エピローグ② 盗賊騎士団鉄腕ゲッツ
貴族としてはこじんまりとしたイクター男爵家の邸宅の庭。
そこで二人の王が対面していた。
一人は、拳闘王ことイースバルツ第十三代目国王アダルト・イースバルツ。
もう一人は神から恐れられる最悪の魔王ガイア・フォース。
彼らはこの土地で起きたイースバルツという国の存在を脅かす出来事の調停の為にここに居る。
この土地で起きた出来事は二つ。
国の象徴である帝龍の殺害と、魔王がこの土地に対して行った事実的な侵略である。
後者については、イクター家の当主ヘルメスがあらかじめ王に直談判したが、王はヘルメスが著しく判断能力を失っているとして判断し、調停の席から外すという結果に終わった。
結果、この土地の領主を除いて王と魔王のみで事態の収拾の話しあいをするという奇妙であるがどこつり合いのとれた光景が生まれた。
周囲の人間は彼らの周りに集まり、王を守護するために睨みを利かすもの、中立に位置し、争いを仲裁に入るだろうもの、魔王に与し、王に与するものに牽制の為に殺気を送るもの。
ゼウスは成り行き上、魔王に与している側にいることになり、そこで二人と周囲の様子を見ている。
こちらの正面に位置している王の背後にいる黒の襤褸を纏った連中にはよく憶えがあった。
イースバルツに進軍する際に、何度もぶつかった連中だ。
彼らは国王の親衛隊である『盗賊騎士団鉄腕ゲッツ』だ。
親衛隊とは名ばかりで、国王を囮にして敵の兵站を奪うことや略奪を行うような奴らだ。
ノースクラメルでの評判は最悪だ。
先に挙げた兵站の強奪、略奪の他にも奴らは敵が嫌がることを全力を尽くしてやって来るからそれもしょうがないだろう。
奴らと交戦したノースクラメルの軍隊の大半は、兵站強奪、新兵殺し、侵攻した領土の焦土化で継戦不可能に追い込まれている。
その最悪の騎士団の団長のウォージマは、睨みを効かせる他の団員とは違い、人の好きしそうな顔のままだが、彼の左手はすでにアーツを発動させて黒いオーラでおおわれていた。
先ほどから奴のアーツがゼウスの、心臓とセイクリッドに対して何度もかけられる感覚がゼウスには不快に感じられてしょうがない。
仕方のないので、彼女はセイクリッドに手を添えるとアーツを発動させる。
宙に小さな雷電が走り、ウォージマがアーツを発動させている左手を貫く。
ウォージマは不自然に左手を痙攣させると、あからさまな殺気をゼウスに向けてくる。
ゼウスは意趣返しにそれを塗りつぶすような殺気をウォージマに向けた。
やっとやめる気になったらしく、視線を席上にいる二人に彼は目を向ける。
すると、しばし無言のままだったアダルトが口を開いた。
「……貴様には娘の件での恩義がある。だがそれと龍殺しと村の祭りに乗じて行った侵略についての話は別だ」
一度そこで区切ると王は魔王に向けて、飢えた獅子のような向け者に根源的な恐怖を植え付ける視線を投げかける。
ゼウスの地点からガイアの様子はみえないが、アダルトが嘲笑をしていないところをみるといつもどおりの冷めた瞳か、心ここにあらずと言った感情を感じさせない瞳をしたことは想像に難くない。
「イクター家の当主から報告でお前がノースクラメルの帝龍を殺した旨の報告を受け、実際に我も確認に駆け付け、その亡骸を確認した。帝龍の死は、一国の王がすべての政務を保留し、処理に回るほどのことだというのはもちろんわかるはずだ。そこで貴様に聞きたい。どうしてノークラメルと我が国の帝龍を殺したのか、その理由を」
アダルトは迂遠な口調で、どうして氷絶龍を殺したのかの真意を魔王に問う。
その質問には多分に魔王に対する威圧も込められていた。
だが一国の頂点からの恫喝に対しても、魔王の背はいつも通り泰然としている。
魔王がどんな解答をするのか?
この場にいる全員の視線が魔王に集中した。




