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国で暗殺されそうなので、公爵やめて辺境で美少女専門テイマーになります  作者: 竜頭蛇
テイマー条約第1条 心臓を貫かれたものはテイムされる
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2話 『ノースクラメル、さよならバイバイ』




 両親の手引きで、ノースクラメルをさよならバイバイした俺は、国境付近の森から近くの村を目指した。

 サバイバルには慣れているというクリムゾンの言に従い、川沿いを伝っていつでも水分を確保できるルートで進んだ。


 炎の中、海の中、草の中、蔦の中、原の中、門の中に進み、長旅で精神的に限界だった俺はクリムゾンに唆され、女子更衣室の中に入り、アラフォー女子たちにボコボコにされた。


 そして、今は衛兵の事務所の中だ。


「お兄さん! 困るよおぉ! 子供じゃないだから。コロシアムの女子更衣室の中に入っていちゃぁ」


「いや、それは僕じゃなくて、隣の……」


「あ、あたしは止めたんです。でもお兄ちゃんが、『俺は伝説になるんだよ!』とか言って止まらなくて……」


 幼女の姿に変形したクリムゾンが、堂々と泣きまねをしている。

 その姿は先ほどまで、女子更衣室で「略奪の時間じゃあぁぁ!」とか言って、俺がボコられている間に服をか攫っていた奴と同じ者とは思えない。


「まったく、妹を泣かせるなんて、どうしょうもない兄貴だね」


 被害者代表、コロシアムの覇者アダルマンティーが俺を詰って来る。

 そこのピンク野郎は泣いてませんと言ってやりたいが、言ったら肩パンされそうなので黙る。


「そうなんです。うちのアニムゾンは、あたしを魔物に投げつけるようなド畜生なんです」


 道中でガチムチの魔物にビビッて俺が投げつけたことをまだ根に持ってたのか。

 もう半月前くらいのことだろ。執念深すぎる。


「事実無根です! 皆さん、信じちゃいけません」


 俺はこれ以上心象を悪くされるのもごめんなので、必死に誤魔化す。

 だというのに、おれの様子を見るみんなの顔つきがもっと険しくなる。

 くそ、俺は冤罪だ。


「あんたがどうしようもないのは分かってるし、そのことについてはもうどうでもいいんだよ。あたしたちはねえ。アンタをとっちめている間にシーフにパクられた服の補填をして欲しいんだよ」


 アダルマンティーが吠えるとバックのガチムチアラフォーたちも口々に「そうよ、そうよ」とがなりたてる。


 いかんな。信用がないせいで、きっと、俺がクリムゾンがやりましたとか言っても信じそうなにない。

 じゃあ、服の補填をするしかないか。


 でもな。補填つっても出せるものなんてほとんどないぞ。

 お金はこれからの生活を送るうえで重要なものだし、服は長旅でボロボロだし、道中で魔物が落としたものについても、ろくなもんがないし。


「出せるのかい、出せないのかい? どっちなんだい?」


 俺が悩んでいるうちに、アダルマンティーがオーガフェイスをにじり寄らせ、威嚇してくる。

 迫力満点だ。

 子供の時に言った魔物園で、結界ごしにキメラに体当たりされた時のことを思い出す。

 あのときは結界があったから、まだ余裕だったが、ここには結界は存在しない。


 奴の期待にこたえられず、拳が飛んで来たら、一貫の終わりだ。

 俺は思わず金に手を伸ばしそうになるが、理性でそれをねじ伏せ、アイテム袋に手をスライド。


 アイテム袋を弄って、ろくでもないものの中から、何か使えそうなものがないか探す。

 ゴージャスぽいものを肩パシから取り出して、選別していく。

 すると最後に目玉ぽい文様のキラキラした宝玉が残った。

 デザインはちょっとあれだが、宝石だし、あら素敵てこともなきしにもあらずだろう。


「さ、これをどうぞ。まがいなりにも宝玉でございます」


 俺は奴の怒りを宥めるために、出来るだけへりくだった態度で、目ん玉宝玉をアダルマンティーに渡す。


「こ、これは……!」


 宝玉を受け取ったアダルマンティーは、信じられないと言った具合に目を見開くと、俺とクリムゾンを睨みつけるように見つめる。


「……どういうつもりだい?」


 アダルマンティーは受け取る前より不機嫌そうな調子で、こちらを睨むつける。


「……いや、補填のつもりでしたけど」


 俺がそう答えると、アダルマンティーの眉間の皺が更に深くなり、いきなり壁をぶん殴った。

 殴られた壁は粉々に砕け散る。

 あまりの出来事に俺は反応できず、アダルマンティーの取り巻きの顔には緊張が走る。


「よほど腕に自信があるようだね。あたしをここまでコケにするとは……。売られたケンカは買わせてもらう。あんたにデスマッチを申し込むよ。明日、太陽が一番明るいときにコロシアムに来な」


 アダルマンティーは睨み殺すような目でそう宣うと、開けた壁の穴から詰所を出ていく。 


 目のまえで器物損壊罪が起こっているというのに、衛兵はなんかハードボイルドの雰囲気を醸し出して、葉巻を吸ている。

 一番の無法地帯は奴の頭の中のようだ。


「兄ちゃん、バジリスクの戦利品を奴に渡すのはご法度だよ」


「どうしてですか?」


「あいつはバジリスクにはボコボコにされて、一度も勝ったことがない。それなのに、それを倒しただろう戦利品を渡されてみろ。本人には皮肉られて、バカにされたようにしか思えないだろ」


「……」


 いや、そんなこと言われても。

 エスパーじゃないんだから、分かんねえよ。


「悪いことは言わねえ。今日中にはこの街を出ていくんだな」


「え、そんなこと言われても。また野宿はちょっとお……」


 もう野宿は無理だ。ただでさえニート生活で磨耗していた人間性が、あれでかなり削れたのだ。

 これ以上、野宿を続けたら、人として再起不能になる。


「その通りよガイア、逃げずに正面から打倒するのよ」


 打倒て、お前、基本攻撃しないじゃん……。

 あのオーガが飽きるまで俺はコロシアムでプロレスごっこになるんだが。

 それこそ人間性喪失だろ。

 おわったころには、ガチムチ大好き豚野郎だ。


 おかしいな。敵国の辺境まで引っ越してきたのにあんまり、前と変わんない気がする。






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