるあなたには消えてもらうことに変わりはありませんし」
あなたを消す。
そう聞くと体中が総毛立ち、背後に向けて全力でセイクリッドを振り被った。
だが振りかぶったセイクリッドは虚しく空を切る。
しっかりと目線を固定し確認するがやはり切るべき本体はどこにもいない。
仕損じたことを悟るとともに、私はあることに気付いた。
「どこだここは?」
自分がさきほどの森ではなく、荒野の中にいることに。
真逆の風景だ。
思考がついて行けずに「どうしてここに」としか考えられない。
「ちょっと、お姉さん。困るよお。ここは戦場になるからってずいぶん前から言ってるのに入って来てもらちゃあ」
そうやって途方に暮れていると、しゃがれた声がこちらに投げかけられた。
声のした方を確認すると、藍色の軍服を着た中年の男が瓦礫の上に腰かけているのが見えた。




