13話 恐怖の二者面談
ヘルメス邸応接間。
ここにはいまだかつてないほどの緊張が立ち込めていた。
一方にはノースクラメルの悪魔、もう一方には拳闘王。
両者はテーブルを隔てて視線をぶつけ合っていた。
この状況で緊張の糸が張らないものがいるだろうか、いやそんなものはいない。
その証拠にヘルメスの緊張の糸は、限界まで張りつめていた。
両者が何を起こすのかをかたずを飲んでここにいる一同全員が見つめている。
いつも泰然とした態度を取っているアダルマンティーでさえ鋭い眼差しでまるで何かを見極めるようにそれを見つめていた。
場の緊張が高まっているというのに、ガイアの両親たちは終始笑みを浮かべている。
「我々はイースバルツの軍門に下りたいのですが、陛下よろしいでしょうか?」
「……獅子身中の虫を自らの腹の中に入れろというのか、貴様は」
アダルト王は単刀直入に切り込んだガイアの母――ミルフィに対して、すげない言葉を吐く。
おおよそ実力主義のこの王がこんな態度を取るのは意外だった。
軍門に下ったものに、その慧眼をほめたたえ、褒美を与えるのがこの国王がする常の態度だ。
ミルフィに対して、異なった態度を示す。
そのことには何か大きな意味がある気がしてならない。
「陛下は私が裏切るか、心配なのですね。では、裏切る可能性をなくせばいいということですね」
ミルフィは若干アダルト王を嘲るような態度を取ると、そう提案した。
裏切る可能性をなくす?
ヘルメスにはそのことが理解できない。どうやっても裏切りの可能性はあるはずだ。
敵対者がいる限り、上下がある限りそれは避けられない。
それがなくなることは生きている限りはあり得ないというのに、それをなくす。
どんな手段があるというのだ。
ヘルメスが困惑していると、アダルト王は不遜な態度を取った他国の将に向けてほくそ笑んだ。
「抽象的すぎるな。もっと具体的に話せ」
「イースバルツ以外のすべての国を滅ぼし、この国の王政を廃止すればいいということです」
ミルフィの言葉にへルメスは目を剥く。
想像だにしないほど、大それたことを目の前の軍師は言っている。
他国を滅ぼし、そしてイースバルツも事実上、滅ぼすなど。
大言壮語もこの上ない。
「そんなことが本当に可能だと?」
「ええ、可能ですとも。ノースクラメルは私とローゼリンデが抜けたことで事実上戦力は歩とんどなく、聖国には息子が実行支配に出向き、その他の三国には反政府の組織に資金援助と武器の供給、人材の派遣を行っています。そしてイースバルツの王政廃止は私が聞いたところによれば、陛下の目標だと聞きましたが……」
そこまでミルフィが言うと、アダルト王はこらえられなくなったように、大きな笑い声を上げ始めた。
その顔はひどくすっきりしたような顔をしている。
「全て織り込み済みか。気に入ったぞ、貴様を宰相として迎え入れよう。俺の娘と貴様の息子の婚姻の予定を考えれば親として相応しい身分だろう」
他国の将を宰相にするなど、破格の待遇だ。
だというのに、ミルフィもアダルト王もそれが当たり前だという顔をしている。
きわめて高レベルな次元で生きてきた人間のみがわかりうる暗黙の了解がそこには垣間見えた。
「陛下一言付言させていただきますと、ガイアはニューハーフですがよろしいのでしょうか?」
ニューハーフ?
言っている言葉の意味が分からなかった。
その言葉にアダルト王もいきなり冷や水でもかけられたような顔をしている。
そして周りもアダルマンティー含め、虚を突かれたような顔をする。
「何を言っているというのだ、貴様は……?」
アダルト王がそう零すとミルフィは用意のいいことに懐から水晶を出した。
「こちらに証拠があります」
そういうと水晶から光が溢れ、カマ口調で哄笑を上げるガイアの姿が映された。
あまりに衝撃的すぎて、ヘルメスは思わず口を塞いで、目を見開いた




