7話 極悪令嬢断罪イベント
イクタ―領アイズ村。
ガイア不在のここでヘルメスは窮地に立たされていた。
「まったく婚約前のガイアを寝取ろうとするなんて、あんたはとんでもない極悪令嬢よ!」
ティーカップを持ったまま硬直するヘルメスに対して、証拠物の金髪を提示してクリムゾンが糾弾する。
「マリッジブルーからのNTR。あんた本当に下種野郎よ。歴史上でこんなに悪いことしたことした奴見たことないわよ……。アダルマンティーあんたも何か言ってやんなさい」
「ふん。どんなに汚れたとしてもかまわないよ。最後にあたしの隣にいればね!」
「かっこつけてんじゃないわよ!」
クリムゾンの絶叫によって発生したソニックブームでアダルマンティーは壁を突き抜けて吹っ飛んでいく。
目の前で起こされるダイハードによる凶行をヘルメスは、ただ見つめることしかできない。
「ヘルメスあんたはカエサルと一緒に一週間、門の前で磔の刑よ」
クリムゾンは沙汰を下すとヘルメスの首根っこをもって引きずり始める。
荒れ狂う怪力乱神にヘルメスができることはされるがまま引きずられるのみだ。
クリムゾンは草原を凄まじい勢いで駆けていく。
誰も止められるものは存在しない。
この国を実質上牛耳っているセールスマンであっても。
「ふう。もうすぐ気温調節機構が完成しますな」
「邪魔よ!」
バン!
「あああ! 気温調節機構がああああ!」
クリムゾンはもうほぼ完成しかけの機構を進路妨害という理由で破壊し、彼女が通り過ぎた後では中年たちの悲鳴がこだまする。
門まで来ると兵士が報告しようとするのを無視して、門の上まで駆け上がる。
「うん? 何よあれ?」
ヘルメスを磔にかかるとクリムゾンが門の向こう側を見て声を上げた。
放心していたヘルメスはその声で正気に戻る。
クリムゾンの視線の先を見ると軍隊がアイズ村の周りを包囲していた。
「な、そんな一体いつから!?」
ヘルメスが声を上げると同時に、精悍そうな戦士たちの波が割れ、中から馬車が姿を現し始める。
軍団の先頭に馬車が出ると、扉を開けて中から二人の男女が現れた。
生粋の貴族と言った感じの風体に、ガイアと同じエメラルドの瞳。
その二人はガイアの両親であるミルフィとディゼルだった。
「捕虜になりに来ました。門を開けてくださるかしら」
ヘルメスが凝視するとミルフィがそう進言してきた。
―|―|―
ところ変わってガクエン。
その国の宿の中でドロネコは決断を迫られていた。
ガイアを救出するか、幼女の雇い主の捜索をするか。
幼女がそう頼みこんでくる上、単純にこの事について全て知っているガイアが居なけば捜索が出来ないというのもあるので選ぶべきなのは前者だが、その選択はあまりにもリスクが高かった。
人間としての理性が後者を選べとささやく。
だが、商人としての勘は前者が一番得をすると言っている。
もう選択肢は前者一択のようなものだが、荒事を見ることはあっても参加することがなかったドロネコにはそれを選ぶのには覚悟が必要だった。
黒光りする爆弾を見ると、自分の深刻げな表情をしていることが分かった。
なんて表情をしているんだと思うと、こちらを逃がすときに見たガイアの鬼気迫る表情を思い出した。
あそこまでしてくれた人を裏切るのか、そう心がささやいて来る。
こめかみを指で擦って、思案する。
恩人の窮地を助けることと爆弾を監獄にしかけて爆発させることどちらが大切なことなのかを考える。
背中にじっとりした汗が流れるのを感じるとドロネコの中で覚悟が決まった。
ドロネコは爆弾を袋に詰め始めた。




